『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―

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獣人達の国

147:あの時のやつ

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 武装した者たちの奥から俺たちに向けて声がかけられたようだが、誰だろうか?
 少なくとも俺の知り合いじゃないから、この場ではウースの知り合いしかないだろう。
 ウースはイリンを探す為に冒険者として色々活動していたようだし、その時の知り合いなのかも知れない。

 ……だがそうなるとちょっと面倒かも知れないな。
 見るからに権力者サイドっぽい感じのするやつを相手にして、ウースの事をかわすことができるんだろうか?
 もしかしたら強制的に戦えって言われるかも知れない。それなら権力者からの命令だから掟破りじゃないって言い張ることはできる。
 ……いや、それなもうすぐまだマシか。もっと最悪なのはなんらかの罪に問われて俺を捕らえようとした場合だ。
 その場合は俺はここから逃げ出すしか無くなる。流石に王国以外にもう一つ国を相手取るのは嫌だ。面倒なんてもんじゃすまない。
 まあそれも、この警備に守られた奴がどの程度の力を持っているのかによるんだけど……。

「アルディス様⁉︎」

 奥からやってきた集団がいきなりガシャガシャと鎧から音を立て始め、その中からたったったっという足音が響いた。

 武装集団の中から顔を出したのは、やはり声から推測した通りに幼い少年だった。
 その年齢は十二歳程度だろうか?    出会ったばかりの頃のイリンと同じくらいの身長をしている艶やかな金色の髪をした獣人の子で、多分猫系の獣人だろうか?
 見た感じ手や肌が荒れた様子もないので、かなりいいとこのお坊ちゃんって感じだ。
 もしかしたら王子様とか?    それはないか。なんでこんなとこに王子様がってなるし。
 予想としては観戦に来ていた貴族の子だろう。この国に貴族なんているか知らないけどそれ程的外れではないと思う。

 ウースの元に駆けつけると思っていた少年。
 だが、その少年は何故か俺の事を見ると、キラキラとした視線をしながら駆け寄ってきた。

「ありがとうございました!」

 ……なんだ。何が起こってる?    なんで俺がお礼を言われてるんだ?
 どうやらこの様子からしてこの子供はウースの知り合いじゃなかったんだろう。それはいい。権力で強制される事がなくなったのだから。
 でもなんでこの子供は俺のとこに来たんだ?    俺は知らないぞ? 
  
 ……というかなんかこの国に来てからこんな感じのことが増えてる気がするなぁ。
 向こうは俺の事を知っていて、俺は向こうのことを知らない。そんな状況によく出会っている気がする。
 ……はっ⁉︎ もしや俺は二重人格で、知らない間に勝手に動き回っているのか⁉︎
 ……。……うん。ないな。もしそうならイリンやキリー達が何か言ってくるだろうし。

 だが俺は本当に知らないぞ?    こんなに面倒くさそうな──っんん! 違った。身分のありそうな方々に礼を言われるようなことになったら忘れないと思うんだよ。
 流石にこんなに礼をされるような事をして忘れていたら、俺はもうボケている事になってしまう。それはまだ早いだろう。

「アルディス様!    おやめください!    貴方がこの様な者に頭を下げるなど、あってはなりません!」

 武装集団の中でも更に豪華な装備をしている者達が、アルディスと呼ばれた少年のそばに慌てて駆け寄った。おそらく側近とかそんな感じの者達なんだろう。

「ですが命の恩人に礼を言えぬなど、恥以外の何ものでもないではありませんか」
「……命の恩人?」

 その言葉で側近だけではなく周りの集団達までもが俺に視線を集める。……イリン。お前はなんでそんなに誇らしそうにしてんだ……。
 視界の端に映ったイリンは、何故か我が事のように誇らしそうに胸を張り耳をピンとしていた。ここからじゃ尻尾までは見えないけど、多分パタパタと動いているんじゃないだろうか?

「そうです。私が視察に行ったあの時、暴漢に襲われたところを助けてくださった方です」

 視察?    こんな子供が?
 いや、実年齢と見た目があっていないというのはこの世界ではよくある事だ。多分。
 だとしたらこの子供も、子供に見えて実は年がいっている可能性も無きにしも非ず。
 もしくは視察という名の旅行とかそんな感じだろう。偉い親を持っている為、その真似をして見たくなったのかも知れない。
 ……うん。多分そっちだな。年齢詐欺の場合だったら些か言動が幼すぎるし。背伸びしたい年頃なんだろう。

 まあそれはいいとして、この場はどうしようか?
 この子は俺を別の人と勘違いしてるみたいだし、間違いは解いておかないとだよな。このままじゃこの子の命の恩人として扱われてしまう。

「あの、大変恐縮ですがどなたかとお間違えではございませんか?    恐れを多くもあなた様のような高貴なお方とお会いした事はなかったかと存じ上げます」

 その言葉で、「なんだ勘違いか」という雰囲気が目の前の集団から流れ出した。

「いいえ!    そんな事はありません!    あなたはたしかに私を助けてくださった方です!」

 それでも諦めない少年。どうしたものかと側近の者に視線をむけようとしたところで、少年は更に声を上げた。

「確かに髪の色は違いますが、それでも助けていただいた方を間違えるなどありません!    私の名にかけて断言します!」

 少年がそう言った途端に周囲にいた者達がざわめいた。そして再び俺に色々なものが混じり合った視線を向けてきた。

 ……俺もイリンの里で生活していたから獣人が自身の名を大切にしているのはわかっている。そしてそれをかけるときはそれなりの覚悟かあるという事も。

 他のものは分かっていないようだが、側近と思わしき者たちは何人かは理解したように驚きを露わにしている。
 その反応から実際に俺と会ったことがあって、その時のことを思い出したんだろう。

 だけど、本当に会ったことがあるのか?    髪の色が違うって事はまだこの国に入る前だと思うんだけど、カケラも思い出せないんだが……。

 すると、それを察したのか少年は更に言葉を重ねる。

「あの時です!    連合国の街で路地で人間に襲われたところを助けていだたきました!」

 ……連合で、か。……。……ああ。

「──あの時のか」

 俺がそう言うと、思い出してもらったのがよほど嬉しいのかその少年は破顔した。
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