『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―

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獣人達の国

173:ウース戦再び

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「今回は逃げなかったみたいだな」

 俺の前に立っているウースはそう言った。

「これで、やっとお前からイリンを取り戻せる」

 現在は、昨日に引き続き大会に出場している。そしてその相手は俺が大会に出ることになった原因でもあるウースだ。
 まあ、こいつが絡んできたおかげでグラティース王との接点ができたと言えなくもないので、感謝していなくもない。
 ……どのみちガムラのせいで大会に出てただろうから、ウースの存在はただ面倒くさいだけか?

「……未だに俺がイリンのことを隷属させてるんだと思うなら、それは間違いだ。何度も言ったはずだけどな」
「ふざけるな! お前みたいな『人間』がそんなこと言っても、信じられるわけがないだろ!」

 こいつの中の人間の評価低すぎだろ。はぁ……。

 でもわかってる。実際には今ウースが言ったことは単なる言い訳でしかない。俺を恨む正当な理由が欲しいからそれっぽい事を言っているにすぎないんだって。

 ウースは、俺が人間だから信じてないんじゃなくて、自分を認めなかった|現実(イリン)を認めたくないから、それを否定するために俺に突っ掛かってきているんだ。

 要は、こいつらの一族の特性なのであろう他者への執着が、悪い方に進んでしまったのだ。
 俺としてはイリンだって似た様なものだと思っている。俺が受け入れているから問題になっていないだけで、受け入れていなければストーカーだ。しかも里に帰ってからなんだかその特性が強化(狂化?)された感があるし……。

 ああ違う。話が逸れたな。
 今はウースの事だ。とにかく、こいつは俺が何を言ったところで止まらないんだろうな。

「俺は絶対に負けない!」

 無意識なんだろうけど、ここで出る言葉が「勝つ」ではなく「負けない」って時点で、心の底では自分の負けを理解しているんだろうな。

「そうか。だが、今回は俺だって負けてやる気はない。もう、覚悟は決めたんだ」

「さあ! 両者準備が整った様子! それでは闘技大会三回戦第二試合──始め!」

 その宣言と同時に、ウースは俺に向かって風の球を放ってきた。
 予備動作などなく、魔力の流れを感じてからほとんど間を置かずに放たれたそれは、だが俺が目の前に出した収納魔術の渦に飲み込まれて消えていった。

「チッ!」

 ウースが舌打ちをしているが、以前にも見せた事はあったし、この結果は予想していたのだろう。それ程悔しがっている様子もない。

「ならこれでっ!」

 そうして再び作られる風の魔術。
 だが、今回はさっきのように一つではなく、幾つもの球がウースの前に浮かんでいる。
 それらは、直線に進むものもあれば弧を描いて進むものもある。だが、その全ては俺に向かって飛んできていて、正面だけではなく上下左右から囲まれるように飛んできた。

 普通であれば危ない状況なのかも知れないが、俺は各球の軌道に渦を作って防ぐ。ついでに背後から飛んできた奴も。

 収納の渦を消すと、それまで遮られていた視線が通り、お互いがお互いを睨みつける。

 ウースは今ので決めるつもりだったのか、拳を握って悔しそうにしていた。

「負けを認めろ。お前の攻撃は届かないよ」

 昨日イリンには加減をするなって言われたが、それでもせめて一言ぐらいは言っておかないと俺が嫌だった。

「うるせえ! 俺は負けない! 負けるわけがない! イリンは俺のモノだ!」

 俺の言葉でウースはその怒りをさらに激しくしてしまった。
 まあ、予想していたけどな。俺がどんな言葉をかけたところで意味はないって。

「っがああああ!」

 獣のような声を上げながらウースは俺に向かって突っ込んできた。

 俺はそれに対応するかのように剣を構え、ウースの攻撃を待つ。
 そして、俺にウースの剣が当たる瞬間、俺は目の前に渦を作った。
 あとは一回戦の時と同じだ。渦にウースが突っ込んで弾かれる。
 うまく体を逸らしたのか剣を収納する事はできなかったみたいだけど、それでもウースは弾かれて体勢を崩している。

「ハアッ!」

 俺は掌に渦を展開させてウースを殴る。渦によって弾かれてウースは、その場に止まっていることができずに吹き飛んで、場外にはじき出された。呆気ないが、これで俺の勝ちだ。
 その際に収納魔術のせいで腹部の防具に穴が空いたが、気にしないでおこう。

「勝者、アンドウ選手!」

 その言葉で、ワッと歓声が響く。

「ふざけるな! まだだ! 俺はまだ戦える!」

 だが、ただ弾かれただけでそれ程ダメージはないウースには納得できなたったようだ。まあそうだろうな。

 しかしただ弾かれただけとは言っても、場外になるという事は何メートルもはじき飛ばされるほどの衝撃はあったはずなのだが、どうやらまだ動けるらしい。

「シネエエエェェエエ‼︎」

 ……もはや試合なんてお構いなしか。

 限界まで見開かれ血走った目をしているウースが先ほどまで以上の速度で俺に向かって突っ込んできた。
 予選の時と同じように警備の者が違反者ウースを止めようとしたが、ウースがこっちに来るまでには間に合わないだろう。

「はぁ……」

 俺は突っ込んできたウースの前に渦を作り出した。
 それに触れば弾かれることを理解しているのかウースは一旦そこで足を止めたが、それは悪手だ。

 俺はウースの周りに作った渦から、今までウースの放ってきた風の球を取り出した。
 収納魔術から取り出された魔術は、しまわれた時の勢いのままウースを襲う。

 突然正面から飛んできた風の球をなんとか避けたウースだが、その次に背後から襲いかかるものは避けることが出来なかった。

「がっ……!」

 その後は前後だけでなく左右からも織り出された魔術がウースを襲い、今までしまわれたウースの魔術を全部吐き出した後には、意識は残っていたものの、まともに立ち上がることさえできなくなっていた。

「殺しはしない。里にも知らせないでおいてやる。だから、もう俺に、イリンに関わるな」

 それだけ言うと、俺はウースに背を向けてその場を去った。
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