『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―

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王国との戦争

341─裏・王女:魔王の協力

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「──ふぅ。これで教国の方はなんとかなるといいのですけれど」

結局私が教国の事情に本格的に介入し始めてから今日に至るまで、三ヶ月ほどもの時間が経ってしまいました。
私も、私が背中を押した相手も、お互いに国を離れられない立場ですから使者を通してのやり取りをするしかないので仕方がないのですけれど、もっと早く終わらなかったものかと思ってしまいますね。

……ですが、それも今日で終わりです。先ほどの使者が教国に着きこのままいけば、教国は亜人の排除と王国への協力を約束してくれます。
そうなれば後は……

「どうにかなりそう?」
「ええ。思ったよりも難航しましたが──」

突然背後から聞こえた声に思わず反応してしまいましたが、この部屋には私しか居ないはずです。

「何者ですか!」

私はその場から飛び退いて、服に仕込んであった短剣と魔術具を構えます。

「おおー。すごいすごい。お姫様とは思えないほどに素早い動きだね。いやいや、ほんとにお姫様?」

私が先ほどまでいた場所のすぐ後ろにいたのは、黒い髪に黒い目をした少年でした。

「……何者かと聞いたはずですが?」

まるでこの国で呼び出した勇者のような見た目をしているその少年から注意を逸らすことなく、私は部屋の入り口へと意識を向けました。
ですがその扉が開くことはありません。おかしい。これだけ大きな声を出せば兵が入って来るはずなのですが……

「助けは来ないよ。ちょっと細工をさせてもらったからね」

どうやら近衛兵はこの少年に倒されたようです。それは近衛達が弱いのではなく、目の前のこれが私の想定以上に強いと言うことです。

「ああそれと、僕が誰かって話だけど……教えて欲しい?」
「さっさと言いなさい」
「えー、そんなに知りたいんだー。僕としてはそんなんに求められるのはやぶさかじゃないんだけどぉ、出会って一分もしないでそこまで求められるとちょっと怖いっていうかぁ……」

頬を赤らめながらそっぽを向く仕草をしていますが、それが本気でないことは誰にでもわかります。この者とて、こんなことで本気で騙せるとは思っていない。そもそも本気で騙そうなどと考えていないでしょう。

「戯れる気はありません。言わないのでしたら去りなさい」
「はぁ。いいじゃないかちょっとくらい話に乗ってくれても。せっかく久しぶりに人と話すんだからさぁ……」

少年はがっかりしたようにため息を吐き出すと、すぐにその表情を変えてこちらを向きました。

「ま、いいや。僕が誰かって話だけど……ひ・み・つ!」

ふざけた態度をとる少年に対して私は警戒を解くと、持っていた短剣を投げつけました。
本来であればこんな自分から武器を捨てるようなことをするのは無策ですが、近衛達が音もなくやられるほどの強さを持っているのであれば、私程度が武器を持ったところで意味などないでしょう。
ですが、まあ当然ながら簡単に受け止められてしまいました。受け止められた際に短剣に籠められた魔術が発動して雷を発生させましたが、効いた様子がありません。ここはやはり素直に話で対応をした方がいいでしょう。

「もー、危ないなぁ。そうかっかしないでよ。協力しにきてあげたんだから」
「……所属も名前も告げない相手と協力しろと?」
「あー、まあそうかぁ。……じゃあ僕のことは魔王とでも呼んでよ」
「…………は? ま、おう?」

それ以上言葉が出ません
魔王? 本物? いやそんなことが……でももし本物だったら? そもそもなぜ今? 

魔王を名乗る目の前の少年の言葉について考えながら少年に目を向けると、少年は楽しげに笑っていました。

「驚いた? 驚いちゃった? 驚いちゃったかー。そう、実は僕ってば魔王なんだよね!」
「………………馬鹿なことを」
「でも、お姫様ってば信じちゃってるでしょ?」

そう。馬鹿なことだとは思っているのは事実。だけど目の前の存在が魔王であると言うことも事実であると私は信じてしまっている。

それは近衛達を倒した実力もそうですが、目の前の存在から感じる得体の知れなさが原因。この者からはなんとも不安になるような力を感じている。

「まあそれはそれとして、話を戻そうよ。協力してあげる」
「……協力とは何に……」
「お姫様さぁ、今大変な状況なんでしょ? 頑張って準備した軍隊が返り討ちに遭っちゃって、それをどうにかするために色々やってる。教国のゴタゴタを急がせたのもそのためでしょ?」

どうやらこの少年は──魔王はこちらの状況を知っているようです。まあそれも当然でしょう。先ほどの独り言を聞かれた上に、こんな場所まで入り込めるような相手なのですから。

「いやー、大変だよねお姫様もさ」

そう言って笑っている魔王は、私の執務机の上に載っている書類を乱暴に払い落とすと机の上に座りました。

そして、それまでのものとは種類の違う、楽しげなものではなく、ニヤリといやらしい感じのする笑みを浮かべました。

「お姉さんも大変だったし、そういう家系なのかなぁ、なんて思ったり」
「……な、なにを……」

お姉さんも大変だった、と言われて私の心臓がドクンと大きく跳ねます。

「ん? なにって事実でしょ? おねえさんは亜人と人間が手を取り合う世界を夢見てた。みんな仲良く手を取って、笑って暮らし、仲良く魔族をぶっ殺そうとしてた」
「……」
「ああ。別に魔族を殺そうとしたことにどうこう言うつもりはないよ。あれは人の敵だったし、そう言う風に作った。僕にとっては単なるおもちゃ……それ以下かな? まあその程度の価値しかないからいくら殺してくれても構わないんだよね。──っと話が逸れた。で、そんなお姉さんだったわけだけど、魔術の才能に溢れて、賢くて、そしてとっても綺麗だった」
「…………やめ……さい」

絞り出すように口にした制止の声。ですがそれはハッキリとした言葉にはならず、目の前の魔王は聞き入れてはくれません。

「そんなお姉さんはいろんな種族と友好を結ぶために、亜人達の国に行った。けどその結果は酷いものだった。なんと、友好を結ぼうとした相手である亜人に襲われたんだから」
「……やめなさい」

今度は小さくはあったがしっかりとした言葉として口にすることができた。
けれど、それでも魔王は話すのをやめない。ただ、嗤いながら話し続ける。

「酷い話だよねぇ~。協力して魔王ぼくを倒そうとしてたのに、まさか協力の手を払い除けるどころか、襲っちゃうんだから。あれは僕からしても酷いと思うよ。同情に値すると言ってもいい。なにせ襲われたお姫様のお姉さんは、死ぬまで犯され続けたんだから。その上、最後は裸のまま路上に打ち捨てられるだなんて、王族相手によくやったもんだとは思わないかい? これじゃあお姫様が亜人嫌いになって人間以外を殺そうとしても仕方がな──」
「やめろと言ったのです!」

ようやく出すことのできた叫びに反応して、魔王は話すのをやめました。

「ああごめんごめん。そう怒んないでよ。お詫びにこれをあげるからさ」

そして魔王は全く悪びれた様子もなくそう言って、私の足元へと一つの宝石を放りました。

「それは魔族の卵。そこに魔力を込めればそこそこ強い魔族を作れるよ。魔力を込めた人の言うことも聞くようになってる。どう? 便利でしょ? それを使って頑張るといいよ。お姫様ならそれの『良い使い方』を思いつくでしょ?」

たしかに私たちの言うことを聞く魔族を使役できるのであれば、その使い方はこの一瞬で思い付いただけでもいくつもあります。
ですが……

「……なぜこれを私に?」
「言ったじゃない。お詫びだって」

魔王はそう言いながら肩を竦めました。そしてなにを思ったのか、身軽に机から降りて部屋の中を歩き始めました。

「ま、実際のところ暇だからだね。僕はこう見えて何百年どころか何千年も生きてるんだ。それだけ生きてると暇で仕方がないんだよ。だから暇つぶしになればいいかな、って勇者の召喚なんてものも見過ごしてきたわけだしね」
「気づいていたのですか」
「当然。そんな面白そうなもの見逃すはずがないでしょ」

面白そうなもの、ですか……。その面白そうなものを準備するのにどれだけの手間と材料がかかっていると思って……いえ、この者なら知っているのでしょうね。

「せっかくなら僕のところまで攻め込んできて欲しいんだけど、今は準備が整ってないみたいだからね。その手助けだよ」

つまりは今こちらに投げた魔族の卵とやらを使って人間をまとめあげろと、そして自分を殺しにこいと、そう言いたいのですか。

「ま、使う使わないはお姫様に任せるけど、楽しませてくれることを期待してるよ」

本棚に手を伸ばしたり置き物でお手玉をしたり無意味に部屋を歩き回っていた魔王は、そう言って私の目の前まで近づくと、顔のつきそうなほどの距離で私のことをじっと見つめました。
そしてニヤッと笑うと体を離し、全身に魔力を漲らせます。

「じゃーねー。また会うと思うけど、今度は僕の城で会えることを期待してるよ。無理だと思うけど」

最後にそう言い残して魔王はその場から消えました。

………………いいでしょう。あなたの望む通り、亜人を支配し、人間をまとめあげて差し上げます。

「教国はどうにかなりそうですし、これはギルド連合で使うとしましょう」

ですが、その果てがあなたの望む通りになるとは思わないことです。
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