『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―

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王国との戦争

262─裏・グラティース:開戦

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「陛下、国境の部隊より急使です! 王国が攻めてきました!」

 バタバタと慌ただしく廊下を走る音が聞こえ、その足音は私の執務室の前で止まると外にいる警備と何か話した後勢いよく扉を開け放ち、そう叫びました。

「……やはりきましたか」

 近いうちに来るだろうと思っていた王国からの侵攻。
 我々は戦争を望んでいるわけではないので、できることならば来て欲しくはなかった。

 けれど、来て欲しくなかったからと言って相手が配慮してくれるわけではありませんし、こちらも見ているだけでいることはできない。

「事前に決めてあった通り、各部署に連絡を。すぐに救援に向かいます」
「はっ!」

 伝令に来た者が走り去るのを見送ると、私もこれからに備えて動き始めます。

 国境の部隊からは空を飛べる種族が知らせに来ましたが、いくら空を飛べると言ってもあの場からここまで丸一日はかかります。

 つまり、昨日には王国が攻めてきていると言う事です。

 これから軍を編成して出撃させますが、前もって出来る限りの準備をしているとはいえ戦場に着くまでに数日はかかるでしょう。少しでも急がなければ。

「お父様!」

 そうして私は配下達に指示を出していると、部屋の扉が勢い良く開かれました。

 そこから現れたのは、私の娘の一人クーデリアです。

「戦争が始まったんだろ、お父様! 私も行ったほうがいいだろ? な?」
「ダメです」

 クーデリアは私の机に近づきながら獰猛な笑顔でそう言いましたが、ダメに決まっているでしょうに。

「なんでだよ!」
「なんでも何も、貴方は自身の立場というものを理解していますか?」
「……王女だからか?」
「その通りです。わかっているのなら大人しくしていなさい」

 この子の事ですから、許可を出したら軍と行動を共にする事なく単身で戦争に突っ込んでいくでしょう。それが分かっていて許可できるわけがありません。

 砦の救援としては有りかもしれませんしこの子の強さを思えば死ぬとは思えませんが、この子の場合はその親族が面倒なのです。

 クーデリアの種族である鬼族は、戦いを求める種族であるくせにクーデリアを戦いに向かわせると抗議してくるのです。過保護もいいところでしょう。

 一応政略結婚なのですからそういった面倒も仕方がないと理解していますが、面倒なことはないに越したことはありません。

 結婚した以上はクーデリアの親族達も役に立って欲しいものです。利益以上に不利益があるようでは困ります。政略結婚とはそういうものでしょう? いえ、私は結婚しているすべての妻を愛していますけどね。

「なら王女なんて立場はいらねえ!」

 くるりと身を翻して部屋から出ていこうとするクーデリアに近寄り、その腕を掴みます。

「その手を離せよ」
「ダメだ、と言ったのがわからないのですか?」

 私とクーデリアはそのまま睨み合いになりました。
 側にいた護衛が私たちに気圧されて数歩下がっていますが、それでもやめません。
 ここでこの子のことを離してしまえば、許可など関係なくこの子は勝手に戦争に突っ込んで行ってしまうでしょう。それくらい容易に想像できます。

「陛下、準備が調いましたが……どうかされましたか?」

 しばらくの間睨み合いを続けていると、開きっぱなしだった扉から屈強な肉体と特徴的な顔つきを持つ獣人の男性がやってきました。この者は今回の国境に派遣する軍の指揮官です。

「ああ、なんでもない。報告を続けなさい」
「はっ。全部隊出陣の準備が整いました。後は陛下の宣言のみとなっております」
「わかりました。今から行きます。……クーデリア。お前は大人しく──」

 大人しくしているわけがないと理解しながらも、それ以外に方法はないので言い含めてから手を離そうとしました。
 ですが……

 ドオオオオン!!

「くっ!?」
「きゃっ!」

 突如響いた轟音に、咄嗟に警戒態勢をとりながら周囲を警戒します。

 その後もいくつかの音が連続して響きました。

「今のは……!?」

 バッと窓の外を見てみると街の中から煙が上がっていました。

 そして街を良く見ると、住民が肉の塊のような異形の化け物に襲われています。

「襲撃? このタイミングで……援軍を出させないつもりですか……」

 街を襲わせることでそちらに戦力を割かせ、国境へ送る戦力を減らそうということでしょう。
 実際、街を放っておく事は出来ません。

「いかがされますか?」
「……援軍を半分に分けて国境に向かいなさい。残りは事態の収拾にあたらせます。国境は終わらせることができるのなら攻めても構いませんが、被害が大きそうならば時間稼ぎに努めなさい。こちらが収まり次第残ったもの達も送ります」
「はっ!」

 指揮官の男性は走り去っていきました。

 さて、これでどうなるでしょうかね。
 軍はおそらく三日もあれば戦場へと着くでしょう。
 だいぶ強行軍となりますが、あの場を奪われてしまってはどうしようもないので仕方がありません。

 私はクーデリアに向き直って一瞬だけ顔を顰めてから口を開いた。

「……クーデリア」
「なんだ? 国境に行ってもいいのか?」
「違います。……ですが、下で暴れているあの異形らを片付ける事は許します。多少の街への被害は構いません」
「いいのか!?」

 好きに力を使えるというのは喜ばしいのでしょう。クーデリアは子供のように目を輝かせています。

 この子の場合、はしゃぎすぎると周りに目が行かなくなってしまうので普段は力を使うなと言い聞かせていますが、今ならば構わないでしょう。どうせクーデリアがやらなくてもあの異形らに壊されてしまうでしょうし。

「ええ。とはいえ、被害を出しすぎないように気をつけなさい。そして出来る限り早く倒してください」
「分かってる!」

 そうして走り去っていくクーデリアの背を見送ります。

 軍が動くよりは速いですし、あの異形がどれ程の戦闘力を持っているのかはわかりませんが、あの子なら負けはしないでしょう。

「……これで事態が収まれば良いのですが……」

 恐らくはそうならないだろうと思いながら、ため息を吐きつつ今後の対策を考えて私も動き出しました。
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