史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星

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第四章 魔動乱編

227話 執念と困惑

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 ダークエルフに、人間……対立する二人の温度差は、かなりあるように見える。いや見えるじゃなく、実際にそうだ。
 一方は相手を今にも噛み殺そうとする勢い。一方はそんな敵意を向けられていながら余裕綽々。

 正直、この二人の間に入るのはかなり勇気がいる。

「そんな怒んないでってばー、アタシがアンタに、なにかした?」

「あの魔獣を操っている、それで充分だ」

「ふぅん」

 ダークエルフの故郷を襲った魔獣、その同系統のものが今、向こうで暴れている。
 その魔獣を操っている以上、ランノーンがダークエルフが滅んだ件に関わっているのは確実だ。ルランには、ランノーンを斬る理由がある。

 ランノーンもまた、ルランを……ダークエルフをおびき出すために、あの魔獣を呼んだ。その理由は、生き残りを消すため………
 だからお互いに、引く理由はないのだ。

「安心しろ、すぐに殺しはしない……俺たちの故郷を、仲間を、すべてを奪った貴様たちを、全員見つけ出し、みんなと同じ痛みを与えて殺す」

「おー怖。やれるもんなら……」

「やるさ」

 構えるルランの目には、憎悪があった。憎悪の感情が、ルランの緑色だったはずの瞳を、黒く黒く染め上げているように見えた。
 相対しているのは私じゃないのに、寒気がする。

 そんな敵意を受けても、表情一つ変えないランノーンは……なんか、余裕を通り越して不気味だ。

「あの魔獣を呼び出しても、出てきたのはアンタ一人。けど、この国にはもっとダークエルフがいると思うんだよね。
 だからさぁ……アンタの首を掲げれば、他の奴も出てこざるを得なくなるんじゃないかなって!」

「! それこそ、やってみろ!」

 それは挑発か、それとも本当にそうするつもりなのか。苛立つルランは、ランノーンへと突っ込む。それも、先ほどよりも速い。
 どうやら、魔力で足を……いや、全身を強化しているみたいだ。身体強化魔法を、全身に纏わせている……やはり、エルフ族は魔力の扱いに長けているのか。

 ルランの速度が上がり、剣を振り回す速度も上がる。あのときのダルマスのように、足から手へと、身体強化魔法を部分移動してはいない。
 猛攻が、全体的に激しくなる。

 それを、ランノーンは……

「っ、当たらない……!?」

 驚愕するルラン。その手に握る剣は……ランノーンへと、触れてはいない。触れる寸前で、弾かれている。
 まるで、見えない壁でもあるかのように。

 魔力防壁だろうか。だが……

「ならば、魔力が切れるまで打ち続けるだけだ!」

 ルランは、何度も何度も剣をぶつける。見えない壁へと。
 ルランの剣は、触れたものの魔力を吸い取る。それはどうやら、相手に直接触れないでもいいらしい。ランノーンが展開した魔力防壁、それに触れることでランノーンの魔力を吸い取る。

 そうすれば、いずれはランノーンの魔力が尽きるはずだ……

「……っ、手応えが、ない……?」

 でも、ルランは困惑の表情を浮かべた。そしてつぶやくのだ、手応えがないと。
 多分、触れたものの魔力を吸い取る際、魔力を吸い取る感覚のようなものがあるのだろう。でも、今はそれがない。

 つまり、ランノーンの魔力が吸い取れていない……

「魔力防壁じゃない……?」

「関係、ない!」

 ランノーンの身を守っているものは、魔力によるものではない。少なくとも、ランノーン自身の魔力では。
 けれど、ルランは関係ないと叫び、剣を打ち込んでいく。なにが相手でも、ルランは引くつもりはない。

 その気持ちが強くなっていった結果か……ピシッ、という音とともに、なにも見えない空間にヒビが入る。

「おっ……」

 それを見て、ランノーンが初めて驚きの表情を見せた。ヒビが入ってことは、ルランの猛攻が通じているってこと……
 本当は、楽々防げるつもりだったんだろうか。

 気のせいか、ルランの剣の刀身……ビームのようなそれは、出力が上がっているように見える。
 これ、私いらないんじゃね?

「砕けろ……!」

 見えない壁に、確かにヒビが入り……それは、バリィンと甲高い音を立てて、砕けた。
 ルランの執念が、ランノーンの力を上回った。

「これで……
 ……っ!?」

 終わりだ、と。剣を振りかぶり、目前のランノーンへと振り下ろそうとしたそのとき……ルランの動きが、止まった。
 いや、それだけじゃない。表情にも、変化が……今まで怒りで塗りつぶされていた表情には、今困惑が浮かんでいる。額には、汗まで流れている始末。

 まるで、見てはいけないものを見てしまったよう。だけど、私にはなにが起こっているのかわからない。
 ルランはなにを……

「リー……サ?」

「え……」

 確かに、ルランの口から聞こえたその名前は……私の、知っているものだった。
 もしかして、リーサが近くにいるのかと思い、周囲を見回してみるけど……誰も、いない。

 どういうこと? なんでルランは、ランノーンの顔を見てリーサなんて……
 ……顔を、見て?

「もしかして、リーサに見えているの?」

 ランノーンは、自分をダークエルフとして周囲に認識させていた。つまり、人から見た自分を別人のものへとずらすことができる。
 ってことは、今、ランノーンは……ルランに対して、リーサの顔であると認識させているってこと?

 そもそも、なんでランノーンは、リーサの顔を知ってるんだ? ダークエルフは似た特徴の人が多いとはいえ、別人ならばルランがリーサの顔を見間違えるはずがない。
 ルランが見ているのは、間違いなくリーサの顔だ。じゃあ、どこでリーサの顔を知ったのか? 知らなければ、認識させることはできないだろう。

「っ……」

「あはっ、隙ありすぎ」

 今までの猛攻が嘘ではないかと思える、ルランの隙……それを、ランノーンが見逃すはずもなく。
 ルランの腹部に、ランノーンの膝が打ち込まれた。
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