『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―

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獣人達の国

134:お説教

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「……ああそうだ。イリン。ちょっと耳かしな」

 キリーがそういってイリンに内緒話を持ちかけた。
 イリンは首を捻りながらも、構わないかと俺に顔を向けて確認をとってきた。

 別に断る理由なんてないので、俺は頷いて許可を出す。
 まあ許可を出すっていっても、そもそも俺の許可なんて必要ないんだけどな。

 俺が頷いたのをみると、イリンは自身の頭をまるで謝っているかのようにキリーに向かって下げた。
 その姿勢に「ん?」と思ったが、イリンの──と言うか獣人の耳は顔の横ではなく上についているので、その場所を考えればその姿勢も納得だ。

「よし。じゃあ……」

 キリーがイリンの頭に顔を寄せる。これから内緒話をするのだろう。
 だがいいのか?俺はまだいいとして、ここだとガムラには筒抜けだと思うが?

 だが俺の心配は意味がなかった。

「きゃぅっ!」

 キリーがポカリとイリンの頭を殴ったからだ。殴ったといっても軽くで、痛み自体はそれ程ないだろう。
 だがそんな事をされるとは思っていなかったイリンは短く悲鳴を上げ、今は殴られた頭を抑えている。

「これでよし」

 キリーは満足そうだが、なにが「よし」なのかわからない。

「アンドウ。これは本来あんたの仕事だよ」

 俺が悩んでいると、キリーはこちらを向いて真剣な鋭い表情でそう言った

「俺の仕事?」
「そうだよ」

 キリーがなにを言いたいのかわからない。俺の仕事とはなんのことだ?

「わかってないみたいだね。いいかい? 今日なにがあったか忘れたのかい?」
「今日? ……俺たちが帰ってきたときに家に侵入者がいて、イリンがそれを取り押さえた、か?」
「ああ、そうだね。……で? それだけかい?」

 それ以外にも何かあるんだろうか?
 俺が答えないでいると、キリーは「ハア」と呆れたように溜息を吐いた。

「確かにイリンは強いのかもしれない。いや、実際に強いんだろうね。でも、あの時は私達もいたんだ。少しでも安全にことを進めるために、協力するべきじゃ無かったかね?」

それは……確かにな。俺がもっとしっかりとめるか、やった後にはっきりと諌めるべきだった。

「それに、あの状況なら仕方ないと思うかも知んないけど、私は許可を出してなかった。家主の断りなく家に入って暴れる。それは相手によっちゃあ犯罪として訴えられるよ」

確かに、あの時イリンは自分が行く、とだけ言って俺たちに相談することもなく勝手にキリーの家に入って行った。
キリーはそんなことをしないだろうが、それでも状況と相手次第じゃ、キリーの言ったように訴えられるだろう。

「田舎の集落とか村とかなら別にそういうのも気にしないところが多いんだけどね、何せ村全体が知り合いだったり友人だったりで、大きな家族みたいなもんだからね。けどここは違う。ここみたいな大きな街でそんな行動をしたらすぐに捕まっちまうよ」

 俺のために。という理由で何かをやらかしていくイリンの姿が目に浮かぶようで、「捕まる」というキリーの言葉を否定できない。

「この子──イリンは大人になったって言っても、それは体だけの話だろ? 他の部分。常識とか感情の抑え方とかはまだまだ子供のままのはずだ」

 その通りだ。イリンは試練というのを達成したおかげで大人の体に成長したって言ってるけど、それは実際に時間が経って成長したわけじゃ無い。見た目だけの成長で、中身はなにも変わっていないんだ。

「本当ならこういうのは親がやるべき事なんだろうけどね。ここにはイリンの親はいない。だからあんたが教えなきゃならないんだよ。そういう常識とかっていうのは。……あんたはなんだかんだ理由をつけてうだうだ言ってるけど、こんな状況じゃあんたはイリンの保護者とか後見人とかそんな立場なんだろ?少なくともあたしはそう思ってるよ。ならしっかりしな」
「……ああ。……悪かった」

 ……そうだな。ついてきてしまった以上イリンの事は俺がどうにかしなくちゃいけないんだ。

 俺が落ち込んだのを見たせいか、イリンがキリーに対してムッとしているが、すぐにキリーから言葉がとんできた。

「イリン。あんたがアンドウのことを大切に思ってるのはわかるさ。けどね、それだけじゃあこの先やっていけないよ」
「どんな障害でも排除してみせます」

 イリンはそう言ったが、キリーは違うと左右に首を振った。

「そうじゃないよ。……今アンドウが落ち込んでるのはあんたのせいだ」
「私のせい?」
「そうだよ。あんたがおかしな事をしたせいでアンドウは自分の責任だと落ち込んでるんだ」

 キリーがそう言った途端に、イリンはバッと俺の方を見た。


「この先もアンドウといたいんなら、まずは常識を身につけな。村ではこうだった、とか今まではこれだったっていうのは捨てて、ちゃんとアンドウのそばにいられるだけの常識をね」

 最後に「じゃないと一緒にいられなくなるよ」とキリーが付け加えると、イリンはそのキリーの言葉を反芻する様に考え込み、今度は力強く頷いた。
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