『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―

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王国との戦争

307:治療完了の報せ

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 環ちゃんをこの里に連れてきてからもう一月が経とうとしていた。

「彰人さん、これはどうですか? 昨日作ってみたんですけど」
「……ありがとう、環ちゃん」

 俺はそう言って環ちゃんが差し出してきた服を受け取る。

「けど、そんなに俺に構わなくてもいいよ。この場所では色々と限られるけど、自分の好きな事をやるといい」
「大丈夫です。これが私の好きな事ですから」
「……そう……」

 笑顔でそう言われては俺にはそれ以上の反論をする事はできなかった。

 そろそろイリンの怪我が治り起きてもいい頃だというのに、未だスーラから治療が終わったという連絡は来ない。

 そして、この一ヶ月の間、環ちゃんは毎日のように、というか実際に毎日俺のためにと何かしらをしている。

 最初はちょっとした事だった。
 イリンの部屋で待機していた俺はつい暇だと呟いてしまい、それを何故か一緒に部屋にいた環ちゃんが俺の話し相手として名乗り出て、適当に話していた。

 それが段々と変わっていき、今日はお菓子を作った、今日は昼食を作った、今日は三食とも作った。みたいに変わっていき、ついには今みたいに服を作って持ってきた。……色々と

 いや着心地はいいんだけどね? この世界の服なんて現代日本で暮らしていた俺からすると粗雑すぎて痛いと感じるものさえあるほどだ。
 それに対して環ちゃんが作った服は、流石に日本のものと比べると荒さがあるが、この世界の物でも上位に入るような触りごごちのものだった。
 一応この里にも布の類は置いてあるが、この里の人たちは服なんて重視していないから荒い物しかないのにどうやったんだろうか?

 最初はもらっても着るつもりはなかったんだけど、環ちゃんからの視線が悲しげで、どうにもそのまま放置しておく事はできずに着ることとなった。

 それが余計に彼女の行動が調子に乗らせる、ってわけじゃ無いけど行動に影響しているのは理解しているし、いい加減俺も言葉だけではなくハッキリとした態度で接するべきだとは分かっている。

 だけど、そう考えいざ行動に移そうとするとどうしても以前スーラに言われた言葉が蘇り、それが俺の思考を狂わせる。

「あ、アンドーさん。ちょっといいかしら?」

 夕食の時間になったと呼ばれたので部屋から階下へと降りていき食堂へ向かうと、ちょうど来たのか入り口でばったりとチオーナに出くわした。

「チオーナ? ああ、なんだ?」

 話があるのならいつもは食事の途中でするのに、今日は何故か違った。まあ偶然出会ったからちょうどいいと思っただけなのかもしれないけど。

「先ほど神獣様からご連絡を受けたのだけれど……」

 チオーナはそこで一旦言葉を止めた。

 なんだ? スーラが連絡そして来たって事は、何か問題でもあったのか?

 そう思っていると、言葉を止めたチオーナはにこりと微笑み……

「イリンちゃん、もうすぐ起きるそうよ」

 俺が待ち望んでいた言葉を告げた。

「……っ! 本当かっ!?」

 イリンが起きる。

 突然言われたその言葉の意味をすぐには理解することができず一瞬反応ができなかったが、脳がその言葉の意味を理解すると俺は掴みかかる勢いでチオーナに近寄り問う。

「治療自体は終わったとおっさしゃられていました。ただ、ここからはいつ起きるのかは分からないとも。どれ程長くなったとしても三日以上はかからないとおっしゃられていましたが、それが今なのか、それとも三日後なのかはわからないそうです」

 イリンが……治療のために眠ったまま起きなかったイリンが、ついに目が覚める。

「ならっ!」

 そう思うといてもたってもいられず、俺はそれだけ言い残して即座にイリンの眠っている部屋へと駆け込んだ。

「イリンッ!」

 だが、そうして駆け込んだ部屋ではイリンは目を覚ます事なく、いつものようにただ静かに眠っているだけだった。

「……まだ、起きないのか……」

 俺は未だに眠り続けるイリンの姿に顔を顰めながらも、一歩、また一歩とイリンの眠るベッドへと近づいていく。

 そうしてベッドまでたどり着いた俺はその場でしゃがみ込み、眠るイリンの手を取った。

 俺の後を追ってきたのか、背後からドタドタと誰かが走る音が聞こえた。

「彰人さん……」

 呟くような環ちゃんの声が背後から聞こえた。だが、俺はそちらに振り向く事はせず、早く起きてくれと、ただイリンの手を握っているだけだった。

「どうですか、ご様子は」

 その後、ゆっくりとした足音と共にチオーナがやってきた。

「ああチオーナ。……まだだ。まだ起きていない」
「そうですか」

 俺が振り向かずにそう答えると、チオーナは何かを考えるように小さく唸った後、静かに口を開いた。

「……お食事はこちらに運んできた方がよろしいかしら?」
「……ああ、そうだな。頼めるか?」
「ええ。では」

 それだけ言うとチオーナは下がっていく、その場には俺とイリン、それと環ちゃんだけが残された。
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