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第七章 大陸横断編

483話 知らない女児からいきなりママ呼ばわり

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『エラン・フィールド。キミの周囲には、災いを呼ぶ存在が近づいている』

『災いを呼ぶ……それは、白髮黒目の、少女の姿をしている』


 魔女さんの言葉に、私はしばらく言葉を失っていた。
 どうやら私のことを占った結果、そういう結果が出てきたらしい。

「それって……
 でも、私のことを占ったって、さっきはなにも……」

「あぁ。今朝キミのことを占ったときは、なぜかモヤのようなものがかかっていて、なにも見ることはできなかったが……」

 私は、今朝も魔女さんに占っている。
 そのときは、魔女さんの言うように私のことはなんにも見えない、と出ていたらしいのだけど。

 ……白髮黒目の少女が、災いを呼ぶ?
 私の周囲でその特徴を持つ人は、二人しかいない。

「魔女さんは、少女じゃないもんね」

「わざわざ口に出して言うことか」

 一人は、魔女さん。でも、魔女さんはその特徴に微妙に当てはまらない。
 となると、もう一人の人物……

「フィルちゃん……」

 あの、小さな女の子ってことになる。
 もちろん、これは魔女さんの占いによるものだ。それに、『近づいている』って言葉から、すでにいる人物じゃなくて後々現れる人物って可能性もある。

 ただ……

「占い云々の前に、知らない女児からいきなりママ呼ばわりされる時点で警戒しておくべきだとは思うがな」

「ごもっとも」

 フィルちゃんは私をママと呼ぶ。その理由は、わからない。
 特徴が私と似ているんだろうか、フィルちゃんのママは。でもなあ、黒髪黒目って目立つからなぁ。

 フィルちゃんを保護してもらったあとに彼女の親を探してもらったけど、黒髪黒目も白髮黒目も、該当する人物はいなかったらしいし。

「そうだね、気をつけておくよ」

 とはいっても、具体的になにを気をつければ……とは思うけど。

「いろいろと、ありがとうね。初めて会った私たちに、ここまで」

「なあに、他人の気がしなくてな。なんせあのグレイシア・フィールドの弟子だ……つまり、私の弟子も同じだろう?」

「……」

「そんな目をするなよ。
 まあ、それは半分冗談だとして」

 ……半分なのか。

「久しぶりに会った人間だ。悪い奴らでもないし、ならば良くしてやりたいと思うのが人情だろう」

「そういうもんかな」

「そういうものだ」

 魔女さんがこの村を作ってから、訪れた人間はどれほどいたのだろう。
 いたとしても、これまで暮らしてきた中でその大半はモンスターと過ごしてきたはずだ。

 だから、久しぶりに会った人間相手にテンション上がってた、ってことか。
 逆に立場なら……まあ、わからないでもないよね。

 相手が悪い人じゃなければ、気持ちはわかる。

「それに、ここの連中もキミたちに好印象を抱いている。
 だからこそ、こんなお祝いまでしているんだからな」

「なんか、個人個人で楽しんでいるだけのような気もするけど」

「ま、そういうな」

「……ふふ、そうだね」

 みんな楽しんでいて、みんな笑っていて。でもそれでいいのかもしれない。
 人とモンスターとが笑い合っていて、不思議な空間だなぁ。

「せっかくだし、キミも最後まで楽しんでいくといい」

「うん。
 魔女さんは、行かないの?」

「私は、離れた所から見ているさ」

「そっか」

 せっかく私たちのためにお祝いをしてくれているのだから、存分に楽しまないと。
 魔女さんをその場に残して、私はみんなの輪の中に戻っていく。

 そういえば、せっかくのパーティーなんだし、クロガネも楽しんでもらった方がいいのかも。

『契約者よ、ワレのことは気にするな』

「え、でも……見てるだけって、寂しくない?」

『こうして見て愛でるだけでも、充分よ。
 それに、ワレが表に出てはこの会場をめちゃくちゃにしてしまうだろう』

 ……確かに、昼間の広場のように他に誰もいなくてなにもない場所なら、クロガネの巨体は任だいないけど。
 この場所じゃ、そうもいかないよなぁ。

「じゃあ、ちっちゃくなれない? もしくはあれ、人に姿を変えるみたいな!」

『そんなことはできん』

 ふむ、できんか……クロガネにも、できないことがあったんだな。

 とりあえず、クロガネは私に存分に楽しめと言って、眠ってしまった。
 クロガネほどの巨体ともなると、その場に出現させるのも考えようかぁ。

「エランさん、どうしたんです?」

「んー。ちょっと魔女さんと話してきただけだよ」

 私は戻る途中に、机の上にあったそばを取り、それをすすりながらルリーちゃんのところへ。
 歩きながら食べるのは行儀が悪いけど、まあ今日は無礼講ってことで。

「なにか、気になることでもあったんですか?」

「まあ、ちょっとね。でも、あとで話すよ。
 今は、この時間を楽しもう」

「……はい」

 私の占いの結果を、別に秘密にしておくつもりはない。
 落ち着いたら、ルリーちゃんにも話そう。フィルちゃんは私以外にルリーちゃんに最初に懐いたから、私が気がつかなかったことをなにか知っているかもしれない。

 私がわかるのは、魔法は使えないらしいってことくらいだもんなぁ。あとは、年相応に元気で。
 私をママって呼ぶこと以外は、ごく普通の女の子。そんな子が、災いを?

 なにかの間違いだとは、思うけど……

「みんな、楽しんでる!?」

「うん、楽しんでるよ。ありがとうパピリ」

「よかった!」

 ま、自分でも言ったことだ。今は、この時間を楽しもう。

 このどんちゃん騒ぎはしばらく続き、空が真っ暗になった頃自然と解散となった。
 みんな騒ぎ疲れたみたいだ。
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