書き換えオーダーメイド

夜船 銀

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出会い

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「うまくいかないもんだなぁ…。」近頃すっかり口癖になってしまったセリフをつぶやきながら古山 栞はため息をついた。中学校に入学してはや二ヶ月、栞にはあまり友達ができずにいた。小学校まではその優しい性格で友達も多く、自分でも人付き合いは得意だと思っていた。しかし仲の良かった友達と違う中学校に進んだこともあってか、知り合いが一人もいないクラスで上手く話すことができず、人の輪から完全に取り残された気分になっていた。そんな状態なので一緒に帰る人もおらず、今日も一人で帰り道を辿っていた。『はぁ…さびしいなぁ。』もしこのまま一人も友達ができずにずっと一人ぼっちだったらと考えると、栞は不安に押しつぶされそうになるのです。そのときふと、誰かに自分が呼ばれたような気がして立ち止まりあたりを見回しました。歩道は夕方に差し掛かり少し薄暗くなってきていて、どこからか遊んでいる子供の楽しげな声が響いてきています。しかし、歩道の上には栞以外のひとはいません。『気のせいかな…』そう思って再び歩き出そうとするとまた自分を呼ぶ声が聞こえました。『栞』と。今度ははっきりと右の小道から聞こえてきました。悩んだ挙げ句、栞は小道の方に進んでみることにしました。自分を呼んでいる何かが待っているような気がしたのです。小道から小道へ、路地から路地へ。奥へ、どんどん奥へと進んでいきます。そうして自分でも帰り道が分かるか不安になってきた頃、突然開けた空き地のような場所に出ました。あたりは静まりかえっていて何の音も誰の声もしませんでした。まるで時が止まってしまっているような空き地の真ん中には小さな店が一軒、ポツンと建っていました。色あせた赤い屋根にくすんだクリーム色の壁、両開きのドアだけは自分の存在をアピールするように黄色とライトグリーンの装飾があしらわれた真新しいものでした。よく見るとドアの前に看板が立っています。「琥珀…堂?」それが私とあの店の出会いでした。
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