『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―

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獣人達の国

135:なんか来た

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「……で、すっかりこいつらのこと忘れてたんだけど、いい加減警備に連れて行かないか?」

 細かい魔術具の仕様を話したり、イリンの件で説教されたりしているうちにだいぶ時間が過ぎていたようで、俺たちはこの家に侵入されたことをすっかり忘れていた。
 まあ話とは言っても途中で横道にそれながらほとんどが雑談のような感じだったので、当然の結果だ。

 ずっと座って話していたので固まった体をほぐすために、ぐっと伸びをした時にたまたま視界の隅に入ったので思い出すことができたのだ。

「ああそうだったね。じゃあ行くとしようか」

 キリーが同意してくれたのはいいんだが、一つだけ問題がある。それは……

「でもどうやって連れて行く? こいつらは五人で俺たちは四人。こいつらが歩ければ話は早いんだけど……」

 薬の効果的にどうなんだろうか? と思ってイリンのことを見ると、イリンはニコリと微笑みながら柔らかな口調で話す。

「もうしばらくはまともに動けませんし、まともに考えることもできないと思います。精々が体を揺するくらいでしょう」

 ……そんな状態になる自白薬なんてあんまりつかいたくはないなぁ。

 というかそもそもそんな優しそうな顔と声で言うようなことじゃないだろ。イリンの様子と言ってる事はチグハグでちょっとこわい。

「……イリン。その薬だけどなんらかの法に引っかかったりはするかい?」

 そういえばこれから警備に引き渡すんだから、そこでイリンが使った薬が違法なものだったらヤバイか。

「いえ。これは合法なものしか使っていません。ただ、混ぜるとちょっと効果が変わりますが、法には触れていません。依存性も一時的なものなので半日も経てば無くなります」

 ……なんかそんな感じの何処かで聞いたことがあるなぁ~。日本にいた時に脱法ハーブって名前のやつでさぁ……。
 依存性が短いって点では向こうのよりも優れているのか? ……いや依存性があるからこそ売れるんだから寧ろ劣ってるのか?

 ……まあどっちでもいいか。俺が使うわけじゃないから関係ないし。

「そうかい。そんだけ自信があるんなら平気かね」

 日本では問題になって騒ぎになるようなことでも、こちらでは問題にすらならないようだ。さっき説教してたキリーでさえ何も言わない。

 だが問題ない。便利だしこれからも使うときはくるかもしれないから。そんな時なんてこないほうがいいんだけどな。

 頭の片隅にあった日本の常識を放り捨てて、細かいことは気にしないことにした。



「案外簡単に終わったな」
「まあ今の状況でできることなんてそんなにないからね。それに祭りが近くて兵達も大変なのさ」

 街の警備を担当している者達からしたら明後日に祭りを控えたこの時期に問題を起こすような奴は疎ましいのだろう。俺たちが侵入者を連れて行くと、嫌そうな顔をして対応してくださったよ。

 だがこれでしばらくの間は面倒ごとは起きないだろう。少なくとも祭りが終わるまでは。
 もちろんキリーが言ったように警戒を完全に解くわけにはいかないが、それでも多少なりとも面倒が少なくなると言うのなら有難い。その間に向こうが何かしてきたときに対処するための準備を進めておこう。

 これで明日からはゆっくりできる。といっても忙しかったと言うか慌ただしかったのは今日だけで、今まではそれなりにゆったりした生活をしていたんだが、まあ気にするな。

 明日ゆっくりとしたあとは、ついに祭りの始まりだ。ガムラなんかは祭りというか武術大会にだけ集中しているが、俺は祭り自体を楽しむつもりだ。だって大会出ないし。

 だがそこで問題が一つ発生した。本当なら俺は一人で祭りを回るはずだった。それは強がりでもなんでもなく、一人が楽だからという理由である。寂しくなんてない。本当に寂しくなんてないんだ。分かってくれる者はいるだろうか……。

 ……まあいい。で、問題というのは他でもないイリンの事だ。今言ったように俺は一人で回るつもりだったのだが、そこにイリンがやってきた。好きな人と一緒に回れるのだから喜ばしい事なのかもしれないが、覚悟も何にもなかったところにいきなりこられても困惑しかない。

 ヘタレという事なかれ。二十五歳まで対して女性経験も女性との交友もなかった男にはかなり辛い状況なんだよこれ。今度こそ理解してくれる者はいるはずだ。いなければ泣く。

 俺、ガムラ、キリー、そしてイリンの四人で雑談しながらキリーの家に帰っていると、不意に前から歩いてきた青年と目があった。

 俺はさり気なく。だが素早くその青年から目をそらす。

「──!お前はっ!!」

 だが、俺が気づいたように向こうも俺に気づいてしまったようだ。

「あん……?」
「……? どうしたんだい?」

 俺たちを見て、正確には俺を見て言ったのだろうがキリーとガムラには青年が誰に向けて言ったのか分からなかったようで足を止めて首を傾げている。

「こんなところで足を止めると邪魔になるから行こうぜ」

 俺はそう言って二人を急かすが二人は歩くのを再開してくれなかった。

「いやでも、なんか呼んでんぞ?」
「いやいや。本当に俺たちに用があるなら俺たちが移動しても付いてくるだろ。だから行こうぜ」

 俺の言葉に二人が迷い、頷こうとしたその瞬間。青年からもう一度声がかかった。それどころか近寄ってきていた青年はおれに掴みかかろうとしていた。

「待て! お前だよ!」

 だがその手は俺に触れる前に悲しくもはたき落とされてしまった。

「──っ!    何をする!」
「ご主人様に触らないでください。──ウース」

 以前に何処かで見たような光景が再び俺の前で繰り返された。

 と言うかこいつ、あれだけはっきりと振られたのにまだ追ってくるのか。
 その行動力はある意味すごいが……良いものだとは思えないな。

 しかし……はあ。一難去ってまた一難とはまさにこんな状況なんだろうか?
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