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獣人国での冬
228:救援開始!
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俺たちが援軍として到着した後、たしかに俺はケイノアに、ここは任せろ、的な言葉を言ったが……あのやろう。本当に寝に行きやがった。
あそこはもう少しこう……私も手伝うわ! みたいな言葉がくるもんじゃないか?
まあ、アイツに期待するのは無駄か。
そもそも居たところで特にやってもらうこともないし、アイツだって一晩中戦ってただろうから疲れてるんだ、と思いそれ以上考えるのをやめる。
「で、だ。これからどうするか」
さっきのでだいぶ片付けたとは言え、まだ敵は残ってる。それらは冒険者達が相手をしているが、このままでは終わらないだろう。
「森から敵の増援が来ます」
そして、今いる魔物達に加え、イリンの言ったように向こう側──戦場の奥にある森からは敵の追加
が来ていた。
「……冒険者を一ヶ所にまとめて守りを堅めたほうがいいか」
俺が対処するにしても、さっきみたいに冒険者に気を使いながらやるよりも、一ヶ所に集まってもらって防御を固めてもらったほうがいい。
そうすれば、俺が敵に対処している間の守りにもなるし、万が一俺の攻撃を抜けて近づいてきても、少数なら自分たちを守ることぐらいできるだろう。少なくとも邪魔にはならないはずだ。
「全員こっちに来い! 大技を使う! 退がって守りを堅めろ!」
出来るだけ大声を出したけど、これだけ広いと端の方まで聞こえないだろうな。だけど、近くの冒険者が集まるような動きをすればそれを見た奴らも下がるだろう。
そう思っていたのだが、現実は非情であり、そう思い通りには進まない。
「……ちっ。まだか……」
俺の声が届いた冒険者達はこちらに向かって撤退をしているが、それは遅々として進んでいない。
原因は明白だ。それは彼らは戦いの最中に怪我をした仲間を守りながら移動しているからだった。
万全の状態であっても正しい装備のない現状では苦戦する相手なのに、さらに怪我をした仲間を庇いながらとなると、とてもではないが速やかな撤退など望めるはずもなかった。
「私が回収してまいりますか?」
「……そうだな。頼めるか? 怪我がそんなにひどくないならこれを渡して回復して貰えば勝手に戻ってくるだろう」
俺は収納からいくつかの回復薬を取り出してイリンに渡す
「はい。かしこまりました。──それでは、行ってまいります」
イリンはそう言って一礼すると、次の瞬間には俺の目の前から居なくなっていた。
「……はっや」
どこに行ったのかと見回せば、一番遠い場所に何やら人影のようなものが動いているようにも見えるが、この距離では探知を使っていない素の俺ではよくわからない。
「こっちはこっちでやっておくか」
イリンが全員回収するまで何もしないわけにも行かないので、俺は近くにいた冒険者に薬を渡しに行く。
「大丈夫かあんた。ほらこれを使え」
「あ、ああ。助かる」
冒険者の男は俺が差し出した薬を受け取ると、迷う事なく飲み干した。
若干、毒とか疑わないのかな? とか思ったけど、こんな状態じゃ毒なんて盛る必要はないかと思い直す。
「……あんた達は援軍か? 他にはどのくらい来たんだ?」
「残念ながら俺たちだけだ。正式な援軍は最速で明日の昼過ぎになるだろうってのがギルドの話だ」
「……明日の昼だと? ギルドは状況がわかっていないのか!」
「アンデットには特殊な装備か人材が必要だ。そうすぐに揃えられるもんでもないんだろ」
「だが! ……いや、そうだったな。悪い」
「いや。ギルドの意見が正しいのはわかるが、戦ってる奴にはそんな正しさなんて意味ないからな」
憤りを露わにした男は俺の言葉を聞くと、納得はしていないようで唇を噛んで渋面を作っているが、それでも理解はしているようでそれ以上を言うことはなかった。
「あんたはこれからどうする気だ?」
「ひとまずは残ってる奴らを集めて防御を固める。その後は一旦敵の一掃をして、それから犯人探しって感じだな」
「犯人ってのはこの状況を作ってる親玉って事でいいのか?」
「ああ、この状況はおかしい。誰かが意図的に魔物を操っているとしか思えない」
「まあそうだな。死んだ直後にアンデット化するのもそうだが、朝になっても動き回るアンデットってのはどう考えても異常だ。やっぱ人為的なもんか」
やっぱりこいつもおかしいとは思っていたみたいだな。
だが当然か。冒険者なら、本当に初心者以外はすぐにこの状況が異常だとわかるだろう。ベテランがわからなかったらそっちの方が問題だ。
「その犯人がどこにいるのか、までは流石にわからないけどな。向こうの森の中にいるのか、それとも冒険者達の中にいるのか……」
「冒険者の中にいるって疑ってたんなら、俺にそんなに話してもいいのか? 俺がその犯人かもしれないだろ?」
「ないな。あんたはそれほど怪我をしていなかったが、足を怪我していた。もし犯人が冒険者の中にいるのなら、勝手に動き回ってもおかしくないように足じゃなくて手を怪我した事にするはずだ」
もし犯人が怪我をしたフリをしていたとして、何か行動を起こさないといけない時に足を怪我したフリをしていたら、軽々しく動き回るはできない。だって怪我をしているはずなのだから。フリだとバレれば一気に怪しくなってしまう。
だが、手を怪我したのであれば、戦えないけどみんなの役人立つために~、とか言って動き回ることはできる。
だから足を怪我しているこの男は犯人ではない。と思っている。
「もしくは大きな怪我をしないで今も戦い続けるかだ。自分で操ってんだから大した危険もなく成果を出すことができるだろうからな。でもまあ、こっちの線は薄いと思ってる」
「理由は?」
「こんだけの魔物を操っていながら、周りにバレないように戦い続けるなんて出来ると思うか? 戦場全体を見渡してないと、ここまでの数は操れないと思うんだが?」
魔術を使うのにはそれなりに集中力がいる。俺みたいに一個の魔術に特化しているなら多少は楽だが、もし犯人が死霊術とかの操作系の魔術に特化していたとしても、今回みたいに何かを操る魔術ならそうはいかない。なにせ数百もしかしたら千を超えているかもしれない数を操らなきゃいけないんだから、そう簡単なことではないはずだ。
だから、しっかりと操るためにどこか落ち着けて全体を把握できる場所にいるだろう、と言うのが俺の考えだ。
「確かにな。すると、いるとしたら後方にいる奴らか」
「ま、冒険者側にいるとしたら、だけどな」
いるかもしれないとは思うけど、実際にいるかどうかまではわからない。
後は行き当たりばったり。臨機応変って感じだな。
あそこはもう少しこう……私も手伝うわ! みたいな言葉がくるもんじゃないか?
まあ、アイツに期待するのは無駄か。
そもそも居たところで特にやってもらうこともないし、アイツだって一晩中戦ってただろうから疲れてるんだ、と思いそれ以上考えるのをやめる。
「で、だ。これからどうするか」
さっきのでだいぶ片付けたとは言え、まだ敵は残ってる。それらは冒険者達が相手をしているが、このままでは終わらないだろう。
「森から敵の増援が来ます」
そして、今いる魔物達に加え、イリンの言ったように向こう側──戦場の奥にある森からは敵の追加
が来ていた。
「……冒険者を一ヶ所にまとめて守りを堅めたほうがいいか」
俺が対処するにしても、さっきみたいに冒険者に気を使いながらやるよりも、一ヶ所に集まってもらって防御を固めてもらったほうがいい。
そうすれば、俺が敵に対処している間の守りにもなるし、万が一俺の攻撃を抜けて近づいてきても、少数なら自分たちを守ることぐらいできるだろう。少なくとも邪魔にはならないはずだ。
「全員こっちに来い! 大技を使う! 退がって守りを堅めろ!」
出来るだけ大声を出したけど、これだけ広いと端の方まで聞こえないだろうな。だけど、近くの冒険者が集まるような動きをすればそれを見た奴らも下がるだろう。
そう思っていたのだが、現実は非情であり、そう思い通りには進まない。
「……ちっ。まだか……」
俺の声が届いた冒険者達はこちらに向かって撤退をしているが、それは遅々として進んでいない。
原因は明白だ。それは彼らは戦いの最中に怪我をした仲間を守りながら移動しているからだった。
万全の状態であっても正しい装備のない現状では苦戦する相手なのに、さらに怪我をした仲間を庇いながらとなると、とてもではないが速やかな撤退など望めるはずもなかった。
「私が回収してまいりますか?」
「……そうだな。頼めるか? 怪我がそんなにひどくないならこれを渡して回復して貰えば勝手に戻ってくるだろう」
俺は収納からいくつかの回復薬を取り出してイリンに渡す
「はい。かしこまりました。──それでは、行ってまいります」
イリンはそう言って一礼すると、次の瞬間には俺の目の前から居なくなっていた。
「……はっや」
どこに行ったのかと見回せば、一番遠い場所に何やら人影のようなものが動いているようにも見えるが、この距離では探知を使っていない素の俺ではよくわからない。
「こっちはこっちでやっておくか」
イリンが全員回収するまで何もしないわけにも行かないので、俺は近くにいた冒険者に薬を渡しに行く。
「大丈夫かあんた。ほらこれを使え」
「あ、ああ。助かる」
冒険者の男は俺が差し出した薬を受け取ると、迷う事なく飲み干した。
若干、毒とか疑わないのかな? とか思ったけど、こんな状態じゃ毒なんて盛る必要はないかと思い直す。
「……あんた達は援軍か? 他にはどのくらい来たんだ?」
「残念ながら俺たちだけだ。正式な援軍は最速で明日の昼過ぎになるだろうってのがギルドの話だ」
「……明日の昼だと? ギルドは状況がわかっていないのか!」
「アンデットには特殊な装備か人材が必要だ。そうすぐに揃えられるもんでもないんだろ」
「だが! ……いや、そうだったな。悪い」
「いや。ギルドの意見が正しいのはわかるが、戦ってる奴にはそんな正しさなんて意味ないからな」
憤りを露わにした男は俺の言葉を聞くと、納得はしていないようで唇を噛んで渋面を作っているが、それでも理解はしているようでそれ以上を言うことはなかった。
「あんたはこれからどうする気だ?」
「ひとまずは残ってる奴らを集めて防御を固める。その後は一旦敵の一掃をして、それから犯人探しって感じだな」
「犯人ってのはこの状況を作ってる親玉って事でいいのか?」
「ああ、この状況はおかしい。誰かが意図的に魔物を操っているとしか思えない」
「まあそうだな。死んだ直後にアンデット化するのもそうだが、朝になっても動き回るアンデットってのはどう考えても異常だ。やっぱ人為的なもんか」
やっぱりこいつもおかしいとは思っていたみたいだな。
だが当然か。冒険者なら、本当に初心者以外はすぐにこの状況が異常だとわかるだろう。ベテランがわからなかったらそっちの方が問題だ。
「その犯人がどこにいるのか、までは流石にわからないけどな。向こうの森の中にいるのか、それとも冒険者達の中にいるのか……」
「冒険者の中にいるって疑ってたんなら、俺にそんなに話してもいいのか? 俺がその犯人かもしれないだろ?」
「ないな。あんたはそれほど怪我をしていなかったが、足を怪我していた。もし犯人が冒険者の中にいるのなら、勝手に動き回ってもおかしくないように足じゃなくて手を怪我した事にするはずだ」
もし犯人が怪我をしたフリをしていたとして、何か行動を起こさないといけない時に足を怪我したフリをしていたら、軽々しく動き回るはできない。だって怪我をしているはずなのだから。フリだとバレれば一気に怪しくなってしまう。
だが、手を怪我したのであれば、戦えないけどみんなの役人立つために~、とか言って動き回ることはできる。
だから足を怪我しているこの男は犯人ではない。と思っている。
「もしくは大きな怪我をしないで今も戦い続けるかだ。自分で操ってんだから大した危険もなく成果を出すことができるだろうからな。でもまあ、こっちの線は薄いと思ってる」
「理由は?」
「こんだけの魔物を操っていながら、周りにバレないように戦い続けるなんて出来ると思うか? 戦場全体を見渡してないと、ここまでの数は操れないと思うんだが?」
魔術を使うのにはそれなりに集中力がいる。俺みたいに一個の魔術に特化しているなら多少は楽だが、もし犯人が死霊術とかの操作系の魔術に特化していたとしても、今回みたいに何かを操る魔術ならそうはいかない。なにせ数百もしかしたら千を超えているかもしれない数を操らなきゃいけないんだから、そう簡単なことではないはずだ。
だから、しっかりと操るためにどこか落ち着けて全体を把握できる場所にいるだろう、と言うのが俺の考えだ。
「確かにな。すると、いるとしたら後方にいる奴らか」
「ま、冒険者側にいるとしたら、だけどな」
いるかもしれないとは思うけど、実際にいるかどうかまではわからない。
後は行き当たりばったり。臨機応変って感じだな。
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