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第七章 大陸横断編

473話 魔女さん出ます

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 上空を飛んでいるのは、鳥型の大きな魔物だ。
 全身が黒く、瞳は赤い。もしかしたら、餌を求めてこのあたりを飛んでいるのかもしれない。

 魔物は雑食だ、なんでも食べる。人間でも、モンスターでも。
 だから、モンスターだらけのこの村は、かっこうの狩場ってわけだ。

 あいつが村人を襲う前に、対処を……そう思って、杖を手にしたけど。
 その先を止めたのは、魔女さんだった。

「ここは私に任せてくれないか」

 頼もしい言葉と共に、魔物を見上げた。
 その姿に、私は構えかけていた杖を下ろす。

 これはあれだ、魔女さんの実力を見れるまたとないチャンスだ。
 この平和な村では、魔法を使うような争いごとなんて起こらない。ああして魔物が襲ってこない限りは。

「じゃあ、お願いしようかな」

「うむ」

 自分で魔女と名乗り、師匠と交流があって……師匠が好きすぎるあまり、自分の顔を師匠の顔に変えてしまった、性別不明の人。
 この村で唯一の人間。そんな魔女さんの、実力とは。

「あ、あの……杖は、持っていないんですか?」

「必要ない」

 魔導の杖は、魔法や魔術の制御をものにするためのものだ。
 逆に言えば、杖がなくても魔導は撃てる。でも、制御が効かない。せいぜい身体強化魔法くらいだ、杖なしで扱えるのは。

 それを使わないってことは、よっぽど魔導制御に自信があるってことだ。
 私だって、杖なしじゃそこまで魔導を扱えるわけじゃないのに。

「さて……しかし、魔物だからといってこちらから仕掛けるのもな。アレはまだなにもしていないし、私は自分から仕掛けるほど野蛮では……」

「ビァアアアアアア!!」

「言った早々か」

 魔物は雄叫びを上げ、口の中に魔力を溜まる。
 そして、口の中の魔力の塊を自分よりさらに上空に打ち上げ……ある程度の位置で、魔力が爆散する。

 いくつにも分かれた小さな魔力の塊が、上空から村へと、降り注ぐ。

「え、エランさん!」

「うん!」

 魔女さんに任せるとは言ったけど、上空から降り注ぐ魔力の塊を放っておいたら、周囲に甚大な被害が出る。
 あれを防ぐ手伝いくらいは、いいよね。私は、杖を構え……

「任せろと言っただろう」

 魔女さんはパチン、と指を鳴らして……杖を向けていた先にあった、魔力の塊が一瞬にして消えた。
 それも、一つだけではない。降り注いでいた魔力の塊、そのすべてが消えたのだ。

 すべてが、一斉に、一瞬にして……

「な……」

 なんだ、これ。
 魔力の塊を、こちらから迎え撃った攻撃で打ち落とす、というのならわかる。それでも、あれだけの数を一斉にというのは意味わかんないけど。

 でも今のは……消えた。全部、一瞬で、パッと。
 消えたのだ。

「わー、すごーい!」

 この状況に素直に喜びを表現しているのは、記憶喪失で子供みたいになっているラッヘだけだ。

「ふむ、喜ぶ娘の姿。胸躍るな。
 …………おい、ここはツッコむところだぞ」

 また魔女さんが気持ち悪いことを言っているけど、それに反応出来ないほど、目の前の光景にあっけにとられていた。
 だってそれほどに、すごい光景だったから。

「やれやれ……少しは、私のすごさを理解でき……」

「ビギャァアアアア!!」

「……まだ私がしゃべっているだろうが」

 自分の攻撃を打ち消され、それを理解しているのかはわからないけど……攻撃を消した魔女さんに向かって、魔物が突撃してくる。
 くちばしを開くとその中には鋭い牙が覗き、しかもこうして近づいてくると……思っていたより、でかい!? 人より大きい!

 それを魔女さんは……避けるでも迎え撃つでもなく。
 素手で、受け止めた。

「……あの巨体を……」

「受け止め、た……」

 私も、身体強化の魔法を使えば魔物の突進くらい止められるだろう。
 でも……魔女さんが、身体強化の魔法を使っている様子はない。魔法の気配がない。

 つまり、素の力であの巨体を受け止めていることになる。
 それも、片手で。

「ビ、ギギ……!」

「どうした魔物、そんなものか?」

 魔物は、おそらく押し切ろうと力を込めている。
 だけど魔女さんは涼しい表情を浮かべるばかり。

 そして魔女さんは……魔物を、思い切りぶん投げた。

「ふっ」

 吹っ飛んでいく魔物。それに合わせて、魔女さんは飛び上がる。
 魔物は凄まじい速さで吹っ飛んでいたが、魔女さんは早くもそれに追いつく。

 そのまま魔物の頭を掴み、空中に叩きつけた。
 ……空中に叩きつけた!?

 まるで、そこに見えない壁でもあるかのように。何度も、何度も。

「ピッ……」

「よっと」

「!」

 魔物が弱り、動きが鈍くなったところで魔女さんは空中を蹴り、私たちの前まで戻ってきた。
 そして、魔物を地面に放り投げる。

 このまま、とどめをさすのか……そう、思っていたんだけど。

「よーしよし」

 魔女さんは、魔物の頭を今度は優しく撫で始めた。
 さっき自分で痛めつけておいて、今度は甘えさせるように。どういうことだろう。

 すると、気のせいか魔物の体が……いや、気のせいじゃないなこれ。
 輝きだした魔物の体は、強くなる光に包まれる。なにが、起きているんだ。

 何秒か……輝きが、だんだんと小さくなっていく。
 光はやがて、消えていき……そこには、小さな鳥が残っていた。

「……ん?」

 鳥型の魔物。その姿は、どこにもなく。
 小さな鳥のモンスターが、魔女さんの手の中に抱えられていた。
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