『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―

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聖女様と教国

462:変な女

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 言霊というのは、本当にあるのかもしれない。俺はつくづくそう思った。
 もしくはフラグだろうか? どっちでもいいが、どっちにしても言葉というのはそれ自体が力を持つという考えは間違っていないのだろうと思わざるを得ない。

「よお、兄ちゃん。景気良さそうだな。ちっとは俺たちにも恵んでくれやしねえか?」

 なんで俺がそんなことを考えているのかというと、それはこの状況が原因だ。

「お前みてえなヒョロイやつがこんなに魔物を倒せるわけねえんだから、どうせ運よく魔物同士が戦った場所に居合わせることができたんだろ? その幸運をみんなで分かち合おうぜ? な?」

 俺は今、変な奴らに囲まれて馴れ馴れしく肩を組まれていた。

 俺たちはここにくるまでに当然というべきか、魔物に遭遇した。
 俺が環の新技について知る原因となった例の空から急降下してくる鳥もそうだが、あいつの後も何度か襲撃に遭った。
 その度に環が燃やし、今度は落下する前に俺が収納魔術で回収したのだが、それ以外にも倒して回収しながら進み、それを冒険者ギルドで売ったのだが、その結果がこうなった。

 言葉からして、俺たちを強請ろうとか思ってるんだろうなぁ。

 偏見かもしれないけど、海沿いの街ってだけで治安が悪そうなイメージだったが、どうやら間違っていなかったみたいだ。

 ……どうしようか。一応、金は渡しても問題ないくらい持ってるけど、だからと言ってこいつらに渡すつもりはない。

 が、問題を起こしたらそれはそれで面倒だよな。この街には船に乗せて貰いにきたんだから、俺の関係者だってわかれば後々になってマイアルに迷惑をかけるかもしれないし……。

「そっちの二人も悪くねえ見た目してるし、俺たちに付き合ってもらおうじゃねえか」

 だが、どうしようかなんて考えもその男の言葉を聞いて一瞬で決まった。

 俺は一本の剣を取り出すと、迷うことなく馴れ馴れしく俺と肩を組んでいた男の手を払い除けて、そう言った男の足を突き刺した。

「いっ!? ッ~~!」

 突然足を刺されたことでその男はがくりと膝をつくが、それほど深く刺したわけではないので傷は浅く、男は俺のことを睨み、立ち上がろうとする。

「てめえ何しや──がああああああ!?」

 だが失敗した。俺の使った剣の効果が発動したからだ。

 安心安全の捕縛用装備『苦痛の魔剣(俺命名)』。これさえあれば相手を殺すことなく痛みと麻痺で安全に捕らえることができます。ついでに相手は正直に話してくれるようになることでしょう。旅のお供にあなたも一本どうですか? なおその金額は一般人の生涯年収でも買えない模様。

 ……なんて冗談はさておき、この剣意外と使えるな。今までも何度か使う機会があったが、これからは剣を装備する時はこいつをメインにしてもいいかもな。どうせ本気で相手を殺すときは武器なんて使わないし、殺す気がない時はこれはちょうどいい。

「なっ、おい!?」
「てめえ何しやがった!」

 ニヤニヤとむかつく笑みを浮かべながら俺たちのことを見ていた男たちは、突然仲間が叫びながら倒れたことで驚き、俺を怒鳴りつけた。

 だがその程度の威圧では俺が怯むことはない。何せ、この程度では冒険者ギルドの本部長であるボイエンの足元にも及ばないのだから。
 あの威圧感になれた俺にとっては、こいつらの威圧なんて子犬の威嚇にすら及ばない。

「オラアア!」
「なめんじゃねえぞ!」

 俺が何も答えずに黙っていると、男達は気が短いのか俺の返事を待つことなく、殴りかかってきた。
 だが、遅すぎる。

「残念」
「うぎ──ぎゃああああ!?」
「あああああああ!!」

 襲いかかってきた二人の攻撃を避け、すれ違いざまにうっすらと傷をつける。それは紙で指を切った時のような微かなものだったが、それだけで二人の男は叫び、のたうちまわる。

「てめえっ!」

 すると今度は残っていた男たち全員で襲いかかってきたのだが、今度は全員がそれぞれの武器を抜いて襲いかかってきた。
 まあこっちが武器を使ってるんだから当然の判断なんだけど、動きが遅いのが変わらないなら武器があったところで意味はない。

 結果として先の二人と変わらずに叫びながらのたうちまわることとなった。

 そして次第に麻痺の効果の方が現れたのか、男たちはビクビクと体をわずかに動かしながらもそれ以外には行動を起こすことなく静かになった。
 それと同時に、その場で俺たちの様子を楽しげに見ていた周りの冒険者たちも黙り込み、中には引きつった表情をしている奴らもいた。

 というかこの世界はなんだ。ここの男たちはそんなに女に飢えてるのか? だったらまずはマナーとモラルをしっかり学んでから見た目を整えろと言ってやりたい。そんな山賊と対して変わらないような見た目と態度じゃ持てるわけないだろうが。

「やっちゃった感がするけど、どうしようか、これ」
「放置でいいのでは? ギルド内での冒険者同士の揉め事は、死者、および重傷者が出ない限り基本的に黙認ですから」
「ならいいか」

 イリンの言葉に俺は頷くと、顔を上げてギルド内を見回す。それだけのことなのに、そこにいた冒険者の何人かはびくりと体を震わせ、中には足をもつれさせたのかドスンと座り込んでしまう者もいた。

「皆さんお騒がせしました」

 手を出してこなければなにもしないのに、と若干不満に思いながらも俺はそう言って軽く頭を下げてから冒険者ギルドを後にする。

「ま、まままってください!」

 だが身を翻してギルドを出ていこうとする俺たちの背に、そんな声がかけられた。
 再び振り返って声の方を見ると、一人のギルドの職員の女性がこっちを見ていた。

「確かに死んではいませんし重傷ではないですが、毒を受けたのなら適切に解毒しないと死んでしまいます!?」
「あ、それは大丈夫です。ものすごく痛くて苦しくて身動きが取れないでしょうけど、しばらくすれば自然と効果は切れますから。多分一時間くらいで治ります。壊れたものがあったらそいつらに請求しておいてください。最初に絡んできたのはそいつらですから。では」

 誰もが俺たちと関わるまいと目をそらす中職務に忠実な女性の職員。そんな彼女に丁寧に説明してからもう一度軽く頭を下げると、俺たちは今度こそギルドを出て行った。

「大変だったわね」

 ギルドを出て少しすると、環がそんな風に話かけてきた。

「あの程度は大変ではないけど……まあ面倒ではあったな」

 最初はちょっと感動もしたもんだけど、こっちの世界になれると珍しいものでもないし、いざ自分が絡まれるとなると煩わしいだけだ。

「ですが、たまにならああいうのも悪くありませんね」
「そうかぁ?」
「はい。絡まれること自体は面倒だという考えは同じですが、私達の事で怒っているあなたの姿を見ていると、色々と実感できますから」
「ああ、そうね。ええ。確かにそう考えると悪いことばかりでもないわね」

 二人はそうして笑い合っているが、その話の当人でありそれを聞いている方としてはたまったものではない。

「……そ、それよりも! 宿を探しに行こうか。おすすめはもう聞いてあるけど、早く行かないと部屋が埋まるかもしれないし」

 俺が話題を変えるためにそう言うと、二人はくすりと笑って頷いた。

「そうね」
「はい。行きましょうか」



「──えっと……ああ。あそこか」

 途中で道を聞きながら適当に街をぶらついておすすめだと教えられた宿を探していたのだが、ようやくその場所を見つけることができた。

 しかし宿を見つけることはできたのだが、問題もある。

「アキト様。気づいていらっしゃいますか?」
「……背後からつけてきてるやつのことか?」

 そう。俺たちは何者かに尾行されていたのだ。そしてそのことをイリンもわかっていたようだ。まあ俺が気づけるんだから当然か。

「はい」
「えっ? うそっ!?」

 だが環は気が付いていなかったようで、大きな声を出しながら後ろへと振り返ってしまった。

「「あ──」」

 そんなことをすれば当然ながら尾行している者にも気づかれる。

「環……」
「ばか……」

 そんな環の行動に俺は天を仰ぎ、イリンは珍しく罵倒を口にしている。

 だがそれも仕方ないことだ。一度気づかれたとなれば追ってきている奴は逃げるだろうし、次はもっと上手く隠れるだろう。それでもイリンは気がつけるかもしれないが、より面倒になるのは確かだ。

「え? なに?」

 だが環は俺たちがなにを呆れているのかわかっていないようで若干混乱しながら俺たちの顔を見比べている。

 すると、俺たちを追っていた奴がいた場所から一人の女が現れ、こちらに近づいてきた。

「こーんにーちは! いいお天気だね」

 そして明るく笑いかけながらなんでもない風に挨拶をしてくる。

「……こんにちは。あなたが俺たちを尾行してた人でいいんですよね」
「そうそう。正解!」

 女は満足げに頷きながらそう言ったが、やけに素直に認めるんだな。

「どういうつもりですか? 何か用があるのでしょうか?」
「そうだなぁ……」

 女は片手を腰に当て、もう片手を顎に当てると何かを考え込み、そして頷くと人受けの良さそうな笑みを浮かべて俺を見た。

「へい兄ちゃん! 随分と男前だね! どうだい? 私とお茶でもしないかい!」

 …………こいつはなにを言ってるんだ?

「悪いが、隣を見て貰えば分かるとおり俺には連れがいるんでな」
「そっかー……残念」

 わけがわからないがそれだけ返すと、女は見るからにがっかりしてますとでも言うかのように肩を落とした。

「……で、本題は──」
「じゃあそっちのお嬢さん! そんな怖い顔してないでよ。その可愛らしいメイド服すごく似合ってるのに台無しになっちゃうよ! どう? 私と一緒にお茶でもし──」
「結構です」
「──な、い……。そう……せめて最後まで言わせて欲しかったなぁ」

 俺が声をかけた瞬間、女は勢いよく顔を上げ俺の言葉を遮って今度はイリンに声をかけた。
 だがそんな女の言葉にイリンはすげなく断り、最後までセリフを言わせて貰えなかった女は再び肩を落とす。

「おい、お前はなん──」
「ならそっちのお嬢さんはどう? 黒い髪が綺麗だね! 私と一緒──」
「間に合ってます」
「お茶…………さっきよりも短くなってるぅ……」

 そして三度目。女は今度は環を口説き始めたが、それもイリンと同じように断られた。そして今までと同じように肩を落とした。

「おい、いい加減にしろ。お前はなんのつもりで俺たちを尾行していた。なぜ姿を見せて話しかけてきた」
「んー、なぜってまあ……お茶をしたいのは本当なんだけどね? ふっ、君たちに話があるのさ。気になるならついておいで」

 そう言って女は意味ありげに笑うと、くるりと身を翻して歩き出した。

「どうする?」
「こういう時ってついて行く方がいいのかしら?」
「別に構わないのではありませんか? 何かあればあちらから動きがあるでしょうし」

 去って行く女の背を見ながら俺たちはそう話し合い、その結果……。

「……よし。見なかったことにしよう」
「ついてきてよ!」

 俺たちの話を聞いていたのだろう。女は俺がそう結論を出すと即座に走って戻ってきた。

「いや、でも見るからに怪しいし、ついて行きたくないんだけど……」
「お願いしますついて来てください。話があるのは本当なんです」

 綺麗な姿勢で頭を下げている女を見て、なんだか悪い奴じゃなさそうな気がした俺は隣にいるイリンと環も俺と同じ考えなのか、二人も俺が視線を向けると頷いた。

「……なら、聞くだけ聞こう」
「イエッス! うっし、じゃあこっちにいい感じの店があるからそこでお茶でもしながら話そうか!」

 俺がそう言うと、女はそれまでの綺麗なお辞儀から一転してガッツポーズをしながら叫んだ。
 そして先ほどの慎重な歩みとは違い軽快な歩みで進み始めた。

「どう? ここいい感じの店でしょ?」
「まあ確かに、雰囲気はいいな」
「でしょ~? 苦労して探した甲斐があるってもんよ~」

 なんだか情緒不安定に感じる女の先導でたどり着いたのは薄暗い路地裏の店……ではなく、通りに面したアンティーク感あふれる店だった。

 その店は通りに面していると言うのにあまり人がおらず静かで、だが寂れていると言う感じでもない。

 俺は予想に反してまともな店だったので驚きながらも店の中を見回した。

 全体的に静かで落ち着いた感じのするこの雰囲気は、意外と嫌いじゃない。それどころか、雰囲気だけで言ったら好きな部類だ。
 料理がどんなものかはまだわからないが、第一印象としては十分すぎるほどに気に入った。

「で、話ってのは?」

 とはいえこれからなにを話すのかわからないので、席についた俺は気を引き締めて女に問いかけた。

「まあまあ、こういうところに来てなにも頼まないなんてナシでしょ」

 だが俺の問いかけをサラリと流してから女は手をあげて店員を呼ぶと、次々と注文していった。

「これでよし。みんなの分も頼んでおいたから遠慮せずに食べてね」
「……話ってのはなんなんだ?」
「まあまあ、まってよ。まだ注文が来てないのにそんながっついてると、女の子に嫌われるよ? もっと落ち着きと余裕を持って寛大な心で接しないと」
「自分の胡散臭さわかっていってるのか? それに生憎と、お前に好かれるつもりはない」
「残念。……ま、じゃあ自己紹介から始めるとしようか」

 俺の言葉に女はため息を吐くと、それまでのおちゃらけた感じを消して居住まいを正した。
 そして……

「私の名はミア・ミルバス。当代の聖女を勤めております」
「……は? 聖女?」
「はい。お見知り置きを」

 そう言ってニコリと微笑んだ女──ミアは、聖女と呼ばれても不思議ではないほどの雰囲気を感じさせられた。

 ……あのさっきまでいた情緒不安定な変な女はどこに行ったんだ?
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