『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―

文字の大きさ
279 / 499
王国との戦争

323:収納の使い方説明

しおりを挟む
 結局ケイノアには新たに魔術具を作る費用の全額を出してやる事にした。俺の部屋だけでなく全ての部屋に効果が出るようにしてくれるって事だしな。

 まあ今回は俺に非がないわけでもない。それに話を聞いているとこいつはこいつで活躍したみたいだし、これくらいはいいだろう。

 ただ、こいつの所持金は全く残らなかった。それどころかマイナスになった。
 ケイノアは結界を作るときに計算して借金をしたと言っていたが、それでは不十分だった。確かに計算自体はあっていた。俺が報酬として渡す金額ピッタリの借金をして、材料やお菓子を買い漁ったのだ。
 だが、借金とは時間経過で増えるものであるそれはどこの世界でも同じであり、早い話が利子を忘れていたのだ。そのせいで借金を返し切ることができない。

しかも俺が帰ってきたらすぐに返せるからと、詳しい利子等の内容を確認することなく借りたせいで変なところから借りていたらしく、借金の利子はかなりの額になっていた。

「なんで全額出してくれないのよおおおお!」

 何か叫んでいるが、最初の契約通りの額は払ったんだから、まあ無視でいいだろう。頑張れば返せる額だからしっかり働け。

 そんなことよりも、環ちゃんに俺の使っている『収納』スキルについての説明がまだだ。

「さて。ちょっと横に逸れたけど話を戻そうか」

 俺はそう切り出すと隣に座っていた環ちゃんへと体を向ける。そのせいでイリンに背を向ける形になってしまい、イリンが俺の服を引っ張る力が少し強くなったが、可愛いのでよしとしよう。

「まず、俺が使えるスキルだけど、俺は『収納』しか使えないよ」
「えっ、でも『対抗魔術』は……」
「それは……まあ、有り体にいえば嘘だ」
「嘘、ですか……」
「そう。俺がやっていることは全て収納の応用だ」
「でも魔法を消したりしてましたよね?」
「ああ。でもそれも収納の能力だ。……環ちゃんは収納の発動条件はわかるかい?」
「無生物である事。それと自分が触っている事、ですよね?」

 これは環ちゃんも実際に使っているからすぐにわかったようで即座に答えた。

 だがそれは正解ではあるが、彼女は自身の言った言葉の本当の意味を理解していないだろう。

 俺は目の前に置かれていた飲みかけのカップを手に取る。

「じゃあ例えばこれ。このカップの中には飲み物が入っているけど、これを収納したら中の飲み物どうなる?」
「えっと、一緒に収納されますよね?」
「直接触っていないのにかい?」
「え? ……あ。そういえば……でもなんで……?」

 俺が言った言葉に不思議そうにしている環ちゃん。誰かに言われる事でやっとおかしいと思ったようだ。
 まあ俺もほかにスキルを持ってたら「収納? まあそんなもんか」みたいな感じになって深く調べようとしなかったかもしれないし、おかしいってわけでもないか。

「わかりやすくいえば、『収納』スキルっていうのは、スキルの使用者が『触ったと認識したもの』を出し入れすることのできる能力だ。だからこのカップも、『カップ』と『飲み物』って認識するんじゃなくて、『飲み物の入ったカップ』と認識することで直接触らなくても収納できるんだ。まあこの辺は君たちも意識しないで使ってたけど」
「触ったと認識したもの、ですか」
「そう。認識できていればそこに制限はなく、生き物以外ならなんでもしまうことができる。だからそれを応用すれば魔術だったとしても収納することができるんだ。前に君達にスキルを偽って見せたのはこれのおかげだ」

 俺は以前に収納したことのある灯りの魔術を取り出して環ちゃんに見せる。

「そして、こんなこともできる」

 出した灯りの魔術をもう一度収納して、今度は直径三十cmくらいの木片を取り出す。
 俺は取り出した木片をテーブルの上、さっきまで俺が持っていたカップの隣に置き、そしてその木片に触れながらカップの形が残るように収納を発動した。
 すると、今までそこにあった無骨な木片は消え去り、代わりに隣にあるカップそっくりになった木の彫刻が置かれていた。

「……すごい」
「これが『収納』の応用だ。と認識すればなんでも、どんな形でも収納することができる」

 そう言いながらもう一つ木片を取り出し、今度は目の前でシアリスに介護されてソファーに寝転んでいるケイノアの形に収納し、そしてできた彫刻をテーブルの上に置いた。……彫刻のタイトルは『眠れる美女』とかか? 見た目が美少女であるのは間違っていないし。……でも元になった奴を知ってると名前負けしてるように感じるな。

「環ちゃんもやってみるといい。今はこんな感じで彫刻作りみたいになってるけど、地面に触りながらやれば地下通路なんかも作ることができるし、覚えると便利だと思うよ」
「はい! ……あれ?」
「どうかしたかい?」

 いざ始めようとしたのだが、何か問題でもあったのか環ちゃんは首を傾げた。

「あ、えっと、私収納の中に必要なものしかしまってなくって……。倒した魔物とかはしまってあるんですけど、それはダメですよね?」

 魔物の死体は流石にダメだろう。できないってわけじゃ無いけど、部屋も自分も汚れるし見た目が悪い。そもそもやりたくない。肉のオブジェとか……そんなもの見たくない。

「あ、あはは。それは流石にね……俺は色々しまってるからあげるよ。収納は無限にしまえるんだから無駄だと思えるものでも色々しまっておくと便利だよ」
「え?」
「え?」

 何がおかしかったのか環ちゃんは疑問の声を漏らしたが、それに釣られて俺も同じように声を出してしまった。

 その後俺と環ちゃんは数秒見つめあった後、環ちゃんの方から口を開いた。

「……収納魔術よりもいっぱい入りますけど、制限はありますよね?」
「制限? 俺は今まで限界を感じたことないけど?」
「「……」」

 だが俺たちはそこで再び黙り込んでしまう事となった。

 収納に限界なんてあったのか? でも俺は今まで限界なんて感じたことがないぞ?
 環ちゃんの方がたくさん荷物をしまっているってことは……多分無いだろう。
 だって俺は家だとか木だとかしまっているのに限界が来ないんだ。もし環ちゃんが限界まで収納しているんだったら木片の一つでも持っているはずだろう。木片でなくても何かしらの代わりになるものはあったはずだ。
 それが無いってことは、彼女は俺のように余分なものをしまっていないということになる。

 だというのに、収納の容量に限界を感じた? 俺と環ちゃんでは収納の容量が違うのか?

「……まあ、今はとりあえず練習してみようか」
「そうですね」

 だがそうして試し始めた環ちゃんだが、その手の中にある木片は普通に収納されてしまった。そして再び取り出したのだが、またもいつもどおりに収納してしまう。

 ……初めてだから苦戦しているのか? いきなり今までとは違う使い方をしろって言っても難しいかな?

 そんなことを何度か繰り返していたのだが、そう時間が経たないうちに環ちゃんは疑問の声を上げた。

「……ふう。これすごく難しいですね」

 難しいか? 最初にこの応用を思いついてやったときにもそれほど苦労はしなかった。強いていうのなら収納する際の形を把握するのが大変だったくらいか?

「当然でしょ。そんなのそうそうできるバカはいないわよ」

 ソファーに寄りかかってだらけながら菓子を食べていたケイノアが突然そう言った。
しおりを挟む
感想 317

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。