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獣人国での冬

195:事件発生!?

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「ただいまー」
「ただいま戻りました」

 俺たちはケイノアを向こうの家に置き去りにして、キリーの家に戻ってきていた。

「お帰り。思ったよりも遅かったじゃないかい。すぐに帰ってくると思ってたんだけどねぇ」
「キリーは知ってたのか? 家具はすぐに手に入らないって」
「まあね。ここに暮らすようになって何年だと思ってるんだい?」

 ここに店を構えてからもう何年も経ってるんだったら知ってて当然か。
 いや、というよりも、俺たちが知らなすぎるんだろうな。多分家具を揃えるのに時間がかかるってのはこの街に限らず、一般人でも知ってる常識なんだろう。俺たちは一般人とは言い難いからな。俺は異世界人だし、イリンは森の奥で一族だけで暮らしてたから外界のことには疎いだろうし。

「もしかしたらあてがあるのかと思って何も言わなかったんだけど、その様子じゃなかったみたいだね」
「ああ。明日もう一回注文書を出して、そっから一週間後だと」
「まあそんなもんかね。って事はだ。あんたら、まだしばらくはうちにいるんだろ?」
「……迷惑じゃないか?」
「言ったろ? こっちだって楽しんでやってんだって」

 ニカッと笑いながらそう言ったキリーを見てホッとした。
 まだ寝る場所も整っていないのに向こうで泊まるとなると、最近寒くなってきたし、風邪をひくかもしれないからな。

「ならしばらくは頼む」
「キリーさん、よろしくお願いします」
「はいよ」

 その後、俺達は今まで通りキリーの店を手伝ってから、借りている部屋で眠りについた。



 翌朝。朝を告げる鐘の音を聞いて起きると、すでにイリンの姿はなく、どこからか美味しそうな匂いがした。

「おはよう。イリン、キリー」
「おはようございます」
「ああ、おはよう」

 俺が席に着くと、イリンがサッと俺の前にお茶を差し出してきた。
 それに礼を言ってからお茶を飲んで一息つくと、次は朝食が俺の前に用意される。

 またも礼を言って食べ始めるのだが、ガムラがいなくなったから以前のような賑やかさはない。

 ……わかっていたが、少し寂しいな。

 俺が朝食を食べ終わると、いつのまにか空になっていたお茶が補充されていて、それを飲んでいる間に食器が下げられていった。

 ……有難いんだが、このままいくとダメ人間になりそうだな。

「そろそろ工房も始まってるよな?」
「はい。昨日確認しておきましたが、あそこは朝の鐘が鳴るよりも早く始まるそうです」

 昨日は工房でもずっと一緒にいたはずだが、いつのまにそんな事を聞いたんだろう?
 ……まあ、問題があるわけでもないしいいか。

 それよりも、鐘が鳴る前ってなると、もう随分と前に始まっている事になる。職人ってどこもそうなのか? だとしたらかなり大変だな。

「そうか。なら行くとするか。イリンは準備できるか?」
「はい。すでに整っております」
「ん。……キリー。そういうわけで行ってくる」
「今日もこっちに帰ってくるんだろ?」
「ああ、頼む」
「任せな。代わりに店を手伝ってもらうからね」

 俺はその言葉に苦笑いしながらキリーの店を後にした。



「作ったやつは、出来次第この住所に運べばいいのか?」
「ええ、それでお願いします」
「おう。今年の優勝者の頼みだ。で仕上げてやんよ。つっても、質は落とすつもりはねえがな!」

 俺たちは昨日きた木工工房にやって来て、家具の発注を終えた。
 大会の優勝者という肩書きはそれなりに便利で、他の注文を後回しにして対応してくれた。

「無理言ってすみません」
「なに、そんな気にする必要はねえ。どうせ、今ある注文はそれなりに余裕があんだ。急ぎの仕事の一つ二つ入ったところでどうとでもならぁな」
「ありがとうございます」

 そう言って俺たちは工房を後にしたわけだが、昨日よりは時間が掛かったって言っても、時刻はまだ昼前。帰るにはまだ早いような気がする。

「……少し早いけど、どこかで昼でも食べるか?」
「でしたら、あちらに良さそうな喫茶店がありましたのでいかがでしょうか?」

そんなイリンの提案を受けて、俺たちはそこで少し早めの昼食をとってから家に行くことにした。



「……なんだこれ?」
「いかがされましたか?」

 俺の呟きを聞いたイリンがそう聞いて来たが、なにが起きているのか俺にも分からない。
 俺たちは昼食をとってからケイノアに差し入れとして昼食を持ってきたのだが、現在家には異変が起こっていた。

「ここに何かあるんだが………」

 収納から取り出した木の棒を使って目の前の異変に触れてみる。
 が、帰って来たのは硬質的な壁を突いているかのような感触。

 探知を広げてみると、どうやら目の前の異変は俺の家全体を囲っているようだ。

「これは……結界の魔術?」
「結界? では誰かがここを?」
「そうなるな。……そういえば中にはあのバカがいたよな?」
「はい。……もしかしてあの者が?」
「どうだろうな。もしかしたら俺が狙われてて、偶然巻き込まれただけなのかもしれない。とりあえず中に入ってみて──」

 あいつはうざかったが、もし俺を狙う何かに巻き込まれたのなら助けないとならない。
 だが、そこまで言うと、唯一家具の置いてあった部屋の窓からケイノアが身を乗り出した。

「ふぅーふっふっふっ! よく来たわね。アキト! イリン!」

 ……どうやら心配の必要はなかったようだ。
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