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第四章 魔動乱編

142話 ちゃんとしたお友達に

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 ルランが、去った……さっきまで殺伐としていたこの空間が、少し雰囲気が和らいだのを感じた。
 残っているのは、私と……見知らぬダークエルフだ。

 ルランの知り合い……でも、私に対する敵意とかは、感じない。

「いやー、ごめんねあのバカが」

 それが証拠に、笑いながらこんなことを言ってくるのだ。
 美人さんだけど、なんていうか親しみやすい。ルリーちゃんはかわいいタイプだけど、この人は美人タイプだ。

 すごくサバサバした人だな……それに、服装もなんというか、際どい。胸や下半身と、大事なところを隠している程度の服装だ。

「えっと、リーサ……さん」

「あははは、リーサでいいよ。堅苦しいのは嫌いなんだ」

 と、リーサは呼び捨てオーケーしてくれた。
 うーん、親しくしてくれるのはいいんだけど……ルリーちゃんやルランとはまた違ったタイプだな。

 なんていうか、ダークエルフだから、とあんまり気にしていないというか……

「えっと、あの人と、知り合いなんですか。
 それにルリーちゃんのことも、知ってるみたいでしたし」

 とにかく、話が通じるならばありがたい。さっきはルランとは話が通じそうで、通じない相手だったし。
 私を助けてくれたんだし、いい人……って認識でいいんだよね。

「まあ、アイツとは幼なじみみたいなもんかなー。
 っても、ダークエルフは数が少ないから、ほとんどが顔なじみなんだけどね」

 頬をかきながら、ルランとの関係性を語るリーサ。ルランと幼なじみってことは、その妹のルリーちゃんとも、か。
 ルランは人間を敵視し、ルリーちゃんとリーサは人間に歩み寄ろうとしている……ダークエルフにもいろいろいるんだな。

 いや、人間にだっていろんな人がいるんだ。それと同じこと。

「アイツが最近、この国で物騒なことしてるって聞いてね。探してたんだけど……
 まさか、こんな場面に出くわすなんて。ルリーちゃんの友達なんだって?」

「あ、はぁ、その……」

「いいよいいよ謙遜しなくて。
 そっか、友達かぁ……あの頃は、ルリーちゃん人見知りで遊ぶ相手も少なかったからさ。よくワタシとルランと三人で遊んだもんよ。
 そんな子がまさか、友達だって言ってくれる友達ができるなんて……お姉ちゃん嬉しい!」

 うわあ、この人めっちゃグイグイ来る。愉快な人、であることは間違いない。
 それに、ルリーちゃんをとても大事に思っていることも。

 それはそれとして、あまりの迫力に圧されてしまう。そういえば、クレアちゃんからあまりグイグイ行かないほうがいい、って注意されたことがあるけど……もしかして、普段の私ってこんななのかな?
 ……気をつけよう。

「でも私、ルリーちゃんのことなにも……」

「あぁ、あのバカの言ったことなら気にしなくていいって。全部話さなきゃ友達じゃないなんて、そんなわけないって。
 誰しも、友達相手だろうと話せないことの一つや二つあって当然」

「……」

 さっきルランに言われたことが、気になってないわけじゃない。相手のことを全部知らなきゃ、友達じゃないなんて……もしそうだとしたら、私はルリーちゃんと……いや誰とも友達になれないだろう。
 だって私には、十年以上前の記憶がない。自分のこともわからないのに、それでどうやって、自分のことを相手にわかってもらうのか。

 だから、リーサの言葉は、私の心をちょっと軽くしてくれた。

「リーサは、ルランを……止めるために、探してたの?」

 リーサは、ルランがこの国で変なことをしていると聞いて探していた、と言った。それは、その変なことを止めるために探していた、ということでいいのだろう。
 さっきのやり取りを見る限り、それで間違いなさそうだ。

 残念ながら、ルランには逃げられてしまったけど。

「そ。アイツが人間を恨むのも、わかる。
 けれど……だからって、誰も彼も見境なく殺していくなんて、いいわけじゃない」

「……なにが、あったの? ダークエルフは、人になにを……
 ルランやルリーちゃんは、いったいなにをされたの?」

 直接話したルランから、人への怒りが伝わってきた。そしてそれは、リーサからも……
 私を助けてくれたリーサでさえ、ルランが人間を恨むのはわかる、と理解を示しているのだ。その上で、ルランの行いはいけないことだとも。

 人とダークエルフ……両者の間には、私もまだ知らない深い溝があるように思う。
 なにがあったのだと、リーサに聞くと……彼女は困ったように、笑った。

「……これはきっと、私の口から聞くべきじゃないと思う」

「え?」

 私の口から聞くべきじゃない……それって、どういう意味だろう?

「気にしなくていいって言っても、エランちゃん、やっぱりあのバカの言ったこと、気にしてるでしょ」

「!」

 それは、図星だった。
 気にしなくていいと、リーサは言ってくれた。でも、私がルリーちゃんのことを知らないことに、変わりはない。

 そのことが、わかってしまっている。

「だったら、それはきっとあの子……ルリーちゃんから、聞くべきだと思うわ」

「ルリーちゃん、から?」

「えぇ。あの子の過去になにがあって、なにを思って今ここにいるのか。
 私が、全部教えることは簡単だけど……あの子自身の口から、聞くべきだと私は思うわ。キミも、そのほうがいいんじゃない?」

 ルリーちゃん自身の口から……か。確かに、そのほうがいい。
 リーサはいい人だけど……やっぱりルリーちゃんの話を聞くなら、ルリーちゃん本人からでないと。

 もっとも、素直に話してくれるかはわからない。話すのが嫌だと言うなら、無理に聞き出すつもりもない。
 でも……知りたいんだ。ルリーちゃんのこと、もっと。

「……迷いは晴れたみたいね」

「うん。ありがとう」

 おかげで、やることが見えたよ!
 これまで、触れないようにしていた……ダークエルフの、いやエルフの問題。"殺戮の夜"ってものがあって、なにがあったかを知って……
 でも、それ以上を知るのを、どこかためらっていて。

 でも、もう迷わない。なにがあったとしても、私はちゃんと受け止める。
 そして、それも込みで……改めて、ルリーちゃんとちゃんとした、お友達になるんだ!
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