『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―

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王国との戦争

306:神獣からの助言

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「あの、彰人さん」

 スーラとの話にひとまずの区切りがつきため息を吐くと、環ちゃんが少しばかり表情を歪めて問いかけてきた。

「ん、どうかしたかい?」

 いや、どうしたも何も、自分に関するマイナスな事を聞いていたんだから不安になってもおかしくないか。

「先ほどから一人で喋っているように見えたんですけど、そっちの大きな蛇と話していたんですか?」
「は?」

 だが環ちゃんからかけられた問いは、俺の予想していたものとは違っていた。
 一人で喋っている? 何を言っているんだ? 大きな蛇って言ってるくらいなんだから、まさか目の前のスーラの姿が見えないってわけじゃないだろうし。

「ああ、言い忘れてたけど、今の私の言葉はあなたにしか聞こえていなかったわよ」

 俺が悩んでいると、話の相手であったスーラがそう伝えてきた。
 そういえば俺は普通に喋ってたから忘れてたけど、こいつとの会話は思念のやりとりだったな。聞かせる相手を選べるのか。

「なんでそんな事を」
「そっちの子の状態について話すのだから、聞こえない方がいいかと思ったのだけど?」

 なるほど。こいつは最初からある程度の状況を察していたのか。だから環ちゃんに聞かせる前に俺に聞かせようとしたと。

「そうだったか。ありがとう」
「どういたしまして」

 そうして俺が感謝をしていると、環ちゃんは先ほどの不安そうな表情のまま再び問いかけてきた。

「えっと……なんだか私に関して話してたんだと思いますけど、もしかして何か悪い状態なんでしょうか?」
「ん……んー、いやそういうわけじゃないんだけど……」

 どう話したものかなぁ。本人に直接「君の頭はおかしくなってる」なんて言えないし……。

「こんにちは、環さん」
「っ!」

 そう考えていると、スーラが環ちゃんへと話しかけた。

 このタイミングで話しかけたのは、どう話せばいいか迷っていた俺への援護だろう。
 このまま話をうやむやにできればいいんだが、上手くいくか?

「……今の声はあなたですか?」

 環ちゃんは目の前にいるスーラへと視線を向け、少し戸惑いながらも話かける。

「ええ。はじめまして。この地で神獣と呼ばれているものよ」
「……はじめまして。滝谷環と申します」
「環さんね、知っているわ。今アンドーさんが話していたもの」

 スーラはそこで一息つくと、何故か一瞬だけ俺の方を見てから話を再開した。

「気になっているでしょうけれど、大丈夫。あなたに関しては問題ないわ。アンドーさんが気になってたのはそっちじゃなくてもう一つの方よ」
「もう一つ、ですか?」
「あなたも見たと思うのだけれど、里の子がおかしな姿に変わってしまってね、そのことについて話していたの」

 なるほどな。俺が「どうにもできない」とか「歪んでる」とか言っていたのはソーラルの件についてって事にするのか。

 俺としては上手く言い訳をするなと感心したのだが、それでも環ちゃんは納得していない様子だ。

 そうして納得していない環ちゃんは質問をしようとしたのか口を開いたのだが、その前にスーラが新たに言葉を発したせいでそれは遮られた。

「まあ、そうは言ってもこんなところまで連れてこられたのだから不安よね。でも大丈夫よ。本当に、どうしても不安だっていうのなら、しばらくの間アンドーさんと一緒にいればいいわ」
「わかりました!」

 環ちゃんはさっきまでの不安そうな顔は何処へやら、にぱっとでもいう音が起こりそうなほどに満面の笑みを浮かべて元気よく返事をした。

「おい!」

 だが、俺はそれを受けいれることなんてできはしない。

 俺の側に居ろと無責任に言ったスーラに対して、環ちゃんに聞かれないようにするためスーラがやっているように思念で語りかける。

「! あら驚きね。まさかあなたの方から繋げるなんて」
「以前から何度も受けてたかなら。要は魔力を相手に飛ばしてパスを作るんだろ」
「けど、魔術を使ってる様子はないわよね?」
「ああ。本来はお前みたいに専用の魔術を使うのかもしれないが、俺にはそんな才能はないからできない。けど、魔力の操作ならそれなりに自信がある。この程度の距離なら今みたいな単純な効果の真似事くらいはできるさ」

 距離が離れるとできないが、二、三十メートルくらいなら繋げる事はできる。まあ才能のない俺が出来るのは、魔力の操作には自信があるっていうのと密かに練習はしていたからだ。里にいる間、時間だけは無駄にあったからな。

「それで? わざわざそんな事をしたのだから何か言いたいことがあるのでしょう?」
「ああそうだった。……俺に一緒にいればってのはどういう事だよ。まだこっちはこの子の対応について考えてるところだったんだぞ」

 勝手に決めた事への不満さを隠さずに俺がそう伝えると、スーラは全く意に介する事なく平然とした様子で反論した。

「むしろ離れた方が不安定になると判断したからよ。あなたから見て不安定に見えても、一緒にいる限りその子はよっぽどの暴走はしないはずよ。最悪の場合はあなたが止めることができる。今の彼女を不安定だと判断するのなら、放っておいたほうが貴方にとっては怖いんじゃないのかしら?」

 スーラの見立てからすればそうなのかもしれない。
 それに放っておくのが怖いってのも間違ってない。
 だが、そうは言っても……

 そう悩んでいると、スーラから呆れだろうか、ため息を吐くような思念を感じた。

「……あなたが何を悩んでいるのか、まあなんとなくは予想がつくけど、ひとつ言わせてもらうのならここはもうあなたのいた世界ではないのよ。元の世界の常識に囚われてその子の事を見捨てる。なんて事は、その子が可哀想よ。あなたが今後どうするのであれ、しっかりと向き合ってあげなさい」

 しっかりと向き合う、か……。
 その事が大事だってのはよく知っている。なにせ、俺は以前にイリンに思ったことなんだから。そして向き合うと決め、行動したおかげで俺はここにいる。
 だから大事だというのはよく分かっている。……分かっては、いるんだけど……。

「あの……どうかしましたか?」

 再び無言になった俺たち、というか俺が気になったのか、環ちゃんが声をかけてきた。

「なんでもないわ。ただ、件のおかしくなってしまった子の事でちょっとね。それと、後でもう一度来て欲しいって話をね」

 スーラは俺に目配せをすると、俺はそれを受けて頷き環ちゃんへと振り返った。

「行こうか、環ちゃん」

 俺の様子が普段とは少し違う事に気がついたのか、環ちゃんは首を傾げていたけどそれを無視して俺は里へと歩き出す。

「あなたが答えを見つけられる事を祈ってるわ」

 その途中で背後からそんな声が届いたが、俺は足を止めずにそのまま去って行った。
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