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治癒の神獣
238:眠り姫
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「前の時とは装備が……ってか服装が全然違うから別人に見えるな」
「あー、まあ俺は普段はこんな服を着ねえからなぁ。知り合いにも言われたぜ。ま、あいつらも似たようなもんだがな」
スキットはそう言いながら、会場の一角で集まっている冒険者らしきもの達に視線を向けた。
「……似合ってないな……」
だが、その姿はお世辞にも似合っているとは言い難い。
一応自前の服を持ってない奴らは城で貸し出してたみたいだし、ちゃんとセットもしてくれたみたいだからそれほどおかしな格好ではないのだが、それでも、なんというか、服に着られている感じがする。
「ハハッ! そりゃ仕方がねえよ。俺も含めて、普段は武器振り回したり酒に酔って裸で騒いだりするような奴らだぜ?」
「あー……」
「それに比べてお前らは大分着慣れてるみたいだな。もしかしてどっかの坊っちゃんか?」
俺の場合は一般人だけど、それでも『異世界の』という言葉がつく。日本の一般人はこっちの世界からするとかなり上品だ。それに加えて、こっちの世界に来てから基本的な動作は城で身につけたものだから、どうしても動きは貴族が基準になってしまう。
「ん、いや、仲間の二人はお嬢様らしいが、俺は一般人だ。でもまあ、これでもしばらく金持ちんところで暮らしてたからそのときに色々とな」
金持ちどころか、一国の城だけどな。それでも純粋なお嬢様であるシアリスには敵わない。ケイノアは……わからないな。あれは一般的なお嬢様とは違うと思うし。
「ほおー、そうだったか。仲間ってーと前にあったエルフの『眠り姫』達だろう? そっちは納得だな。人に命令するのにも慣れてた感じだし、ここから見てても違和感ねえしな」
「眠り姫? なんだそれ?」
なんとなく予想はつく。多分ケイノアの事だろう。エルフで寝てばっかりなのはあいつくらいだ。
「あ? ああ、あっちの姉妹の姉……あー……」
「ケイノアか?」
「ああそうだ。そのケイノア嬢ちゃんの方のことだ。敵も味方もお構いなしに眠らせて、戦場だってのに気づいたら本人も寝てる。そんでもって人に命令すんのが慣れてるみてえだからついた名前が『眠り姫』だ。まあ、あん時一緒にいた奴らの間だけだけどな」
やっぱりそうか。まあお嬢様なのは本当みたいだし、『姫』ってのもおかしくはないのかもしれない。
でも、命令かぁ……ノリノリで命令して調子に乗ってる姿が簡単に思い浮かぶな。
普通なら命令される事に反感を持つものだと思うけど、多分スキット達はそういうのはないんだろうな。だって、ケイノアの事を語ったスキットの表情は、疎むようなものではなく楽しんでいるようなものだったから。
多分アイドル的なアレだろう。血生臭くむさ苦しい戦場で、美少女が元気に指示(命令)を出せば喜ぶやつもいるだろう。少なくとも、むさいおっさん指示されるよりもマシだ。俺だって好きかどうかは別として、そっちの方がいい。
後は孫とか子供がはしゃいでる感じとか? でも、あいつエルフだし、実年齢を考えると嬢ちゃんなんてもんじゃないけど……
「一応言っておくけど、あいつ、嬢ちゃんって歳じゃないぞ?」
「あー、まあそりゃ、わかってんだけどなぁ……どうもな」
あいつ、種族的には妖精に近いっていうだけあって、基本的に子供っぽいからな。仕方ないか。
「お待たせいたしました」
イリンが料理を盛った皿を両手にして戻ってきた。
「ん、ああ。ありがとう、イリン」
イリンはその手に持っていた料理を俺に渡すと、スキットの方を向いた。
「表彰おめでとうございます。スキットさんもいかがですか?」
イリンは祝いの言葉を口にすると、もう一つの皿をスキットに差し出した。
でも、それは自分用にとってきた奴なんじゃないのか?
多分、こんな場であるにも関わらず、イリンの中ではスキットは俺の客扱いになってて、自分は使用人感覚のままなんだろう。イリンもこの宴の客であるというのに。
気が回るのはいいことだけど、もう少しわがままになってもいいのにと思ってしまう。
「ん? おお、なんだ、俺のことを知ってんのか?」
「はい。あのアンデット退治の時にお世話になった方ですから」
「ほおー、そうかそうか。覚えてもらってるとは思わなかったぜ。ありがとな」
よくそんなすぐに思い出せるもんだな。俺なんて思い出すまでそれなりに時間がかかったていうのに。
「っと、そうだ。嬢ちゃんもおめでとうな。俺は後で自分で取りに行くから、そいつはアンドーと一緒に食いな」
「ありがとうございます」
その後も少し話をしたのだが、いつまでも話しているというわけにもいかない。
「そろそろ俺は行くわ。ギルドに行きゃあ大抵は連絡がつくから、人手が必要な時は教えてくれ」
「ああ、その時は頼むよ」
「おう。じゃあな」
スキットが去ったその後は、イリンの持ってきた皿をつつきながら取り止めもなく話していたのだが、こちらに近づきたそうに視線を送っている者が結構な数いた。
だが、どういうことか、見ているだけで近寄ってこない。中にはある程度まで来たやつもいたのだが、全員俺に話しかけることなく戻って行った。
まあ、勲章を手にした事での結婚とかそういうお誘いだろうけど、俺としては全部断るつもりだし、そういうアレコレがないのは楽でいいんだが、全く近寄ってこないってのも気になるな……まあ、来ないなら来ないでいいか。
それからは、スキットと同じようにあのアンデット退治の時にそれなりに仲良くなった冒険者達と適当に話していたのだが、給仕の男からグラティースが呼んでいると言われた。
王族の座る席の方を見てみると、グラティースが俺のことを見ているのがわかった。
俺たちを呼びにきた給仕の男に先導させて、俺とイリンは王族の集まっている場所に着いた。
何人もの知らない奴がいるけど、それは全員王族なのだろう。もしくはその妻か夫。何にせよ偉い奴なのは変わらない。
「よく来てくれましたね。ここにいるのは私の関係者ですので、何かあったら遠慮無く仰ってください」
その場にいた全員から見定められるような視線が感じられたが、グラティースがそう言った途端にその視線のほとんどがなくなった。
因みに、残った視線の主人は、アルディスとアグティースの王子二人。それから、居て欲しくなかったクーデリア王女だ。
……ああ、もう表彰も終わったし帰りたい。
「あー、まあ俺は普段はこんな服を着ねえからなぁ。知り合いにも言われたぜ。ま、あいつらも似たようなもんだがな」
スキットはそう言いながら、会場の一角で集まっている冒険者らしきもの達に視線を向けた。
「……似合ってないな……」
だが、その姿はお世辞にも似合っているとは言い難い。
一応自前の服を持ってない奴らは城で貸し出してたみたいだし、ちゃんとセットもしてくれたみたいだからそれほどおかしな格好ではないのだが、それでも、なんというか、服に着られている感じがする。
「ハハッ! そりゃ仕方がねえよ。俺も含めて、普段は武器振り回したり酒に酔って裸で騒いだりするような奴らだぜ?」
「あー……」
「それに比べてお前らは大分着慣れてるみたいだな。もしかしてどっかの坊っちゃんか?」
俺の場合は一般人だけど、それでも『異世界の』という言葉がつく。日本の一般人はこっちの世界からするとかなり上品だ。それに加えて、こっちの世界に来てから基本的な動作は城で身につけたものだから、どうしても動きは貴族が基準になってしまう。
「ん、いや、仲間の二人はお嬢様らしいが、俺は一般人だ。でもまあ、これでもしばらく金持ちんところで暮らしてたからそのときに色々とな」
金持ちどころか、一国の城だけどな。それでも純粋なお嬢様であるシアリスには敵わない。ケイノアは……わからないな。あれは一般的なお嬢様とは違うと思うし。
「ほおー、そうだったか。仲間ってーと前にあったエルフの『眠り姫』達だろう? そっちは納得だな。人に命令するのにも慣れてた感じだし、ここから見てても違和感ねえしな」
「眠り姫? なんだそれ?」
なんとなく予想はつく。多分ケイノアの事だろう。エルフで寝てばっかりなのはあいつくらいだ。
「あ? ああ、あっちの姉妹の姉……あー……」
「ケイノアか?」
「ああそうだ。そのケイノア嬢ちゃんの方のことだ。敵も味方もお構いなしに眠らせて、戦場だってのに気づいたら本人も寝てる。そんでもって人に命令すんのが慣れてるみてえだからついた名前が『眠り姫』だ。まあ、あん時一緒にいた奴らの間だけだけどな」
やっぱりそうか。まあお嬢様なのは本当みたいだし、『姫』ってのもおかしくはないのかもしれない。
でも、命令かぁ……ノリノリで命令して調子に乗ってる姿が簡単に思い浮かぶな。
普通なら命令される事に反感を持つものだと思うけど、多分スキット達はそういうのはないんだろうな。だって、ケイノアの事を語ったスキットの表情は、疎むようなものではなく楽しんでいるようなものだったから。
多分アイドル的なアレだろう。血生臭くむさ苦しい戦場で、美少女が元気に指示(命令)を出せば喜ぶやつもいるだろう。少なくとも、むさいおっさん指示されるよりもマシだ。俺だって好きかどうかは別として、そっちの方がいい。
後は孫とか子供がはしゃいでる感じとか? でも、あいつエルフだし、実年齢を考えると嬢ちゃんなんてもんじゃないけど……
「一応言っておくけど、あいつ、嬢ちゃんって歳じゃないぞ?」
「あー、まあそりゃ、わかってんだけどなぁ……どうもな」
あいつ、種族的には妖精に近いっていうだけあって、基本的に子供っぽいからな。仕方ないか。
「お待たせいたしました」
イリンが料理を盛った皿を両手にして戻ってきた。
「ん、ああ。ありがとう、イリン」
イリンはその手に持っていた料理を俺に渡すと、スキットの方を向いた。
「表彰おめでとうございます。スキットさんもいかがですか?」
イリンは祝いの言葉を口にすると、もう一つの皿をスキットに差し出した。
でも、それは自分用にとってきた奴なんじゃないのか?
多分、こんな場であるにも関わらず、イリンの中ではスキットは俺の客扱いになってて、自分は使用人感覚のままなんだろう。イリンもこの宴の客であるというのに。
気が回るのはいいことだけど、もう少しわがままになってもいいのにと思ってしまう。
「ん? おお、なんだ、俺のことを知ってんのか?」
「はい。あのアンデット退治の時にお世話になった方ですから」
「ほおー、そうかそうか。覚えてもらってるとは思わなかったぜ。ありがとな」
よくそんなすぐに思い出せるもんだな。俺なんて思い出すまでそれなりに時間がかかったていうのに。
「っと、そうだ。嬢ちゃんもおめでとうな。俺は後で自分で取りに行くから、そいつはアンドーと一緒に食いな」
「ありがとうございます」
その後も少し話をしたのだが、いつまでも話しているというわけにもいかない。
「そろそろ俺は行くわ。ギルドに行きゃあ大抵は連絡がつくから、人手が必要な時は教えてくれ」
「ああ、その時は頼むよ」
「おう。じゃあな」
スキットが去ったその後は、イリンの持ってきた皿をつつきながら取り止めもなく話していたのだが、こちらに近づきたそうに視線を送っている者が結構な数いた。
だが、どういうことか、見ているだけで近寄ってこない。中にはある程度まで来たやつもいたのだが、全員俺に話しかけることなく戻って行った。
まあ、勲章を手にした事での結婚とかそういうお誘いだろうけど、俺としては全部断るつもりだし、そういうアレコレがないのは楽でいいんだが、全く近寄ってこないってのも気になるな……まあ、来ないなら来ないでいいか。
それからは、スキットと同じようにあのアンデット退治の時にそれなりに仲良くなった冒険者達と適当に話していたのだが、給仕の男からグラティースが呼んでいると言われた。
王族の座る席の方を見てみると、グラティースが俺のことを見ているのがわかった。
俺たちを呼びにきた給仕の男に先導させて、俺とイリンは王族の集まっている場所に着いた。
何人もの知らない奴がいるけど、それは全員王族なのだろう。もしくはその妻か夫。何にせよ偉い奴なのは変わらない。
「よく来てくれましたね。ここにいるのは私の関係者ですので、何かあったら遠慮無く仰ってください」
その場にいた全員から見定められるような視線が感じられたが、グラティースがそう言った途端にその視線のほとんどがなくなった。
因みに、残った視線の主人は、アルディスとアグティースの王子二人。それから、居て欲しくなかったクーデリア王女だ。
……ああ、もう表彰も終わったし帰りたい。
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