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第六章 魔大陸編

437話 見えた目的地

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 クロガネの速度は、私たちが普通に歩く何倍、何十倍……それ以上に、速い。
 だけど、魔大陸を抜けても別の大陸どころか、まだ島一つさえも見えない。

 広大な『ウミ』が広がっているだけだ。大陸はかなり大きかったけど、『ウミ』って言うのはそれ以上に大きいんだな。

「ねえ、リーメイは足がお魚なのに、水の中居なくてもだいじょうぶなの?」

「うん、問題ないヨ。人と同じように、生きていけるようできてるかラ」

「そっかー」

 他にやることがないと言えばそうなんだけど、ラッヘとリーメイの会話が耳に届く。
 感性が似ている二人は、ずっとしゃべっていても飽きないようだ。見ていて微笑ましい。

 多分、人間の国に行ったことのないリーメイ。エルフ族だから長く生きてきたけど、そのすべてを忘れてしまったラッヘ。
 二人にとって、人間がたくさんいる場所に行くのは、初めてだ。

「リーメイは、これまで人間にあったことはあるの?」

 私は、聞いてみる。リーメイがいたのは、魔大陸の近くの『ウミ』だ。
 あの付近に、人は住んでいない。魔族ならまだしも、人間に会ったことはあるのだろうか。

「昔、会ったことあるヨ。でも、ここ百年ほどは会ってないかナー」

「私は会ったことない!」

 リーメイが答え、その次にはいっ、と手を上げたラッへが答える。
 ラッへの場合、人に会ったことがないのではなくて、その記憶も丸々忘れてしまっているということなのだけど。

 それよりも……今リーメイ、すごいこと言わなかった?

「ひゃ、百年?」

「うん、百年!」

 私の疑問に、リーメイは当たり前だというように答えた。
 なんだろうこの反応。私がおかしいのか? なので、ルリーちゃんを見る。

 だけど、ルリーちゃんもまた、驚いた表情を浮かべていた。

「……人魚族って、百年も生きるの?」

『人魚族の血は、不老不死になる力を持っていると言われている。その血を持っている人魚族自体も、エルフ族ほどではないが長生きだし、よほどのことがないと死なん』

「へぇー」

 ニンギョ、不老不死……まだまだ知らないことが、たくさんあるな。
 血が、不老不死ねぇ……すごいんだな。

 だけど、そんな力持ってるってわかったら、いろんな人たちが狙ってきそうだ。
 特にここにいるエレガたちには、聞かせられない話だね。

「クロガネさんは、なんて?」

「……ニンギョ族も、長生きする種族なんだってさ」

「そうなんですね」

 クロガネの言葉が聞こえないルリーちゃんには、私の言葉で伝えるしかない。
 嘘は、言いたくないけど……エレガたちが聞き耳を立てているかもしれないので、心苦しいけどごめん、ルリーちゃん。

 ……本人に、自分にそんなすごい血が流れているという自覚は、あるのだろうか。

『む、契約者よ。大陸が見えたぞ』

「! ホント!?」

 クロガネの呼びかけに、私は進行方向を見た。
 先には確かに、大陸のようなものが見える。ようやく、『ウミ』以外の景色が見られた。

『人大陸だな、間違いない』

「じんたいりく」

 それは多分、私たちが暮らしていた……大陸の名前なんだろう。
 よかった……なんにせよ、これでみんなのところに帰れる。

 見知った土地に入ってしまえば、魔力探知で知っている人の魔力を探せばいい。クロガネの速度なら、あっという間だ。

「ようやくですね、エランさん」

「うん」

 魔大陸に飛ばされてから、約一週間……だっていうのに、実際にはもっと長くいたような気がする。
 いろんなことがあったもんな。クロガネと会って、魔族と会って、エレガたちと戦って、ラッへの記憶がなくなって……

 さっきには、ニンギョのリーメイとも会った。

「みんな、無事だといいけど」

 だけど、いろいろあったのはきっと、私たちだけじゃない。
 残されたみんなにも、いろいろあったはずだ。

 早く、会いたい。結局、ルリーちゃんのこととか、いろいろどうするかはまだ、答えが出ていない。
 それでも……会いたいんだ。みんなに。

「ようやく……」

 戻ってきた……魔大陸に飛ばされたときは、どうなるかと思ったけど。
 だけど、大陸が近づいてきたとき……クロガネは、飛ぶ速度を緩めた。

「! どうしたの、クロガネ。もしかして、疲れちゃった?」

『いや……そうではないのだが。このまま大陸に入って、いいものかと思ってな』

 動きを緩めたクロガネが、どこか心配そうな声で言う。
 その意味がわからずに、私は首を傾げていたんだけど……しばらく考えて、ようやくその意味がわかった。

 そうだよ……クロガネみたいな巨大なドラゴンがいきなり上空に現れたら、みんなびっくりするよ。そもそもドラゴンなんて存在自体、不明点の多いものだ。
 もしかしたら、敵だと間違われて狙い撃ちとか、されるかもしれない。

「なるほど、それは困るね……というか、私が気づくことだったよね。ごめん」

『気にすることはない』

 クロガネが飛んで行けばすぐに目的地につくけど、その途中で他の人を怖がらせたり、狙われたのではたまったものではない。
 体を透明にする……って魔法は、使えなくはない。でも、さすがにクロガネほどの大きさを透明にするのは無理だ。

 今の私の力じゃ、人一人……せいぜい二人。
 クロガネの頭一つを透明にできれば、いいほうだろう。

 これは、このまま進むわけにはいかない。なので……
 大陸の端に着陸し、ここからは歩いて目的地を目指すことにした。
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