『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―

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獣人達の国

171:キリーと王女

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 俺たちは観戦室にいる。

 どうやらイリンは体調がよくないみたいなので、キリーの試合の観戦を兼ねて休んでいくことにする。ここなら他に人はいないし静かだから丁度いい。

 はしゃぎすぎただけと本人が言っているが、倒れ込むなんてよっぽどだろう。きっと本人も気づかないうちに疲労が溜まっているんだと思う。

 治癒の方法もわかったし、怪我が治ったらどこか気晴らしに遊びにでも行こうかな? その前に色々やらないといけない事があるんだけどさ。

 ふぅ。……。……あれ?

 そういえばコーキスは結局負けを認めたけど、俺のことは里に紹介してくれるんだろうか?
 しまった。かったことで気が緩んで聞くのを忘れてた。

 ……まあ、グラティースが段取りを組むだろう。あっちもなにか用があるみたいだし。呼びに来なかったらこっちから行けばいいだけだか。

 俺はそこで一旦思考を切り替える。折角の祭りなんだから楽しまないと。

「次はキリーとあの王女か」

 何気にこの大会で純粋に試合を観戦するのは初めてだな。今まではコーキスの件があってそんな気分じゃなかったし。

「どんな試合になるのかな、っと」



「ハッ!」

 開始の合図の直後、先手を取ったのはクーデリアの方だった。
 その手に持つ大きな戟を勢い良く薙ぎ払う。

 だが、その程度の単純な攻撃など、キリーには大した効果がない。余裕を持ってひらりと躱すと、武器を構えて次の攻撃を待っている。

 基本的にキリーは防御型というかカウンター型というか、受けを基本とする立ち回りだ。そうして受けている間に敵の隙を探して狩る。それがキリーの戦い方だ。

 対して、クーデリアの方は防御なんて知ったことかとばかりに全力で攻めていく感じだ。それほど彼女の戦いを見たことがあるわけでもないが、まあ小細工とかはしない感じだろうと思う。

 ……多分この試合はキリーが負けるだろうというのが俺の予想だ。
 もちろん勝って欲しいとは思っているが、それはむずかしいだろう。
 キリーの戦い方は、森の中等に採取に行った時に魔物に遭遇してもどうにか出来るように身につけたものだ。必然、その戦い方は森の中では有効だが、こう言った遮蔽物のない場所や事前に罠などを仕掛けることのできない場所ではその真価は発揮されないだろう。

 だが、しばらく試合を見ていると、俺のそんな考えは間違いだったんじゃないかと思えた。

 一振りで地面を砕くような攻撃を放つクーデリアに対して、キリーはまだ傷一つ負わずに動き回っていた。

「チィッ! さっきから鬱陶しい!」

 クーデリアがそう言うのも無理はない。なにせ、彼女の攻撃はことあるごとに彼女の意図したものとは違う動きをしているのだから。

 クーデリアがキリーに向かって武器を振りおろす。すると、その一撃は、キリーに当たる直前でその進路を僅かながら逸らした。
 だが、その逸れた“僅か”のせいで攻撃はキリーには当たらない。

 多分前の試合でやったのと同じだろう。
 生み出した糸を仕掛けて邪魔をする。本来は森での戦いを想定した技だろうが、それはここでも活躍するようだ。
 これが森で使われたらもっと凶悪になるのだから、魔物も涙目だろう。



 その後も試合は続いたが、お互いに決め手がないようで膠着状態に陥っている。

 クーデリアの攻撃は当たらないし、キリーの攻撃はクーデリアの纏う赤い光に弾かれる。

「というか、あの赤いのなんだ?」

 試合開始しばらくしてから赤く光だしたクーデリア。見た感じだと、攻撃を弾いていることから障壁とかの防御系のなにかに思えるんだが、なんとなく彼女のイメージに合わない。

「ありゃクーデリア様の二つ名の元になったもんだ」
「そういえば、あいつ冒険者やってんだったな」
「ああ。『赤刃』ってのがあの方の二つ名だ」

『赤刃』か。その呼び方は前にも聞いたことがあったな。

 確かに、赤く光っている様子を見ればその二つ名も納得だ。
 でも赤刃って名前の割に、光っているのは武器だけじゃなくて全身なんだが。

 ……いや、俺の時も使ってたか。あの時は確か武器だけが赤く光ってたんだったな。

「あああああ!」

 クーデリアの能力について考えていると、突然彼女が叫びだし、それに呼応するかのようにその体を覆っていた光りがその輝きを強めた。

 そして、クーデリアが防御のことなんか考えていないような構えでキリーに突っ込んでいった。

「ウラアアア!」

 キリーに近づくまでにいくつもの糸が設置してあったはずだが、先ほどまでとは違いクーデリアは糸の存在など意に介さない。

 いや、あれはそもそもその存在に気付いていないんじゃないだろうか?
 クーデリアから感じる力は、そうであってもおかしくないと思える程に強くなっていた。

 そして、ドオオオン! と、空間までも揺らす程の一際大きな音が響き渡った。

 会場は土煙に包まれ、どうなったのかまるでわからない。

 だが、続く音がしないということは恐らくは今ので終わったのだろう。
 それがキリーがやられたからなのか、クーデリアが力の使いすぎで倒れたのかはわからないけど



 煙が晴れると、そこには膝をつき頭と腕から血を流しているキリーの姿と、未だ余裕を残していそうに武器を構えているクーデリアの姿があった。

 キリーは審判を見つけると、手を挙げて何かを言った。
 審判はそれに頷くと手を挙げて宣言した。

「勝者! クーデリア様!」
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