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王国との戦争

262─裏:ケイノアの事情

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 ──ォオオン!

「……うう……?」

 何かしら? なんか遠くでなんだか大きな音がしたような気がするけど……まあいっか。私には関係ないことだし。

 そんなことよりも、もうちょっと寝よぅ……

 そう思ってもう一度ベッドの中で布団を顔に引き寄せる。

 二度寝ができるって素晴らしいわね! 森にいた時はいつもやってただったけど、冒険者やってた時は考えられなかったわ。

 あ、でも一応今も冒険者としての依頼中って事になってるんだったわね。家にいるだけでクリア扱いになるから忘れてたわ。

 いやー、本当アキトには感謝よねぇ。こんな私向け、ううん、私のためにあるような依頼を用意してくれるなんて。

 最初にこっちにきた時はどうなることかと思ったけど、こっちには美味しいものがいっぱいあるし、森にいた時よりも明らかにこっちの方がいいわね!

 あ、そうだ。起きたらキリーのお店にでも行こうかしら? シアリスが料理を作ってくれてるのはありがたいんだけど、イリンが作ってた時みたいにケーキとかの甘いものがあんまり出ないのよね。
 かと言って自分で作るなんてのはありえない。

 キリーのところも甘いものは少ないけど、頼めば何かしら作ってくれるでしょ、きっと。
 アキトのおかげで前みたいにお金の心配しなくてもいいから好きなだけ食べられるわね!

 よし! なら後でキリーのところに行こっと。

 まあでも、今は取り敢えず寝るのが先ね。キリーのところは起きてからにしましょう。

 おやす──

「お姉様!」

 もう一度夢の中に旅立とうとしていたのに、突然部屋に入ってきたシアリスによってそれは止められてしまった。

「寝ている場合ではありません! 起きてください!」

 まだ寝ていたいけど、シアリスがこんなに慌ててるんだからやっぱり起きないとよね?

「どうしたのよ……。アキト達でも帰ってきたの?」

 だとしたらちょっと早すぎない? あいつは一ヶ月くらいは出かけるって言ってたわよね?

「そうではありません! 外が大変なのです!」
「大変って、何がよ? ドラゴンでも襲ってきたの?」
「違いますが、あってます。……街を襲っているのは、ドラゴンではなく見たことのない異形なモノです」
「異形ねぇ……」

 そう言われてもピンとこない。けど、勉強熱心なシアリスが見たことがないっていうくらいだから、よっぱど珍しいか、もしくは新種なんでしょうね。

 だとしてもそれがなんでこの街を襲ってるの? ……さっぱりわからないわ。
 そもそも何が起こってるのかもよく分かってないわけだし、考えたところで分かるわけがなかったわね。

 まあでも……

「でもここにいれば大丈夫でしょ。色々と防御は張ったし。それに、めんどくさいんだけど……」
「アンドーさんとの約束をお忘れですか?」
「約束?」
「そうです。この家を守ること」

 ああそれね。けどそれは私がこの家にいればそれで平気でしょ?

 この家はアキトとの『この家を守る』っていう約束をのために、色々仕掛けた。

 具体的には、空いてる部屋の床だけじゃなくて壁や天井、とにかく部屋中にこの家を守るための魔術を描き込んで結界を張ってる。

 アキトからはいっぱいお金をもらったし、成功報酬で更に貰えるから今度は絶対に失敗しないように結構材料とか奮発したから、今この家はちょっとした要塞並みの防御力を持ってる。

 それに加えて屋内の温度を一定に保つことができるの。

 更に! わたしの部屋限定だけど消音と消臭。あと光量の調節と重力軽減に加え、温度の自由な調節ができるようにもしておいた。これのおかげで更に心地よく寝られるようになったのよ!

 そんな魔術をわざわざ私が施したんだから、たとえ周りが焼け野原になったとしてもここだけはそのまま残る自信があるわ! 

 これだけやっておけば『家を守る』っていうのは問題ないでしょ。

 術の維持にはそれなりの量の魔力が必要になるけど、私かアキトがいれば問題ない程度。

 正直機能の大半が私の部屋のためにあるし、そこが一番お金がかかった。手持ちのお金じゃ足りなくて借金もした。

 けど、どうせアキトが帰ってきたら報酬が入るんだから大丈夫よね? ちゃんと報酬内で収まるように計算して使ってるし。

「それと、家の周辺を守ることです。この家には防御用に魔術を使っていますが、周囲はそうではないでしょう?」
「……ああ~……。やんないとだめかしら?」

 そういえばこの家だけじゃなくて周りも守れって言ってたような気もするわね……。どうせ何も起こらないだろうって聞き流してたわ。
 だって一ヶ月程度なら寝て起きてをちょっと繰り返せばすぐでしょ? これが何十年とかだったらしっかりと話を聞いたかもしれないけど、一ヶ月程度じゃ、ねぇ?
 ……でも、もしかしたら、何十年だったとしても聞いてなかったかもしれないわね。

 まあそれはいいわ。起こちゃったんなら仕方ないわね。
 けど、この家だけならもう何もしなくても完璧に守れるんだけど、周りには何もしてないから守るには働かないといけないの。正直言って面倒くさいわ。

「……私達に被害が出るわけではないので私は構いませんが、もしアンドーさんが帰ってきた時に周囲の被害が出ていたら……」

 シアリスが顔をしかめてそれ以上言うのをやめたけど、その先に何を言おうとしてたのか私にも分かるわ。

 もしこの家が無事でもそれ以外が壊れてたりしたら、あいつ、確実に怒るわね。

「……はぁ。仕方ないわね」

 聞き流してて正直よく覚えてないけど、一応約束だもの。守らないとよね。

 ああ……働かないでこの家で寝てればいいだけの簡単な仕事だと思ったのに……

 私の邪魔をするなんて、誰よまったく。見つけたらぶん殴ってやるわ!

「それで、その異形ってどいつよ」
「それは外に出てご自身の目で確かめた方が早いかと思いますよ。なんとも説明のし辛い見た目をしていますので」

 そんなに変な見た目をしてるのかしら?




「……何これ?」

 その新種らしい奴を確認するために外に出たのだけど、私は自分の目に映る光景に戸惑っていた。

 この家に張ってある結界には攻撃したものを眠らせる機能があるんだけど、街を襲った新種はその結界に引っ掛かったのか、この家の敷地のすぐ外には蠢く肉の塊というか、山が出来上がっていた。

 何よこれ……明かに既存の魔物じゃないわよね。
 けど人でもない。植物でも魚でも、ドラゴンでもない。

 ……いいえ、違うわね。寧ろ……全部正しい?

「それらが街の各所を襲っています」
「各所って事は……」

 言葉通り、このわけわからないのが街のいたるところで暴れてるんでしょうね。今もいろんなところから音が聞こえるし。

 そこでふと頭の中に嫌な想像が浮かんだ。

 ……いやいや。ないない。それはないって。……ない、わよね?

「……ねえシアリス」
「はい、なんですか?」
「私がアキトとした約束なんだけど、この家の周囲ってどこまでだと思う?」
「それは……なんとも言い難いですね。聞いていないのですか?」
「……うん」

 私は守る対象は家と家の周囲だとしか聞いていない。
 けど、その『周囲』ってどこからどこまでを指してるの?

 エルフは森にいる時に、森を守ってる結界の他に、外敵の侵攻を抑えるための結界を各家毎に張ってた。
 もちろん敵以外の行動を阻害しないように結構面倒な術を使ってたんだけど、私がそれを家の周囲に張っていた時は直径十キロ程のものを張ってた。
 これは私以外には誰も張れないほどの広さの結界だったから、それが出来るってだけで私はずっと寝てられた。
 もちろん単独ではそんなのは使えないからこの家みたいに補助をいろいろ使ってたけど。

 まあそれはともかくとして、森にいた時の『家の周囲』を基準にすると、この街全部が範囲に入ることになる。

「……街全体は、流石にないわよね?」
「……どうでしょうか?」

 私とシアリスはお互いに顔を見合わせるけど、それで答えが出るわけじゃない。

「……。ああーー! もう! 分かったわよ! やるわ! やればいいんでしょ!」

 やらないとまた依頼失敗になっちゃう!

 今回家を守るための材料に使ったお金は成功報酬が入るつもりで借金して用意したから、失敗したらお金が返せなくなっちゃうじゃない!

 私はもう借金生活なんて嫌よ!
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