『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―

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友人達の村で

385:あざといっ

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「む~~~」

 このどこか間の抜けたように感じる可愛らしい声の主はイリンだ。
 普段のイリンとはかけ離れたような少し子供っぽいような可愛らしい声。

 何故こんな声を出しているのかというと、ナナから教えてもらっている神獣の力の使い方の訓練のせいだ。
 現在俺たちは馬車を停めて野営をしている。

 ナナと出会ってから今日で数日が経ち、それまでの間イリンは毎日訓練をしているのだが、まだまだ成果は出ていない。
 先ほどのような声は、あまりにもできなさすぎて焦れたというのもあるだろう。

「あっ──」

 野営の火を囲みながらそれぞれ自由に行動していると、突然イリンが声を上げた。

 その声のした方を向くと、イリンとナナが顔を見合わせていた。
 そしてナナが頷くと、イリンはパアッと笑顔になり変化した自身の腕を見た。

「できました!」

 そして何度か手を動かして確認すると、イリンはその変化した腕を顔の前に持っていき俺に見せて来た。

「……あざとい」

 その様子を環も見ていたのだろう。変化した腕を見せてくるイリンに対してそんなことを呟いている。

 だがそんな風に呟いた彼女の気持ちもわからないではない。

 神獣の力を使い変化したイリンの手は、現在もふもふとした毛に包まれており、掌にはぷにぷにと柔らかそうな肉球らしきものができている。
 まあ、簡単に言ってしまえば、今のイリンの手は手首のあたりから狼のものになっていた。
 狼の耳に尻尾。その上てまでが狼のものとなり、可愛らしさが増している。
 その上、いつもの冷静な感じとは違い、数日かけてやっと成功したためにイリンはできたできたとはしゃいでいて、それも相待ってとても可愛らしい。

 しかし、確かに環の言うようにあざとさを感じてしまうようなイリンの様子だが、それでもイリンはわざとやってるわけじゃないんだよな。むしろだからこそより一層可愛らしいく感じるんだが。

 今は片手だけだが、そのうち両手両足を獣のものにすることもできるだろう。
 そんなイリンの姿を想像してしまい、顔がにやけそうになる。

「? あの……ダメですか?」

 だがイリンは俺や環がなにを思っているのかわからないようで首を傾げている。

「い、いや、ダメじゃないよ。うまくできてる。おめでとう」
「はい。ありがとうございます!」

 そうしてパアッと笑うイリンは、以前よりも無邪気というか明るく見える。
 故郷ではいろいろなことがあったが、それはイリンにとって良いことだったようだ。

「……くっ、あざといっ」

 だがそんな可愛らしい様子を見せるイリンに、環は視線を逸らしながら先ほどよりも力のこもった感じで呟いている。
 

「環はなにを言っているのでしょうか?」
「ん……まあ気にしなくていいよ」
「?」

 なおも訳がわからなそうにしているイリンに笑いかける。

「改めて、お疲れ様」
「ありがとうございます。ただ……」
「ん?」
「これは意味があるのでしょうか?」

 俺からすればこの状態のイリンを見れただけでも十分に意味があるのだが、イリンとしてはただ見た目が変わっただけでは意味がないのだろう。
 せっかく頑張ったのに、と少し困ったような顔をしている。

「そのうち全身を変えられるようになる」
「ナナ」

 すると先ほどまで少し離れた場所に座っていたナナがいつのまにかそばに座っていた。
 俺はナナの動きを気付けなかった事に驚いたが、ナナは少女のような見た目をしていても神獣だ。それくらいできるだろうと気にしない事にした。それに、突然そばに現れるのはイリンで慣れてるし。

 ……でも、やっぱりこうして探知を掻い潜る存在はいる訳だから、過信しないで自前の危険察知能力的なのを高めた方がいいかもな。

 だがまあ、ナナの隠密性が高いのは種族がらというのもあるんじゃないだろうか?
 ナナは、どうやら蜘蛛の神獣らしい。蜘蛛と言うとキリーのことを思い出すが、これからキリーたちのところに行こうとしている時に蜘蛛の神獣と出会うのはなんだか運命的なものを感じた。キリーに会わせたら、お互いにどんな反応をするんだろうか?
 キリーも特殊な見た目だし、案外ナナの関係者で、なんならイリンみたいに神獣の適合者とかなのかもな。
 もしそうならイリンに続きこの短い間で二人目だ。でもまさか、実際にはそんなことはないだろう。キリーの親は祖父母まで人間のようだし、単なる偶然だろう。

「ありがとう。いろいろ教えてもらって」
「いい。私も楽しいから」

 イリンのこともそうだが、それ以外にもいろんなことを教えてもらった事に対して礼を言う。
 ナナは各地を旅していると言うだけあって結構いろいろなことを知っていた。しかも神獣という長生きをする存在なので、その情報量はバカにならなかった。

「その手。魔力でできてるだけだから、攻撃にも防御にも使える」

 さっきのイリンの役に立つのかという言葉に対する答えだろう。

「そうなのか?」
「ん。試してみるといい」
「試すって、どうやって?」

 試すとはナイフでも腕に突き刺せばいいんだろうか? だがそれでは意味がないような気がする。なんてったってイリンは、元々生来魔術が常時発動していて肉体が強化されていたのに、そこに神獣の力を加わってからはナイフ程度じゃ傷つかなくなっている。今では本当に人か? と思うほどの性能だ。……今更ながら思うけど、勇者よりも強いとか……マジか?

「……環」
「なにかしら?」
「あれ出して」
「あれ?」
「炎」
「……ああ、炎鬼ね」

 言葉少なに話すナナだが、環はここしばらく行動を共にして慣れたのか、意図を汲んでスキルを使い炎の鬼を生み出した。

「これでいいかしら?」
「ん。……こう」

 ナナは自身の手を変化させる。その見た目はまるで昆虫の足のようにも見えるが、微妙に毛が生えている。ナナの正体である蜘蛛の足だ。

「あ」

 ナナは徐ろにその手を環の作った炎鬼の腹へと突っ込んだ。
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