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第六章 魔大陸編

423話 みんな治療中

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「ん、ぅ……」

「! 目が覚めた?」

 じっと、眠っているルリーちゃんの姿を観察していた。
 すると、彼女はまぶたを動かし……小さな声を漏らしてから、ゆっくりと目を開けた。

 ルリーちゃんのきれいな緑色の瞳が、露わになる。

「……ぁ……」

「私のこと、わかる?」

「……エラン、さん……」

 どこか不安そうに首を動かす、ルリーちゃん。
 その姿に話しかけると、ルリーちゃんの首はこちらに向いて……私を、見た。

 それからゆっくりと、私の名前を口にした。

「自分の名前は? 種族は? ここどこだかわかる?」

「……ルリー、です。私は、ダークエルフ……
 ここは……魔大陸、でしたよね」

 私の質問に、ルリーちゃんはゆっくりとだけどしっかり答えていく。
 一つ一つを確認して、私は胸を撫で下ろした。

 よかった……記憶障害とか、そういうのはなさそうだ。

「そっかぁ、ちゃんと覚えてるね」

「あの、私……」

「なにがあったか、覚えてる?」

 脳に問題はなくても、それはそれとしてぼんやりとしている。
 寝起きの時はこんな感じだけど、ルリーちゃんの場合はそれだけじゃないもんね。

 眠ってしまう前、なにがあったのか……次第に思い出したのか、ルリーちゃんは目を見開いた。

「そうだ、私……ごめい、わくを……!」

「いいからっ。寝てて」

 自分が、なにをしたのか……なにがあったのかを思い出したルリーちゃんは、ベッドから起き上がろうとする。
 でも、いきなり体を動かしたせいで痛むのか、ルリーちゃんは表情を歪めた。

 寝たままでいいからと、私はルリーちゃんを寝かせる。

「魔大陸の環境のせいで、魔力が暴走……我を、失ってたんだよ」

「……はい」

 事実確認をすると、ルリーちゃんはうなずいた。
 そして、私を見る。

「エランさんが……助けて、くれたんですか?」

「ううん。私じゃないよ」

 ルリーちゃんの質問に、私は首を振って答える。
 それから、視線をルリーちゃんの奥側へ。私の視線を追い、ルリーちゃんも首を動かす。

 ルリーちゃんの奥のベッドに眠る、人物へと。

「ぁ……」

「ラッヘがね。ルリーちゃんは私に任せて先に行け―って」

 そこには、ラッヘが眠っていた。
 ルリーちゃんを止めるため、その場に残ってくれたラッヘ。そこでなにがあったのか、正直私にはわからない。

 でも、ラッヘがルリーちゃんを止めてくれた。それだけは、わかった。

「ラッヘ、さんが……」

「起きたら、お礼言わなきゃね」

「……はい」

 ラッヘが起きたら、二人でお礼を言おう。
 きっとラッヘは、素直に受け取りはしないだろう。

 ほっとした様子のルリーちゃんは、ラッヘの体の異変に気付く。

「包帯……エランさんが、手当てをしてくれたんですか?」

「いんや、手当てはガローシャたちが。私も、目が覚めたのはさっきなんだよね」

 一連の事件が終わった後。ガローシャは、たった一人で私たちをこの部屋まで運んだ。
 その際、ルリーちゃんとラッヘの体に包帯を巻いたりと、治療してくれたのだ。

 回復魔術が使えれば、すぐに傷は塞がる。でも、どうやら魔族は回復魔術を使えないみたい。
 理由はよくわからないけど、自己治癒力の高い魔族は回復魔術を覚えようとはしないんじゃないかとか。

 ちなみに私は、なんか勝手に体が回復した。
 消耗しているとはいえ、クロガネと契約していたおかげだろう。

「そうですか。あの人たちにも、お礼を言わないとですね」

「だねー」

「それと……えっと……」

 ルリーちゃんがなにを聞きたいのか、それは言われなくてもわかる。
 でも今は、起きたばかりだ。あんまり情報を詰め込みすぎるべきじゃない。

「エレガ、ジェラ、レジー、ビジーちゃん……ううん、ビジー。
 四人とも捕まえて、監視してるから」

「そうですか、よかった……ぁ、でも……」

「大丈夫、誰より頼りになる監視員だから」

 だから、軽くだけど情報を伝えておく。
 一気に全部は詰め込めないけど、気にしていたことを軽くなら、いいだろう。

 魔大陸に現れた、黒髪黒目の人間四人。
 彼らは拘束して、私の目の届く範囲に置いている。

 彼らを監視しているのは、クロガネだ。消耗しているとはいえ、私含めこの場の誰より頼りになる。
 また負担をかけてしまうのは、申し訳ないけれど。

 今度、クロガネにもお礼をしないとね。
 クロガネ、好物とかあるんだろうか。

「今は、ゆっくり休んで、体を治して」

「……はい」

 この地を離れるのは、ルリーちゃんとラッヘが目覚めて……そして、元気になってからだ。
 それまでは、休息の時間。魔大陸に来てから、気の休まるときはなかった。

 だから、せめて今くらいは。ちょっと休んでも、罰は当たらないだろう。
 みんなだって、きっと大丈夫だから。

「! あ、目が覚めたようですね」

「ガローシャ」

 こうして、暇を見つけてはガローシャは、お見舞いに来てくれる。
 戦争が終わったばっかりで、いろいろ忙しいだろうに。ありがたいことだ。

 ガローシャのおかげで、魔族にもいい人がいるのはわかった。
 ラッヘが目を覚ましたら、お別れなのは寂しいけど……それは、ガローシャもちゃんとわかってくれている。

「それまでは、こうして……」

 優しい雰囲気に、包まれていたいと……そう、思った。

 ……その後。時間の測り方がわからないから確かじゃないけど、多分三日……を過ぎても、ラッヘが、目を覚ますことはなかった。
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