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獣人達の国
154:クーデリア
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「この後、娘にはよく言い聞かせておきますので、お二人はごゆっくり──」
グラティースのその言葉は最後まで続かなかった。
「何すんだ、お父様!」
再び勢い良く開けられた扉から赤い髪の女が入ってこようと足を踏み出し……。
バンッ!
再び勢い良く扉は閉められた。
だが今回はさっきとは違い、時間をおかずにすぐにもう一度扉が開いた。
そしてもう一度扉が閉められようとしたが、今度は予想していたのか閉まろうとする扉を押さえて無理やり入ってくる。
グラティースはその様子に「はぁ」と溜息を吐きながらも扉を押し込んでいた手から力を抜いた。
「なんのようですか? あなたには自室にて謹慎を命じたはずですが?」
「なんの用もないだろ! そこにあの男がいんだ! どうして私に教えないんだよ⁉︎」
「こうなるのが分かっていたからです。あの方は我々の客人であって貴女と戦わせるために来ていただいたわけではありません」
ある意味ではそいつと戦わせようとしていると言えなくもないが、最初の目的はアルディスの件に関してなんだから間違ってはいないな。
……しかし、なんでそこまで俺と戦いたがるのかねぇ。今言い争ってる王とでも戦えばいいじゃないか。親子なんだしそれぐらいできるだろ。
「今は戻りなさい。そのうち機会をつくりましょう」
「はあ⁉︎ そう言ってまた逃げられたらどうすんだよ!」
逃げられるものなら逃げたいよ。はぁ……。
「おい、あんた! 今からちょっと付き合え!」
これはガムラと同じ感じをやつだな。断りたいんだが、断ってもいいものなんだろうか?
俺は父親であり王であるグラティースのことを見ると、グラティースは呆れてように溜息を吐いた。
「はぁ。少し落ち着きなさい。客人だ、と言ったはずですよ?」
「そんな事より──っ‼︎」
突如、部屋の中に暴威が吹き荒れた。
っ! これはさっきのと同じ……。またこいつか……。
先程アグティースに向けて放たれたものよりもさらに強い圧力。それが俺の目の前にいる男から放たれている。
……やっぱりこいつはこの国の王だな。頼りないなんてとんでもない。
「落ち着きましたか?」
「あ、ああ……」
赤髪王女がそう頷くと、今までの威圧感が嘘のようにスッと消えてなくなった。
だがそれでも俺と戦いたいという感情がなくなったわけではないようで、隙を見てこちらをチラチラと見ている。
「……これはまだ誰にも話さないで欲しいのですが、約束できますか?」
「約束? それでそいつと戦えんならいくらでもしてやんよ!」
「はぁ……。その前にまずその言葉遣いを直しなさい。貴女は仮にも王女なのです。冒険者として活動する事は認めていますが、王女としての言動を捨てることを認めた事はありませんよ?」
「ああ、分かったです! お父様!」
大して治っていない言葉にグラティースは頭が痛そうにしている。
その気持ちはわかる。俺だって同じ立場だったらそうなってるだろうな。
「一通りの教育は合格したはずなんですけどね……」
「そんなことより約束はなんだ?」
「言葉遣い。……いいえ、後にしましょうか。今は意味がなさそうですし。──アンドウ殿は本戦に出場する事になりました」
「本当か⁉︎」
「ええ。貴女にとっては幸運な事ですが私たちにとっては頭が痛い事に、貴女が選手を叩きのめしてしまったせいで参加者が足りなくなったのですよ。他の試合から選べばその試合だけ合格者が多くなって不公平ですから」
「そうか! 流石私だな!」
グラティースは、はぁとため息を吐いてからこちらを向いた。
「何かアンドウ殿はお聞きしたい事、言いたい事はございますか?今ならばどのような事でも言ってくださって構いません」
いきなりそう言われても何か……。何かあったか?
「あっ……。では一つだけ。何故私と戦う事に固執するのでしょう? 戦いたいのであれば逃げた私よりも、他にも本戦に出場する者はいるのですからそちらの方が良いのではないですか?」
「ん? 他の奴らとも楽しみにしてるけど、あんたが一番面白そうだからだ!」
面白そう? たしかにこいつの攻撃を凌いでいたけど、それだけなら他の本戦出場者でも良かったんじゃないか?
「鬼人族は戦いを求める性質があります。強者を探し出すのはもはや種族そのものに備わった才能ですね」
だから強者と思わしき者を見つけると挑みたくなるらしい。迷惑すぎる性質と才能だな。
「そう言うわけですので今は大人しくしていなさい」
「分かった!」
そう言うなり赤い髪の王女は走り去っていった。
と、思ったらバタバタと音を立てて戻ってきた。
「あんた名前はなんだ⁉︎ 私はクーデリアだ!」
随分と可愛らしい名前だな。というかそれを聞くためにわざわざ戻ってきたのか? ……どうしよう。すごく答えたくない。
だって、教えたら見つかりやすくなるじゃん。大会での結果が気に入らなかったら自力で探しにくるかもしれないから、教えたくはないんだけど……。教えないわけにはいかないよなぁ。
「安堂彰人と申します。以後よろしくお願いします」
「よし、アンドーだな! 大会を楽しみにしてるぞ!」
そう言ってクーデリア王女は今度こそ去っていった。
『アンドー』ではなく『アンドウ』なんだが……。
ギルドカードにも『アンドー』で登録されてるから間違いってわけじゃないんだけど、最近はその発音を聞いていなかったから、ちょっと違和感がある。
まあ人種どころか種族が違うんだから仕方がない。『アードゥ』とか『アンウゥ』とかになってないだけマシだろう。中にはそういう発音しかできない種族もいるだろうからな。
「申し訳ありませんでした。あの子には良く言ってきかせておきます」
「いえ、暴走癖のある身内の扱いの大変さは良く知っていますので、それほどお気になさらずに」
俺は先ほどよりもくたびれて見えたグラティースの姿に少しばかり同情してしまい、ちらりとイリンを見た。するとグラティースはイリンの一族について知っているのか納得の表情を見せた。
「では今度こそ失礼します」
グラティースが部屋を出ていくと、その後をアグティースがついていった。……あいつ、すっかり影になってたな。王子なのに。
「皆さん、こちらへどうぞ」
俺たちが去っていったグラティースたちを見送っていると、背後にいたクリュテアから声がかかった。
「色々あって慌しくなりましたが、一旦落ち着きませんか?」
その案には俺も賛成だ。こんなとこに来てただでさえ疲れてるのに、なんかさっきのアレでドッと疲れた気がする。
ガムラといいさっきのといい、なんでこの国のやつはそんなに戦いたがるんだ⁉︎
戦いはもうお腹いっぱいだよ……。
グラティースのその言葉は最後まで続かなかった。
「何すんだ、お父様!」
再び勢い良く開けられた扉から赤い髪の女が入ってこようと足を踏み出し……。
バンッ!
再び勢い良く扉は閉められた。
だが今回はさっきとは違い、時間をおかずにすぐにもう一度扉が開いた。
そしてもう一度扉が閉められようとしたが、今度は予想していたのか閉まろうとする扉を押さえて無理やり入ってくる。
グラティースはその様子に「はぁ」と溜息を吐きながらも扉を押し込んでいた手から力を抜いた。
「なんのようですか? あなたには自室にて謹慎を命じたはずですが?」
「なんの用もないだろ! そこにあの男がいんだ! どうして私に教えないんだよ⁉︎」
「こうなるのが分かっていたからです。あの方は我々の客人であって貴女と戦わせるために来ていただいたわけではありません」
ある意味ではそいつと戦わせようとしていると言えなくもないが、最初の目的はアルディスの件に関してなんだから間違ってはいないな。
……しかし、なんでそこまで俺と戦いたがるのかねぇ。今言い争ってる王とでも戦えばいいじゃないか。親子なんだしそれぐらいできるだろ。
「今は戻りなさい。そのうち機会をつくりましょう」
「はあ⁉︎ そう言ってまた逃げられたらどうすんだよ!」
逃げられるものなら逃げたいよ。はぁ……。
「おい、あんた! 今からちょっと付き合え!」
これはガムラと同じ感じをやつだな。断りたいんだが、断ってもいいものなんだろうか?
俺は父親であり王であるグラティースのことを見ると、グラティースは呆れてように溜息を吐いた。
「はぁ。少し落ち着きなさい。客人だ、と言ったはずですよ?」
「そんな事より──っ‼︎」
突如、部屋の中に暴威が吹き荒れた。
っ! これはさっきのと同じ……。またこいつか……。
先程アグティースに向けて放たれたものよりもさらに強い圧力。それが俺の目の前にいる男から放たれている。
……やっぱりこいつはこの国の王だな。頼りないなんてとんでもない。
「落ち着きましたか?」
「あ、ああ……」
赤髪王女がそう頷くと、今までの威圧感が嘘のようにスッと消えてなくなった。
だがそれでも俺と戦いたいという感情がなくなったわけではないようで、隙を見てこちらをチラチラと見ている。
「……これはまだ誰にも話さないで欲しいのですが、約束できますか?」
「約束? それでそいつと戦えんならいくらでもしてやんよ!」
「はぁ……。その前にまずその言葉遣いを直しなさい。貴女は仮にも王女なのです。冒険者として活動する事は認めていますが、王女としての言動を捨てることを認めた事はありませんよ?」
「ああ、分かったです! お父様!」
大して治っていない言葉にグラティースは頭が痛そうにしている。
その気持ちはわかる。俺だって同じ立場だったらそうなってるだろうな。
「一通りの教育は合格したはずなんですけどね……」
「そんなことより約束はなんだ?」
「言葉遣い。……いいえ、後にしましょうか。今は意味がなさそうですし。──アンドウ殿は本戦に出場する事になりました」
「本当か⁉︎」
「ええ。貴女にとっては幸運な事ですが私たちにとっては頭が痛い事に、貴女が選手を叩きのめしてしまったせいで参加者が足りなくなったのですよ。他の試合から選べばその試合だけ合格者が多くなって不公平ですから」
「そうか! 流石私だな!」
グラティースは、はぁとため息を吐いてからこちらを向いた。
「何かアンドウ殿はお聞きしたい事、言いたい事はございますか?今ならばどのような事でも言ってくださって構いません」
いきなりそう言われても何か……。何かあったか?
「あっ……。では一つだけ。何故私と戦う事に固執するのでしょう? 戦いたいのであれば逃げた私よりも、他にも本戦に出場する者はいるのですからそちらの方が良いのではないですか?」
「ん? 他の奴らとも楽しみにしてるけど、あんたが一番面白そうだからだ!」
面白そう? たしかにこいつの攻撃を凌いでいたけど、それだけなら他の本戦出場者でも良かったんじゃないか?
「鬼人族は戦いを求める性質があります。強者を探し出すのはもはや種族そのものに備わった才能ですね」
だから強者と思わしき者を見つけると挑みたくなるらしい。迷惑すぎる性質と才能だな。
「そう言うわけですので今は大人しくしていなさい」
「分かった!」
そう言うなり赤い髪の王女は走り去っていった。
と、思ったらバタバタと音を立てて戻ってきた。
「あんた名前はなんだ⁉︎ 私はクーデリアだ!」
随分と可愛らしい名前だな。というかそれを聞くためにわざわざ戻ってきたのか? ……どうしよう。すごく答えたくない。
だって、教えたら見つかりやすくなるじゃん。大会での結果が気に入らなかったら自力で探しにくるかもしれないから、教えたくはないんだけど……。教えないわけにはいかないよなぁ。
「安堂彰人と申します。以後よろしくお願いします」
「よし、アンドーだな! 大会を楽しみにしてるぞ!」
そう言ってクーデリア王女は今度こそ去っていった。
『アンドー』ではなく『アンドウ』なんだが……。
ギルドカードにも『アンドー』で登録されてるから間違いってわけじゃないんだけど、最近はその発音を聞いていなかったから、ちょっと違和感がある。
まあ人種どころか種族が違うんだから仕方がない。『アードゥ』とか『アンウゥ』とかになってないだけマシだろう。中にはそういう発音しかできない種族もいるだろうからな。
「申し訳ありませんでした。あの子には良く言ってきかせておきます」
「いえ、暴走癖のある身内の扱いの大変さは良く知っていますので、それほどお気になさらずに」
俺は先ほどよりもくたびれて見えたグラティースの姿に少しばかり同情してしまい、ちらりとイリンを見た。するとグラティースはイリンの一族について知っているのか納得の表情を見せた。
「では今度こそ失礼します」
グラティースが部屋を出ていくと、その後をアグティースがついていった。……あいつ、すっかり影になってたな。王子なのに。
「皆さん、こちらへどうぞ」
俺たちが去っていったグラティースたちを見送っていると、背後にいたクリュテアから声がかかった。
「色々あって慌しくなりましたが、一旦落ち着きませんか?」
その案には俺も賛成だ。こんなとこに来てただでさえ疲れてるのに、なんかさっきのアレでドッと疲れた気がする。
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戦いはもうお腹いっぱいだよ……。
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