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獣人達の国
153:赤い髪の王女様
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一瞬ではあったがグラティースの表情が動いた。なるほど。その分の欠員補充要員として俺か。
だがいいのか? 俺は予選参加して負けているんだぞ?
「……ハァ。その通りです。そしてあなたの考えている事もわかっているつもりです」
どうやら俺が予選に参加していたというのは既に知られているようだ。
「では、お聞かせ願えませんか? 私は予選に参加していましたが、負けました。そんな者を本戦に参加させたとなると面倒なことになるのではありませんか?」
「ええ。その可能性も間違いなくあるでしょう。ですが、あなたが出場しなくても面倒があるのですよ」
その言葉を聞いても意味がわからない。何故俺が参加しないと面倒になるんだ?
その考えも理解することができたのか、グラティース王は苦い顔になって口を開く。
「実は、貴方が敗退したその試合が問題なのです」
どうやら俺がいなくなったあと、あの赤い髪の女が残っていた選手全員を再起不能にしてしまったらしい。もちろん誰一人として死んではいないが、しばらくは戦わない方が良いとのことだ。
「ですのでその試合において敗退はしたものの、一番まともに打ち合うことのできた貴方であれば補充として参加してもなんとかなります」
そうなのか。……ん? なんか話がズレてないか? 元々は俺が出場しないと困る理由についてじゃなかったか?
「少々お待ち下さい。話がズレていませんか? 肝心の私でないとダメな理由はなんなのでしょうか?」
「……貴方が戦った赤い髪の女性を覚えていますか?」
「はい。私が負けた理由となった相手ですよね?」
「そうです。あの子が暴れていたのです。あの男──貴方を探してこい、と。今は落ち着いていますが、満足させないと我々としても困るのです」
問題があるようなら殺してしまえばいい。安易な考えだが、この世界ではそれが基本だ。
だが、困るという事は殺す事が出来ないという事だ。あの女は王であってもそうそう手を出すことのできない程なのか?
それはどんな立場なん……うん? そういえば今……。
「……今あの子って言いましたか?」
「ええ。……私の娘です」
「は? え? ……マジ?」
え? あれが娘? 娘って事はあれだ。王の子供なんだから王女様?
いやいやないない。あれは王女様なんて存在じゃない。
もしあれが王女なんて名乗るんだったら異世界含めた男と女の子の夢をぶち壊しだろ。まだ王国のハンナ王女の方がイメージ通りだ。悪い意味でもイメージ通りすぎたけど。
「お恥ずかしながら。あの子は種族的に仕方がないと思っているのですけど、この調子で機嫌が悪いのが続くと困るので、貴方にはぜひ参加して欲しいのです」
種族的に仕方がないってどんな種族なんだ?
「因みにあの子の種族は鬼人ですよ」
……質問するまえに答えが来るっていうのは楽で良いな。そう思う事にしておこう。
だが実際問題大会に出場し直すのはそう悪い案じゃないんじゃないか? そこで件の人物と戦えるのなら俺の目的に近づくわけだし。
……ただ一つ条件を付けさせてもらいたいかな。
「大会の件はお受けしても構いません」
「ありがとうございます」
「ですが、一つ条件があります」
「条件ですか?」
さっきとは逆の展開になった事に俺は内心笑いをもらす。
「その神獣を祀る一族の者と戦えるように調整してほしいのです。大会に出たところで、私と戦う前にいなくなってしまっては意味がないですから」
「わかりました。その程度であれば問題ありません。……他には何かありますか?」
「強いていうのなら口添えしてもらえると有り難いということぐらいですかね。他は特にはありません」
「そちらも構いませんよ」
「ではそれでお願いします」
こうして俺は予選で負けたにもかかわらず本戦に出場する事になった。
「……お話は終わりましたか?」
そこで今まで黙っていたアルディスが口を開いた。
「ええ。もう自由にして構いませんよ」
そう言うと、グラティースは立ち上がり扉へと歩いていく。
「私はまだ執務が残っているのでこれで失礼しますが、アンドウ殿の歓待はあなた方にお任せしますね」
「お忙しい中お時間をとっていただき、誠に感謝申し上げます」
「いえ、こちらこそ本当にありがとうございました。──アグティース。いつまでそうしているのですか。貴方はこちらです。ついてきなさい」
すっかりその存在を忘れていたけど、壁際でずっと剣を持った姿勢のまま固まっていた王子様がいたのを思い出した。
というかこいついままでずっとそのままだったのかよ。
グラティースにそう言われてビクッと体を震わせた後、即座に剣を壁に飾り直すこともせずに剣を持ったまま出て行ってしまった。戻さなくて良いのだろうか? まあ後で誰かが戻すんだろう。
「……これは……」
だが、扉を開けようとしたところでグラティースは止まった。どうした? 何か思い出しでもしたのか?
不思議に思っていると、グラティースはくるりとこちらに振り向いた。
「申し訳ありません。これから少々騒がしくなりそうですこちらから招いておきながらご迷惑をおかけします」
そう謝罪されても何が起こるのか、起きているのか分からないからなんとも言えないんだが……。
しかしその言葉の意味はすぐに判明することになった。
「~~っ! ~~~~~! ~~~!」
部屋の外、それなりに離れていると思わしき場所から城では聞くことがないような誰かが叫ぶ声が聞こえてきたのだ。
これがグラティースの言っていた騒がしくなる原因だろう。
……賊でも入ったのか?
ここは城なのでそう簡単に侵入されるとは思えないが、それ以外に思いつかない。
後ろを見ると、イリンも既に戦闘待機状態になっている。
これなら探知を使っても大丈夫か?
騒ぎの主は遂にこの部屋の扉の前に辿り着いたようで、外の音はもうこの部屋の全員に聞こえているだろう。
バンッ! と大きな音を立てて扉が開かれると、其処には燃えるように鮮やかな赤い髪をした女性が立っていた。
「ここだなっ!」
そこにいたのは現在会いたくないやつ一位で、俺がもう一度大会に出る事になった理由の一つである王女様だった。
「見つけたよ! 今度は逃しはしな──」
バンッ! と大きな音を立てて扉は閉じられると、その締めた本人であるグラティースが俺たちの前に出てきた。
「娘がご迷惑をおかけして申し訳ありません」
そう再度謝罪するグラティース。
だが、良かったのだろうか? さっきのだと、扉に頭を打ちつけたと思うんだけど?
だがいいのか? 俺は予選参加して負けているんだぞ?
「……ハァ。その通りです。そしてあなたの考えている事もわかっているつもりです」
どうやら俺が予選に参加していたというのは既に知られているようだ。
「では、お聞かせ願えませんか? 私は予選に参加していましたが、負けました。そんな者を本戦に参加させたとなると面倒なことになるのではありませんか?」
「ええ。その可能性も間違いなくあるでしょう。ですが、あなたが出場しなくても面倒があるのですよ」
その言葉を聞いても意味がわからない。何故俺が参加しないと面倒になるんだ?
その考えも理解することができたのか、グラティース王は苦い顔になって口を開く。
「実は、貴方が敗退したその試合が問題なのです」
どうやら俺がいなくなったあと、あの赤い髪の女が残っていた選手全員を再起不能にしてしまったらしい。もちろん誰一人として死んではいないが、しばらくは戦わない方が良いとのことだ。
「ですのでその試合において敗退はしたものの、一番まともに打ち合うことのできた貴方であれば補充として参加してもなんとかなります」
そうなのか。……ん? なんか話がズレてないか? 元々は俺が出場しないと困る理由についてじゃなかったか?
「少々お待ち下さい。話がズレていませんか? 肝心の私でないとダメな理由はなんなのでしょうか?」
「……貴方が戦った赤い髪の女性を覚えていますか?」
「はい。私が負けた理由となった相手ですよね?」
「そうです。あの子が暴れていたのです。あの男──貴方を探してこい、と。今は落ち着いていますが、満足させないと我々としても困るのです」
問題があるようなら殺してしまえばいい。安易な考えだが、この世界ではそれが基本だ。
だが、困るという事は殺す事が出来ないという事だ。あの女は王であってもそうそう手を出すことのできない程なのか?
それはどんな立場なん……うん? そういえば今……。
「……今あの子って言いましたか?」
「ええ。……私の娘です」
「は? え? ……マジ?」
え? あれが娘? 娘って事はあれだ。王の子供なんだから王女様?
いやいやないない。あれは王女様なんて存在じゃない。
もしあれが王女なんて名乗るんだったら異世界含めた男と女の子の夢をぶち壊しだろ。まだ王国のハンナ王女の方がイメージ通りだ。悪い意味でもイメージ通りすぎたけど。
「お恥ずかしながら。あの子は種族的に仕方がないと思っているのですけど、この調子で機嫌が悪いのが続くと困るので、貴方にはぜひ参加して欲しいのです」
種族的に仕方がないってどんな種族なんだ?
「因みにあの子の種族は鬼人ですよ」
……質問するまえに答えが来るっていうのは楽で良いな。そう思う事にしておこう。
だが実際問題大会に出場し直すのはそう悪い案じゃないんじゃないか? そこで件の人物と戦えるのなら俺の目的に近づくわけだし。
……ただ一つ条件を付けさせてもらいたいかな。
「大会の件はお受けしても構いません」
「ありがとうございます」
「ですが、一つ条件があります」
「条件ですか?」
さっきとは逆の展開になった事に俺は内心笑いをもらす。
「その神獣を祀る一族の者と戦えるように調整してほしいのです。大会に出たところで、私と戦う前にいなくなってしまっては意味がないですから」
「わかりました。その程度であれば問題ありません。……他には何かありますか?」
「強いていうのなら口添えしてもらえると有り難いということぐらいですかね。他は特にはありません」
「そちらも構いませんよ」
「ではそれでお願いします」
こうして俺は予選で負けたにもかかわらず本戦に出場する事になった。
「……お話は終わりましたか?」
そこで今まで黙っていたアルディスが口を開いた。
「ええ。もう自由にして構いませんよ」
そう言うと、グラティースは立ち上がり扉へと歩いていく。
「私はまだ執務が残っているのでこれで失礼しますが、アンドウ殿の歓待はあなた方にお任せしますね」
「お忙しい中お時間をとっていただき、誠に感謝申し上げます」
「いえ、こちらこそ本当にありがとうございました。──アグティース。いつまでそうしているのですか。貴方はこちらです。ついてきなさい」
すっかりその存在を忘れていたけど、壁際でずっと剣を持った姿勢のまま固まっていた王子様がいたのを思い出した。
というかこいついままでずっとそのままだったのかよ。
グラティースにそう言われてビクッと体を震わせた後、即座に剣を壁に飾り直すこともせずに剣を持ったまま出て行ってしまった。戻さなくて良いのだろうか? まあ後で誰かが戻すんだろう。
「……これは……」
だが、扉を開けようとしたところでグラティースは止まった。どうした? 何か思い出しでもしたのか?
不思議に思っていると、グラティースはくるりとこちらに振り向いた。
「申し訳ありません。これから少々騒がしくなりそうですこちらから招いておきながらご迷惑をおかけします」
そう謝罪されても何が起こるのか、起きているのか分からないからなんとも言えないんだが……。
しかしその言葉の意味はすぐに判明することになった。
「~~っ! ~~~~~! ~~~!」
部屋の外、それなりに離れていると思わしき場所から城では聞くことがないような誰かが叫ぶ声が聞こえてきたのだ。
これがグラティースの言っていた騒がしくなる原因だろう。
……賊でも入ったのか?
ここは城なのでそう簡単に侵入されるとは思えないが、それ以外に思いつかない。
後ろを見ると、イリンも既に戦闘待機状態になっている。
これなら探知を使っても大丈夫か?
騒ぎの主は遂にこの部屋の扉の前に辿り着いたようで、外の音はもうこの部屋の全員に聞こえているだろう。
バンッ! と大きな音を立てて扉が開かれると、其処には燃えるように鮮やかな赤い髪をした女性が立っていた。
「ここだなっ!」
そこにいたのは現在会いたくないやつ一位で、俺がもう一度大会に出る事になった理由の一つである王女様だった。
「見つけたよ! 今度は逃しはしな──」
バンッ! と大きな音を立てて扉は閉じられると、その締めた本人であるグラティースが俺たちの前に出てきた。
「娘がご迷惑をおかけして申し訳ありません」
そう再度謝罪するグラティース。
だが、良かったのだろうか? さっきのだと、扉に頭を打ちつけたと思うんだけど?
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