『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―

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友人達の村で

386:懐かしさ

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 炎の中に手を突っ込んだナナ。
 そんなことをして大丈夫なのかと思ったが、ナナはなんでもないように腹に手を入れたまま動かしている。

「あ……」

 すると動かしすぎたのか炎の鬼はその形を崩して霧散した。

 俺たちは無言でナナを見つめるが、ナナは自前の長い髪で隠れていた顔を更に隠している。……それはそうやって使うものなのか。

 苦笑しながら環が新しい鬼を出すと、イリンはさっきのナナを真似て変化した手を恐る恐ると入れた。

「……どう?」
「熱く、ないです」
「そう」

 イリンは暑さを感じない事に驚いているが、恥ずかしさから立ち直ったナナは当然だとでも言うかのように満足そうに頷いた。

「え……ちょっ、本当に!?」

 だがそんな二人とは違い、炎鬼を生み出した環はなんだか焦ったように驚いている。

「どうしたんだ、環。そんなに慌てて」
「いや、だってその、イリンが炎鬼に触れられるようになったらまた引き離されちゃうじゃない……」

 引き離されるもなにも、環は環で十分に驚異的だと思う。数百の不死身で物理無効の軍勢(炎付き)が一つの意思のもと攻め込んで来るんだ。
 それに加えて十メートルを超える炎の巨人もいる。一つの街程度なら滅ぼすこともできるだろう。いや、やり方次第では街どころではなく国でも落とせるんじゃないだろうか?

 方向性が違うだけで、環も十分強い。流石は勇者とでもいうべき性能。イリンとはただ相性が悪いだけだ。対人特化と対軍特化。どっちが優れていると言うわけでもないけど、直接戦うのであれば比べる相手が悪い。
 それに、仮に戦うことになったとしても、正面からじゃなければ環にだって十分勝ち目はあるはず。

「お前にはお前の良さがある。そこまで気にすることもないだろ」
「あ、ありがとう……」

 環は少し恥ずかしそうにはにかんだが、その後困ったように顔を歪めた。

「けど、それとこれとは別なのよ。負けたく、ないもの……」

 イリンに負けずと頑張っている環。その負けたくない理由が俺なんだと知っている。

「な、なに?」

 そのことが嬉しくあるのだが、同時に恥ずかしくもあり、俺は環の頭をいつもより少し乱暴に撫でた。
 そのため環は最初は困惑していたが、結局は抵抗することなく受け入れた。

 それを羨ましそうにイリンが見ていたので反対側の手で手招きをすると、シュパッとでも音がするかのような速さで側に来た。

 俺の両隣にはイリンと環がいる。
 両手に花とはこういうことを言うのだろうが、俺も随分と変わったもんだな。状況もだが自身のあり方も含めて色々と。

「……」

 そうして二人と一緒にいると、ナナがこっちを見ている事に気がついた。
 しまった。すっかり忘れてた。

 イリンと環の二人をかまっているが、本来はナナとの話の途中だった。

「悪いナナ。話の途中だったのに」

 二人から手を離し、ナナに謝罪する。

「いい。……懐かしかった」

 だが、ナナは迷惑だとは思っていないようでフルフルと首を振った。

 ……懐かしかったと言うことは、昔いたと言う仲間のことを思い出しているんだろうか?

「昔は……仲間と旅をしたりしてたのか?」

 少し踏み込みすぎたか、と言ってから後悔する。

「……んん。仲間じゃない」

 だが、ナナは特になにも思っていないのか態度を変えないまま、またも首を振って俺の問いを否定した。

 仲間じゃないと否定したが、旅そのものは否定していない。なら、ナナは誰と旅をしたんだろうか?
 気になるがそこまで踏み込んでいいものか。
 そう思いながらナナを見ると、ナナは空を見上げていた。

「恋人。……恋人?」

 そして俺が聞かずともそう呟いた。

 なんで疑問形に変わったのかわからないが、それでも空を見上げているナナの髪の隙間から見えたその表情は優しげで、その人はナナにとって大切な人だったんだろうと言うことはわかった。

「そうか……」

 そんな大事な人が一緒にいないってことは、その人はもう……

「特訓はまた明日。おやすみ」

 ナナはそう言って立ち上がると、少し離れた位置で横になった。

 ナナは神獣だ。何百年と生きることのできる存在。そんなもののそばにいる事ができるのは、同じ神獣しかいない。長命種であるエルフだって神獣に比べれば短い人生だろう。

「……俺たちも、休むか」

 その場はそれ以上話す気にも慣れず、俺たちも明日に備えて寝る事にした。



 そして翌日。
 目が覚めるとイリンと環は既に動き出していたようで、俺の隣には二人ともいなくなっていた。

 だがナナは俺から少し離れた位置でまだ寝ていた。

 そんなナナを見た俺は、起こすのも悪いかと思って静かに寝袋などを片付ける。
 ま片付けると言っても収納するだけなんだが。

「アキト様。朝食の準備ができました」
「ああ。ありがとう、イリン」

 そうこうしているうちに、朝食の準備ができたらしくイリンが知らせにきた。
 本当なら俺が収納から取り出せばそれで十分なんだが、自分で作りたいとのことなので好きにさせている。俺だって収納から取り出すだけの味気ない料理より、好きな人に作ってもらったほうが嬉しいし。

 そしてそんなイリンの声で起きたのか、ナナがモゾモゾと動き始めた。

「ああ、おはよう。ナナ」
「あ──」

 ナナは何故か呆然とした顔で俺を見ている。
 寝起きだからかナナの長い髪は顔を隠していない。ナナと行動を共にしたこの数日の間に、何度か素顔を見る機会はあったが、かなりの美少女だった。
 幼いながらも大人びた雰囲気を感じ、気怠げな瞳さえもが美しさを彩るような、可愛いと美しいの中間に位置するようなそんな顔。

 だが、今は気怠げな瞳は大きく見開かれ、喜びや困惑などを混ぜたような複雑な色を宿していた。

「? どうした?」
「………………んん、なんでもない」

 だがそんな普段とは違うナナはすぐに前髪で顔を隠してしまった。

 一瞬、俺に手を伸ばしかけていたような気がするけど……あれは気のせいだったのだろうか?

「……ありがと」

 ……? 俺は何か感謝されるようなことをしただろうか? 
 そのことを訊こうとしたが、既にナナはその場を離れてイリンたちの方へと歩いていた。

 その後はいつものようにナナを交えて四人で朝食を取ったのだが、ナナの様子はいつもと変わらなかった。
 あれはなんだったのだろう。そう思いながらも俺はそれを尋ねることはなく、そしてついにが村の故郷である村へと辿り着いた。
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