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獣人達の国
172:ウース戦に向けて
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「ようキリー! 今日の見てたぜ!」
そう言って厨房に立つキリーにモブが言葉を投げかかる。
違った。モブじゃなくて客だ。単なる言い間違いだ。気にしてはいけない。
まあそれは置いておいて、客というのはいつもどおりキリーの店にやってくることを指す。
俺たちはそんな店でいつものごとく手伝いをしている。
つまりは、俺たちはすでに会場からキリーの家へと帰っているということだ。
あの後の試合は特に見る必要もないし、治したとはいえキリーは怪我をしたのだから、万が一がないようにと俺たちも手伝うために一緒に帰った。
そして準備をして今日も店が始まり、今に至るというわけだ。
「俺もだ! 楽しかったぜ!」
「お前の健闘を讃えるために来た今日は騒ぐぞ!」
そう言いながらやってきた客たちは次々と注文をし、騒ぎながら飲み食いを始めた。
健闘を讃えて~、なんて言ってるけど、そんな事がなくても騒ぐのだから、結局のところはいつも通りだ。
だが、彼らがキリーを祝っているのは本当だろう。
そもそも二回戦で負けたとは言っても、本線に出場する事自体が凄い事なのだ。
「やっぱりクーデリア様はつえぇな」
「ああ。キリーもいい線いったけど、さすがに無理だったな」
今はキリーに対して言葉をかけるのも落ち着き、客たちは今日の試合の感想を言い合っている。
「あんたらも疲れてるだろうに手伝わせて悪かったね」
いつも通りの時間になると客もバラけて帰っていき、俺とガムラはキリーにそう言われた。
「気にすんな! いつも世話になってるんだからよ!」
「ん、そうだな。俺なんかイリンに料理を教えてもらっている件もあるしな」
「そんな事気にしなくていいんだけどね。今日はこっちだってイリンがいたおかげで助かったし」
キリーの怪我が治ったとはいえ、それなりに深く怪我をしていたのだから完全に定着するまではあまり動かない方がいい。少なくとも今日一日は。
だから、今日は教えてもらうだけじゃなくて、イリンが補助としてやっていたのだが役に立ったようで何よりだ。
「それより、あんたたちはさっさと休みな。明日も試合があるんだから、店を手伝ったせいで疲れが残って負けた、なんて言ったら許さないよ」
「俺はぜってぇそんな事言わねえ!」
「あんたはそうだろうけど、周りから見た目っていうのがあるんだ。もしあんたが明日負けたら、そう言う奴は出てくるだろうね」
キリーのことを嫌っている奴もいるみたいだし、確かにそういう輩は出てくるかも知れない。
「だから、あたしのことを心配するくらいならさっさと寝な」
そう言われるとガムラはキリーのことを心配しながらも自分の部屋に戻っていった。
「あんたもだよ。……明日はウースとなんだろ?」
そういえばそうだ。正直意識の大半はコーキス戦に向かっていたので、ウースのことは頭から転げ落ちていたが、あいつとの問題はまだ解決したわけではなかった。
「そうだな。まあ明日は今日ほど苦戦はしないだろうけどな」
今日は縛りを設けていたけど、明日はそんなものはない。なにせ、もうコーキスには里の案内役を認めてもらったんだから。
身バレするような派手な武具や<収納>は使わないようにしたいけど、それは出来ればってだけで、実際には収納魔術による反射等に制限はない。
「そういう油断してる時が危ないんだ。気をつけなよ」
「……ん。そうだな。負けても何もないが、面倒になるのは目に見えてるからな。まあ精々気をつけるとするよ」
「そうしな」
「ご主人様。お休みになられるところを失礼いたしますが、お時間よろしいでしょうか?」
俺が休もうとしていると、イリンが話しかけてきた。
珍しいな。普段は俺の邪魔をしないようにって寝る時でも話しかけてきたことはないのに。
見るとイリンは正座をしながら待っている。
「ああ。構わないけど……。どうした、そんなに改まって」
「ウースの件で少々お話が」
「明日、大会でウースと戦うことになりますが、手加減は不要です。以前のように私のことなどお考えになったりせずに、全力で戦っていただいて構いません」
「全力? まあ手を抜く気はないけど……」
元より負けるつもりなんてないんだから手は抜かないけど、何でイリンはわざわざ全力で、なんて言うんだ?
だが、イリンは緩く首を振った。
「そうではありません。ご主人様は、ウース相手に手を抜くつもりはないけれど、加減をするつもりがあるのではありませんか?」
その通りだ。大会で俺と戦おうとすることは掟破りギリギリのところだとはいえ、まだ破ったわけではない。
だったらあいつはイリンの幼なじみだし、むざむざと死なせるつもりはないから里に知らせるつもりもない。それに再起不能にするつもりもない。
だからやりすぎない程度にボコすつもりでいた。
能力に制限を設けなければウースなんて簡単に倒せるし。
「だが、問題があると言ってもウースはお前の幼馴染みなんだろ? もっとこう……なんか思うところがあるんじゃないのか?」
「いいえ、構いません。私は今まで何度も自身の意思を示してきました。ですが、ウースは自身の思い込みでご主人様に四度もご迷惑をお掛けしています。これ以上はいくら言ったところで意味がないでしょう」
そう言ったイリンの目はどことなく悲しげだ。やっぱり本人が言うように、何も思わないわけじゃないんだろう。
「それに、これ以上私が原因でご主人様に迷惑をお掛けするとなれば、私は自分が許せません。ですから私のためを思ってくださるのでしたら、加減など考えないでください」
そう言って厨房に立つキリーにモブが言葉を投げかかる。
違った。モブじゃなくて客だ。単なる言い間違いだ。気にしてはいけない。
まあそれは置いておいて、客というのはいつもどおりキリーの店にやってくることを指す。
俺たちはそんな店でいつものごとく手伝いをしている。
つまりは、俺たちはすでに会場からキリーの家へと帰っているということだ。
あの後の試合は特に見る必要もないし、治したとはいえキリーは怪我をしたのだから、万が一がないようにと俺たちも手伝うために一緒に帰った。
そして準備をして今日も店が始まり、今に至るというわけだ。
「俺もだ! 楽しかったぜ!」
「お前の健闘を讃えるために来た今日は騒ぐぞ!」
そう言いながらやってきた客たちは次々と注文をし、騒ぎながら飲み食いを始めた。
健闘を讃えて~、なんて言ってるけど、そんな事がなくても騒ぐのだから、結局のところはいつも通りだ。
だが、彼らがキリーを祝っているのは本当だろう。
そもそも二回戦で負けたとは言っても、本線に出場する事自体が凄い事なのだ。
「やっぱりクーデリア様はつえぇな」
「ああ。キリーもいい線いったけど、さすがに無理だったな」
今はキリーに対して言葉をかけるのも落ち着き、客たちは今日の試合の感想を言い合っている。
「あんたらも疲れてるだろうに手伝わせて悪かったね」
いつも通りの時間になると客もバラけて帰っていき、俺とガムラはキリーにそう言われた。
「気にすんな! いつも世話になってるんだからよ!」
「ん、そうだな。俺なんかイリンに料理を教えてもらっている件もあるしな」
「そんな事気にしなくていいんだけどね。今日はこっちだってイリンがいたおかげで助かったし」
キリーの怪我が治ったとはいえ、それなりに深く怪我をしていたのだから完全に定着するまではあまり動かない方がいい。少なくとも今日一日は。
だから、今日は教えてもらうだけじゃなくて、イリンが補助としてやっていたのだが役に立ったようで何よりだ。
「それより、あんたたちはさっさと休みな。明日も試合があるんだから、店を手伝ったせいで疲れが残って負けた、なんて言ったら許さないよ」
「俺はぜってぇそんな事言わねえ!」
「あんたはそうだろうけど、周りから見た目っていうのがあるんだ。もしあんたが明日負けたら、そう言う奴は出てくるだろうね」
キリーのことを嫌っている奴もいるみたいだし、確かにそういう輩は出てくるかも知れない。
「だから、あたしのことを心配するくらいならさっさと寝な」
そう言われるとガムラはキリーのことを心配しながらも自分の部屋に戻っていった。
「あんたもだよ。……明日はウースとなんだろ?」
そういえばそうだ。正直意識の大半はコーキス戦に向かっていたので、ウースのことは頭から転げ落ちていたが、あいつとの問題はまだ解決したわけではなかった。
「そうだな。まあ明日は今日ほど苦戦はしないだろうけどな」
今日は縛りを設けていたけど、明日はそんなものはない。なにせ、もうコーキスには里の案内役を認めてもらったんだから。
身バレするような派手な武具や<収納>は使わないようにしたいけど、それは出来ればってだけで、実際には収納魔術による反射等に制限はない。
「そういう油断してる時が危ないんだ。気をつけなよ」
「……ん。そうだな。負けても何もないが、面倒になるのは目に見えてるからな。まあ精々気をつけるとするよ」
「そうしな」
「ご主人様。お休みになられるところを失礼いたしますが、お時間よろしいでしょうか?」
俺が休もうとしていると、イリンが話しかけてきた。
珍しいな。普段は俺の邪魔をしないようにって寝る時でも話しかけてきたことはないのに。
見るとイリンは正座をしながら待っている。
「ああ。構わないけど……。どうした、そんなに改まって」
「ウースの件で少々お話が」
「明日、大会でウースと戦うことになりますが、手加減は不要です。以前のように私のことなどお考えになったりせずに、全力で戦っていただいて構いません」
「全力? まあ手を抜く気はないけど……」
元より負けるつもりなんてないんだから手は抜かないけど、何でイリンはわざわざ全力で、なんて言うんだ?
だが、イリンは緩く首を振った。
「そうではありません。ご主人様は、ウース相手に手を抜くつもりはないけれど、加減をするつもりがあるのではありませんか?」
その通りだ。大会で俺と戦おうとすることは掟破りギリギリのところだとはいえ、まだ破ったわけではない。
だったらあいつはイリンの幼なじみだし、むざむざと死なせるつもりはないから里に知らせるつもりもない。それに再起不能にするつもりもない。
だからやりすぎない程度にボコすつもりでいた。
能力に制限を設けなければウースなんて簡単に倒せるし。
「だが、問題があると言ってもウースはお前の幼馴染みなんだろ? もっとこう……なんか思うところがあるんじゃないのか?」
「いいえ、構いません。私は今まで何度も自身の意思を示してきました。ですが、ウースは自身の思い込みでご主人様に四度もご迷惑をお掛けしています。これ以上はいくら言ったところで意味がないでしょう」
そう言ったイリンの目はどことなく悲しげだ。やっぱり本人が言うように、何も思わないわけじゃないんだろう。
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