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獣人国での冬
197:イリンの部下
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「……これからは言う事を聞くっていうんなら、まあ良いだろう」
やっぱりエルフとの繋がりっていうのは欲しい。困った事があった時に、何かに使えるかもしれないし。
「だが一応今後の話はしておいた方が良いな。ここじゃなんだし、中に入るか」
「お待ち下さい。まずはその方を綺麗にした方がよろしいかと」
「ん? ……そうだな」
イリンに言われたのでケイノアのことを見ると、そういえば色々酷い格好をしていたなと思い出した。
「でも、風呂とか用意してないしどうする? 俺は水を出すくらいしか出来ないぞ」
生憎とお湯は収納してない。収納から水を出す事ぐらいなら出来るが、それで良いだろうか?
「お任せください。──ケイノアさん、こちらを使ってください」
「え? なにこれ?」
イリンがケイノアに何かを渡す。どうやらそれはケイノアも見たことがないもののようだ。
「身を清めるための魔術具です」
「ヘェ~、こっちにはそんなのがあるのね~。わかったわ!」
……身を清めるための魔術具? それって、あのちょっとアレな体を這うスライムの事か? そういえばイリンはなんでか持ってたな。……え? あれ使うの?
「──んっ。……んあっ! な、なに、これ……!」
イリンが渡したのは俺の予想通りの物だったようで、ケイノアの全身をスライムが絡みつき這い回っている。
数秒もすると魔術具の効果は切れたようで、スライムはシュルシュルと魔術具を持っている手に集まり、溶けるように消えてしまった。
「っはあ、はあ……な、なんなのよ、今の……!」
ケイノアが乱れた息で自分の体を抱くようにした状態で問いかけた。
「洗浄の魔術具です。使えば油や血であっても綺麗に落としてくれます」
だが、イリンは淡々と話すだけ。二人の間の温度差がひどいな。
「うう~。た、確かにそうかもしれないけど……!」
「ほら。汚れが落ちたんなら中に入れ」
これ以上話してもろくな話合いにならないだろうと、俺は二人の会話に割り込んで家の中に誘導する事にした。
「で、なんであんな事をしたのか聞かせてもらおうか」
「だ、だって、お金が欲しかったし、家も欲しかったから、ああすれば一石二鳥かなって……」
俺がどうにか出来なくても、この家は俺が直接この国の王から貰ったものだ。貸しを作る事になるが、最悪はどうにかするために動くだろう。
「というか、お前は俺たちを家の中に入れてからはどうするつもりだったんだよ?」
「え? どうにかって、なにが? お金もらって中に入れたらそれで終わりよ?」
「……お前、中に入った俺たちがお前を捕まえるとは思わなかったのか?」
「え……」
ああ、うん。この様子からしてそんな事カケラほども思ってなかったんだろうなぁ。
こいつ、やっぱり悪いことするのに向いてないわ。計画がガバガバすぎる。
「はあ……。まあ、いい。それよりも今後についてだ」
なんというかこいつは怒りづらいんだよなぁ。やってる事自体は犯罪だが、本人を見てるとどうもな……
「今後、お前はこの家で暮らしてもらって構わないが、俺たちに迷惑をかけるような事をしたらすぐに衛兵に突き出す。加えて、依頼達成後にお前に渡すはずだった報酬は減らさせてもらう」
「なんでよ! 減らされたら私の借金が返せないじゃない!」
「あんな事をしておいてなんのペナルティーがないとでも思ったのか? 借金は自力でどうにかしろ。──イリンからは何か言いたいことはあるか?」
項垂れるケイノアを無視して背後に控えていたイリンに聞いた。
「……では、一つお許しいただけるのでしたら、その方を私の下で働かせてもよろしいでしょうか?」
「お前の下で? ……まあいいか。どうせやることないだろうし」
この家だってそれなりに広いし、電化製品とかないこの世界じゃやる事だっていっぱいあるだろう。掃除とか洗濯とか。
金がないところを住まわせるんだから、手伝わせても文句はない筈──いや、こいつのことだし文句はあるか。まあ良いか。
「ちょっと、勝手に決めないでよ! 私にだってやる事くらいあるわよ!」
「たとえば?」
「え? えっと……寝るとかご飯食べるとか?」
「そうか。──イリン今日からこいつはお前の部下だ。精々こき使ってくれ」
「何でよ!」
「じゃあ住む場所も食事も要らないのか? それで生活できるのか、お前?」
「むぐっ! でも……ああもう! これからよろしくお願いしますぅ!」
何だか投げやりな返事になってたが、気にする必要はないだろう。
「働くんだったら給料ぐらい出すからそれで納得しろ」
やっぱり働かせる以上は金を渡さないと落ち着かない。
そういえば、一応イリンにも渡してるはずなのに使ってるの見たことないな。
「お金が貯まったら出ていくわよ!」
「貯まれば良いな」
こいつじゃ多分独り立ちする金なんてたまらない気がするけどな。
そもそも給料は出すが、それでもこの国の常識的な給料しか出すつもりはない。それだけでは借金を返せるほどにはないから貯めるのは無理だろう。
やっぱりエルフとの繋がりっていうのは欲しい。困った事があった時に、何かに使えるかもしれないし。
「だが一応今後の話はしておいた方が良いな。ここじゃなんだし、中に入るか」
「お待ち下さい。まずはその方を綺麗にした方がよろしいかと」
「ん? ……そうだな」
イリンに言われたのでケイノアのことを見ると、そういえば色々酷い格好をしていたなと思い出した。
「でも、風呂とか用意してないしどうする? 俺は水を出すくらいしか出来ないぞ」
生憎とお湯は収納してない。収納から水を出す事ぐらいなら出来るが、それで良いだろうか?
「お任せください。──ケイノアさん、こちらを使ってください」
「え? なにこれ?」
イリンがケイノアに何かを渡す。どうやらそれはケイノアも見たことがないもののようだ。
「身を清めるための魔術具です」
「ヘェ~、こっちにはそんなのがあるのね~。わかったわ!」
……身を清めるための魔術具? それって、あのちょっとアレな体を這うスライムの事か? そういえばイリンはなんでか持ってたな。……え? あれ使うの?
「──んっ。……んあっ! な、なに、これ……!」
イリンが渡したのは俺の予想通りの物だったようで、ケイノアの全身をスライムが絡みつき這い回っている。
数秒もすると魔術具の効果は切れたようで、スライムはシュルシュルと魔術具を持っている手に集まり、溶けるように消えてしまった。
「っはあ、はあ……な、なんなのよ、今の……!」
ケイノアが乱れた息で自分の体を抱くようにした状態で問いかけた。
「洗浄の魔術具です。使えば油や血であっても綺麗に落としてくれます」
だが、イリンは淡々と話すだけ。二人の間の温度差がひどいな。
「うう~。た、確かにそうかもしれないけど……!」
「ほら。汚れが落ちたんなら中に入れ」
これ以上話してもろくな話合いにならないだろうと、俺は二人の会話に割り込んで家の中に誘導する事にした。
「で、なんであんな事をしたのか聞かせてもらおうか」
「だ、だって、お金が欲しかったし、家も欲しかったから、ああすれば一石二鳥かなって……」
俺がどうにか出来なくても、この家は俺が直接この国の王から貰ったものだ。貸しを作る事になるが、最悪はどうにかするために動くだろう。
「というか、お前は俺たちを家の中に入れてからはどうするつもりだったんだよ?」
「え? どうにかって、なにが? お金もらって中に入れたらそれで終わりよ?」
「……お前、中に入った俺たちがお前を捕まえるとは思わなかったのか?」
「え……」
ああ、うん。この様子からしてそんな事カケラほども思ってなかったんだろうなぁ。
こいつ、やっぱり悪いことするのに向いてないわ。計画がガバガバすぎる。
「はあ……。まあ、いい。それよりも今後についてだ」
なんというかこいつは怒りづらいんだよなぁ。やってる事自体は犯罪だが、本人を見てるとどうもな……
「今後、お前はこの家で暮らしてもらって構わないが、俺たちに迷惑をかけるような事をしたらすぐに衛兵に突き出す。加えて、依頼達成後にお前に渡すはずだった報酬は減らさせてもらう」
「なんでよ! 減らされたら私の借金が返せないじゃない!」
「あんな事をしておいてなんのペナルティーがないとでも思ったのか? 借金は自力でどうにかしろ。──イリンからは何か言いたいことはあるか?」
項垂れるケイノアを無視して背後に控えていたイリンに聞いた。
「……では、一つお許しいただけるのでしたら、その方を私の下で働かせてもよろしいでしょうか?」
「お前の下で? ……まあいいか。どうせやることないだろうし」
この家だってそれなりに広いし、電化製品とかないこの世界じゃやる事だっていっぱいあるだろう。掃除とか洗濯とか。
金がないところを住まわせるんだから、手伝わせても文句はない筈──いや、こいつのことだし文句はあるか。まあ良いか。
「ちょっと、勝手に決めないでよ! 私にだってやる事くらいあるわよ!」
「たとえば?」
「え? えっと……寝るとかご飯食べるとか?」
「そうか。──イリン今日からこいつはお前の部下だ。精々こき使ってくれ」
「何でよ!」
「じゃあ住む場所も食事も要らないのか? それで生活できるのか、お前?」
「むぐっ! でも……ああもう! これからよろしくお願いしますぅ!」
何だか投げやりな返事になってたが、気にする必要はないだろう。
「働くんだったら給料ぐらい出すからそれで納得しろ」
やっぱり働かせる以上は金を渡さないと落ち着かない。
そういえば、一応イリンにも渡してるはずなのに使ってるの見たことないな。
「お金が貯まったら出ていくわよ!」
「貯まれば良いな」
こいつじゃ多分独り立ちする金なんてたまらない気がするけどな。
そもそも給料は出すが、それでもこの国の常識的な給料しか出すつもりはない。それだけでは借金を返せるほどにはないから貯めるのは無理だろう。
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