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王国との戦争

335:後一週間

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「……」
「……」

 ガムラがキリーへの告白を終えた後、二人はどうしていいのかわからないのかその場から動く事はなかった。
 特にガムラは、覚悟も何もなく唐突にすることになってしまった告白が上手くいったことに安堵したのか、まぬけに口を開けたまま放心している。

「キリーさん。おめでとうございます」
「……ハッ! お、おめでとうございます!」

 そんな二人の様子を慮ってか、今のを見ていたイリンが声をかけ、それに続くように環ちゃんも声をかける。

「まさか、目の前でこんなところを見られるとは思っても見ませんでした……」

 クリスティアはまさか目の前で突然告白が行われるとは思っていなかったのか、目をパチパチと瞬かせて驚きをあらわにしている。

「ん? どうしたんだ? 何かめでたいことがあったのか?」

 だが一緒に見ていたはずのクーデリアは、首を傾げてそんなことを言った。

「え? だって今の……見てましたよね?」
「見てたけど、それがどうした? ガムラがキリーに告白したってだけだろ?」

 環ちゃんが戸惑いながらもクーデリアに問いかけてみれば、どうやら彼女は何が起きたのかを理解していない、と言うわけではないようだった。

「えっと……あの、クーデリアって告白の意味は知ってる?」

 もしかしたら、告白という行為は理解していても、そこに込められた意味を理解していないのではないだろうかとでも思ったのか、環ちゃんはそう問いかけた。

 それにしても、会ったばかりなのにもう呼び捨てにするほど仲良くなったのか。まあ、あいつの性格なら呼び捨てにして欲しいって自分から言ったんだろうな。

「む、バカにするなよ、タマキ。結婚の申し込みだろ? それくらいわかってるさ」

 その答えは、今目の前で行われた行為の意味を、理解しているけど理解していないとでも言うような微妙なものだった。

「……鬼族だったか? 全員あんな感じなのか?」
「いえ、全員ではありません。まあ種族的に戦い以外に興味が薄いというのはありますが、それでも今のを理解できないわけではありませんよ」
「なら、あいつが特別鈍いのか」
「あの子が特別、というのは間違っていませんが、多分あなたの思っている特別とは違います。クーデリアはまだ子供なのです。鬼というのは亜人種の中では珍しく、長寿の種族です。その寿命はエルフと同じ……とまでは流石にいきませんが、それでも二百年ほどは生きます」

 それはまあ、イメージ通りでもあるな。俺の中では鬼というのは妖怪だ。もしくは神。
 この世界ではれっきとした人の種族として存在しているが、それでも完全に俺の想像が違ているってことはないらしい。
 でも二百年か。人間の寿命が百年だから、単純に倍だな。……いや、この世界では百歳まで生きるなんてのは稀だから倍どころじゃないな。

「クーデリアは現在二十七歳ですが、鬼族であるあの子は種族の中ではまだまだ子供なのですよ。人間でいうなら十歳ほどでしょうか」

 十歳か……それなら仕方がないのかもしれないな。
 けどそうか。やけに子供っぽいところがあるように感じたのは気のせいとかじゃなくて、実際に子どもだったからなのか。

 普段の言動がアレなのも、歳のことを考えればそれなりによくやっていると言えなくもない。王族としての教育の賜物だろう。

「それは知らなかったな」
「まああまり自分たちの集落から出てこない者たちですからね」

 それにしても、十歳並みの思考回路なのにアレほど戦いを求めると言うのは、やはり戦闘を好む種族なんだなと実感せざるを得ない。
 でもだからこそ自分たちの住処から出てこないんだろうな。外に出ていったところでろくに戦ってくれる相手も、戦える相手もいないから。

「キリーさん。あそこまではっきり告白されると嬉しいのではないですか?」
「そうですよね。すごい情熱的でしたし」
「あー、あいつにも言ったが、正直どう思ってるかなんて分からないんだよ。今まであんなのとは無縁の生活を送ってきてたからね」

 俺がグラティースとそんな話をしていると、いつのまにか女性陣の席へと連れ去られていたキリーに対して、クリスティアと環ちゃんが話しかけていた。

 質問をしているクリスティアはやけに楽しそうだ。どうやら目の前で知人の告白という場面に遭遇することができて興奮しているらしい。

「それに、あたしだけじゃなくてそっちには聞かないのかい? イリンも告白を受けたんだろ?」
「はい」
「そうなんですか? それはどのようなものでしたか? どんな言葉を、どんな風に告げられたのです?」
「え、えっと、その……」

 イリンがちらりとこちらを見ている。

 ……やめろ。だめだ言わないでくれ。

 だが、真剣にそう願いを込めた視線は理解されることはなかった。

 俺の視線と目があったイリンは、頬を赤く染めて頬を赤く染めすぐに俺から視線を逸らし、若干うつむきながら話始めてしまった。

「わ、わたしのことを一生懸命考えてくれた素晴らしいものでした。……ずっと一緒にいて欲しい、と」

 イリンが顔を赤らめたままそう言ったことでクリスティアはキャーキャーとはしゃいでいる。

「うぎぎぎ……」

 そんな彼女とは対照的に、環ちゃんは恨めしそうに歯を噛みしめながらイリンを睨んでいる。

「ほぅ、そうだったのか……んー?」
「どうかしましたか?」

 だが、それを聞いたクーデリアは、何か疑問を感じたのか首を傾げた。

「……アンドーは環には告白しないのか?」
「ぶっ!」

 こいつ、それを聞いてくるか。もしかして俺の状況をわかって言ってんじゃないだろうな?

 その言葉には俺だけではなく環ちゃんもびくりと反応し、俺の方を見ようとしたが、その動きは完全に俺の方へと向く前に止まった。

 環ちゃんはそんな感じだが、それ以外の視線は俺へと集まる。だが俺は動く事ができず、何もいう事もできない。

「……ふぅ。そこまでです。いくら親しくなったとはいえ、他人の事情にそこまで突っ込んではいけませんよ」

 俺がこまっているのを察したグラティースがそう言って、質問をしたクーデリアとその質問を楽しそうに聞いていたクリスティアを諫めた

 他人の事情に突っ込むのは親子共々だが、今はこの状況を壊してくれたグラティースが神様に見えるよ。

「それにしても、この街を出て行くとなると、うちのあった場所はどうするかね……」

 グラティースの後に続いて話を逸らすためか、キリーはそう言ってからため息をはいた。

 でもそうか。この街を離れてガムラの故郷に行くのならこの街に持っている土地は必要なくなるのか。

「なら私が買い取りましょう」
「いいのかい? そんなに簡単に決めちまって」
「ええ。使い道がなければ適当に売りますから。まあ結婚祝いだとでも思ってください」
「結婚祝い……」

 どうにか告白の衝撃から立ち直ったとは言っても、面と向かってそう言われると流石に恥ずかしいのだろう。キリーは再び固まってしまった。

「……んん! ……じゃあ後は任せてもいいのかい?」
「ええ」

 これでもう問題は無くなったか? そうなると、後はここを出て行く日がいつなのかが知りたいな。

「いつ出ていくんだ?」
「俺はいつでも構わないが……」

 ガムラはそう言ってキリーへと視線を向ける。

「ん。まあそうだねぇ……知り合いに挨拶もなしに出て行くってのも不義理すぎるし、挨拶をしてからになるね。だからまあ……出て行くんなら一週間後くらいか」
「一週間後か……」
「ああ。悪いけど、それまで厄介になるよ」

 それは構わないが、でもそうか。後一週間でキリー達がいなくなってしまうのか。

 ……そろそろ俺たちも、旅に出ることを考えてもいいかもしれないな。
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