『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―

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聖女様と教国

463:聖女という存在

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「……待て待て。聖女だと?」
「それって確か、私たちが会いにいこうとしてた人よね?」
「はい。ですが教国の王のような立場ですから、このような場所にいるはずがありません」

 そうだ。聖女というのは教国でのまとめ役。
 あの国は王は別にいるが教会のほうが力が強く、実質的には教会のトップが国のトップであると言っても過言ではない。

 そして聖女はその教会のトップだ。イリンが言ったように、こんなところにいるはずがない。それも伴も連れずに薄汚れた格好をしているなんて、あり得ない。

「そうですよね。突然言われたところで、信じていただけないでしょう。ですがそれでも信じていただけないでしょうか? 証拠として、聖女という役割について、その秘密をお話しします」

 聖女と名乗ったミアは当然だと頷きながらそう言うと、だが話し始める前に店の中を見回した。

「ですがその前に、一つ魔術を使用してもよろしいでしょうか?」
「魔術? なにをする気だ」
「そう警戒しないでください。話すにはこの場は少々無用心すぎるので、防音をするだけです」

 確かに、本物かどうかはわからないが、こんなところで聖女の秘密なんて話て聞かれでもしたら大変なことになるのは目に見えている。どう大変かまでは予想がつかないけど、大変なのは確実だろう。多分。

 だからミアの言葉に納得した俺はイリン環に目配せをし、近距離限定の念話で警戒を促す。
 今のところは怪しい感じはしないが、それが演技でないとも限らないからな。

 二人は了承の返事を返すと、それぞれいつでも動けるように

「……わかった」
「では」

 そんな風に警戒をしている俺たちにミアは苦笑しながら魔力を練り上げ始め、そして魔術を発動した。

 その瞬間、俺たちの周りの空気が変わったように感じられたので、目に見えた変化はないが魔術は発動したのだろう。

「これで私たちの声はこの外には聞こえません。と言っても、この点を中心に半径二メートル程度が効果範囲なので、それより外に出てしまえば効果はありませんが」

 ミアはテーブルの一点をトンと指で示しながらそう言った。
 魔力の流れを注意深く読み取ってみると、確かにミアの示したその場所を中心に魔術が発動しているのが分かる。
 だが、それは注意深く見なければわからない手度にうっすらとしたもので、それだけの技量を持っている目の前にいる少女が只者ではないことを再認識させられた。

「それで、聖女の秘密というのはなんだ?」

 そうして警戒を新たにしながら先ほどの話へと戻っていく。

「はい。……ですがその前に、聖女というものについて、皆様はどの程度ご存知ですか?」

 聖女について、か。
 聖女はさっきも考えていた通り、教会で一番偉い存在で、実質的な国のトップだ。
 まあその辺りは複雑になっているから一概に聖女が一番偉いとも言えないのだが、どのような捉え方であっても少なくとも二番目には偉い存在ではある。

 そしてその役割は、その時の聖女が代々次の聖女を指名することで受け継がれてきた。

 ああ、そうだな。あとは強いていうのなら、俺も会うはずだったってことか?
 過去の勇者は聖女と一緒に魔王と戦った。まあ、よくある御伽噺だ。実際はどうだったかなんて知らないし、今の聖女に同じ役割を求めたところで初代と同じ働きができる保証なんてない。

 だがそれでも、そんな伝承も完全に無視することはできず、王国の奴らはそのうち勇者と聖女を会わせようとしていた。
 その後は一緒にチームを組ませるのかどうかは分からなかったけど、少なくとも最低一度は会うことになっていたはずだ。俺の場合聖女に会うまで城にいたら、会う前に殺されてたと思うけど。

「えっと、昔の勇者と一緒に世界の平和のために戦った人とその後継者たちよね?」
「そして教国において教皇と権力を二分にする者の片割れですね」

 ミアの問いに、少し首を傾げながらも環とイリンが答える。
 イリンの言った教皇というのが、俺がさっき聖女が一番とは言い切れないと考えた理由なのだが、今はそれはおいておこう。

 それよりも、俺にとっては重要なことがある。

「あとは──不思議な力で邪悪を祓う」

 それこそが俺が求めているもの。王国に洗脳された勇者の二人を治し、救うための力。

 目の前のこいつは、本当にそんな力を持っているんだろうか?

「そうですね。邪悪を祓うというのは言い過ぎですが、それらはおおよそ合っています」

 そんな意志を込めて若干挑発的に視線を向けたのだが、ミアは俺の視線を受けても正面から見返し、にこりと笑いながらそう言って頷いた。

「ですがそれは表の話。裏……聖女という存在の大元はご存知ないでしょう?」

 裏だと? 聖女の大元とはどういうことだ?

「過去、初代聖女というのは神獣であり、その後の聖女というのは彼女の力を受け継いだ後継者たちです。もちろん、私も含めて」

 俺たちの困惑を見て、ミアはそう説明したが、その説明のせいで俺たちは余計に混乱することになった。

 神獣本人ではなく、その力を受け継いだ? それは、イリンと同じってことか?
 イリンも神獣を殺すことでその力を受け継いだが、こいつもそうなのか? 
 だが、もう何代目だかわからないが二代目ではないはずだ。こいつの前にはこいつじゃない聖女がいて、そいつの前にも聖女はいた。
 神獣の力を持つものを殺すことでその力を受け継ぐことができるんだったら、こいつら聖女は、前任者を殺すことでその力を継いできたってことになるのか?

 だがそれにしては、こいつは人殺しの気配がしない。それは感覚的なもので説明のしようがないのだが、目の前の少女は前任者を殺して聖女になったとは思えなかった。

 わからない。……わからないが、とにかく今は話を聞くとしよう。

「……じゃあお前も神獣の力を持っていると?」
「はい。その証拠に、ほら。私の服は一見わかりづらいですけど背中に穴が開いているでしょう? それはそのためにあるのです」

 ミアはそう言って俺たちに背中を向けると、長い髪をどかして隠れていた背中部分を見せてきた。
 そこにはうっすらと縦に二本の切れ込みが入っていた。もちろん服として装飾と言えばそれまでなのだが、法衣のそんな部分になぜ、と思う程度には不自然なものだった。

「──えい!」

 ミアは背中を見せたまま軽く力み、そんな可愛らしい声を出した。
 すると、ミアの法衣の背中に開いていた切れ込みから、一対の翼が生えてきた。

 それは絵画などでみる猛禽類のような翼で、その色はパッと見は白色なのだが、よく見るとミアの髪の色と同じ青緑色でうっすらと染まったような色をしていた。

「天使……?」

 背中から大きな翼をはやしたその姿はまさに俺たちの知っている天使と同じもので、隣に座っている環なんかは無意識だろうがそう小さく呟いていた。

「……ふぅ。やっぱりこれは疲れますね」

 ミアがそう言うと、生えた翼はシュルシュルと小さくなっていき、最後にはなにもなかったかのように完全に翼はなくなっていた。
 だがその場には何枚かの羽根が残っており、今の光景が幻ではないことを証明している。

「今のは……」
「神獣としての力の一つです。ご存知でしょう?」

 そう言って正面を向き直って微笑んだミアは、イリンの方を向いている。おそらく、いや確実にイリンも自分と同じ存在なのだと気がついているのだ。

「気づいていたのか」
「はい。ですがそれは私だけではなくそちらの方もだと思いますよ?」

 そうなのか? と問いかける視線をイリンに向けると、イリンはバツが悪そうに僅かに顔を歪めながら答えた。

「はい。明確にわかっていたわけではありませんが、相対してからどことなく知っているような違和感がありました。ですがそれは本当に些細なものでしたので、言ったほうがいいものかと迷ってしまい……」
「仕方ありませんよ。私は神獣の力を受け継いでいるとっても、あなたのようにはっきりとした力ではなく、今まで受け継いできた聖女たちの力が混ざった歪なモノですから」

 ミアはそう言ってイリンをフォローするが……歪なモノ、か……。

「それで、その神獣の後継者である聖女様がどのようなご用件で俺たちに?」

 俺は小さく頭を振ってから改めて問いかける。

「そちらもお話しします。ですが──」

 ミアはそこで一度言葉を止めるとその視線を俺たちから逸らした。
 何事かと思ってそちらを見てみると……

「お待たせいたしました。ご注文の品です」
「まずは食事としませんか?」

 俺たちの前に届けられた料理の数々を見ながら、ミアは楽しげにそう言った。





「──そういうわけで、私は国を追い出されちゃったわけなんだよね~。いやー、まいったまいった」

 食事が届いたことでそれらを食べ始めたのだが、そこで堅苦しい喋り方をしなくてもいいと言ったらこいつはそれまでの様子から一転して、最初にあったときのようなおちゃらけた様子へと戻ってしまった。
 こっちが素なんだろうが、変わり身が早すぎるだろ。あまりの変わり方に二重人格を疑うほどだ。

「そんなに軽くていいのか、聖女……」
「や、聖女って言っても私はもともと孤児だから。教会所属の孤児院にいたら当時の聖女に目をつけられてね。今ではこうして立派な聖女様をやってるってわけ」
「……立派な?」

 確かに猫被りはうまかったが、それは立派な聖女になったと言えるのか? もっとこう、本質的に変わってれば立派なと言えるんだが、今まで接してきた限りじゃあな……。

「あ、その反応はひどくないかな? 私がどれくらい聖女らしいか、その体に教え込んであげようか? ん? ……あ、やっぱり今のなしで。だからそんなに怖い顔しないでよ」

 それはもう聖女じゃなくて性女だろ……。なんてことを思ってしまったが仕方がないと思う。

 ミアはニヤニヤと笑いながらテーブルの上に身を乗り出して俺の顔に自身の顔を近づけてきたのだ。
 そんなことをした彼女は法衣を着ているというのに、着崩しているせいで胸元が見えてしまい俺は自然とそちらに目を向けてしまった。

 ……これはあれだ。別にミアに興味があるとかそんなんじゃなくて、男は本能的にそっちに視線がいってしまうものなんだから仕方がないんだ。女性はその辺をわかっていない。たとえ好きな人がいて、その人以外に興味がなくても、勝手にそっちに視線がいってしまうものなんだ。

 ミアの胸に目を奪われたことを理解した俺は、ハッと意識を取り戻し内心でそんな言い訳をしたのだが、それは少し遅かった。

 両隣にいたイリンと環は俺の腕を強く握りしめた。そしてミアの言葉から察するに、二人はミアのことを睨んでいるのだろう。ミアは俺に寄せていた顔をビクリと震わせると、若干怯えたように離れていき座り直したが、俺に二人の様子を見るために顔を向ける勇気はないのでわからない。

「……ま、まあ、あれだ。それはそれとして、国を追い出されたって言ってたが、それと俺たちに話しかけた関係は?」

 俺は若干慌てながら空気を変えるために話を戻すが、それでも俺の腕を握り潰すかのように掴んでいる両隣の二人の腕の力は緩まない。
 それでも俺は話を進めていく。

「まさかとは思うが……」
「その『まさか』が何を指してるのかわからないけど……まあありていに言えば面倒ごとだね」

 ミアはそう言って居住まいを正すと、丁寧に頭を下げた。

「此度の変事の解決、ご協力お願いしたく申し上げます」

 だが俺はそんな彼女の言葉に顔をしかめてしまう。今度こそただの、普通の旅になるといいなと思っていたのに、街についたその日に異変に巻き込まれるとか……どうなってんだ?

「私の願いを聞き入れてくださるのであれば報酬として、解決後にはあなた方の願いをそれぞれ一つづつ叶えることをお約束します。亜人と人間の共生により力を入れるでも、知人に起こった邪悪を祓うでも、なんでも一つづつ」
「それは……ずるいだろ」

 要は、お前の願いを叶えてやるからこっちの願いも叶えろ、ということだ。
 海斗くんと桜ちゃんを王国の洗脳から助けたいのなら俺はミアに協力しないといけないのだ。

「申し訳ありません。ですが、なにを利用してでも叶えなければならないのです。それが、孤児であった私を拾ってくれた教会への、そして先代の聖女への恩返しであり……友人たちとの約束ですから」

 そう言ったミアの表情にはそれまでのおちゃらけていた時のようにふざけた感情は一切なく、とても真剣なものだった。

「……なぜ俺たちなんだ?」

 面識もないのに突然こんな重要すぎる話を持ちかけたのかがわからない。

「んー、それはね……」

 そう言ったミアはハッとしたように言葉を止めると、咳払いをした。

「こほん。それはですね……」
「さっきも言ったが、無理しなくていいぞ。話し方を取り繕ったところで今更だろ」
「……そう? ならそうさせてもらうね。で、なんだっけ? ……ああそうそう。なんで君たちを選んだか、だったね」

 ミアは自分の前にあったお茶を飲んでふぅ、と一息ついてから話し出した。

「私がこっちについてから数日、誰かいい冒険者がいないか探すためにギルド内で見張っていたんだけど、その際に君たちを見かけてね。まあさっきのギルドでの出来事なんだけど」
「それで声をかけた、か」
「そう。でも正確に言うのなら、君たちを観ていたらイーちゃんから神獣の気配を感じたから、だね。神獣の関係者であれば力は十分。それに、私の話も信じてもらえる可能性が高いから」
「そうか」

 まあ、神獣という存在を知らない者に話すよりも、知っている者、そしてその力を受け継いでいる者の方が信じてはもらえるだろうし、その力もギルドからの保証なんて不確かなものではなく自分で確証を得ることができる。

「で、どうかな?」
「私は構いません」
「私もよ。と言うより、これば受けざるを得ないでしょ」
「だよな。……ミア。その依頼、引き受けよう」

 王国に残した勇者二人を助けるためにはここでミアを手伝わないと言う選択肢はない。
 探せばあるかもしれないが、ここで逃せばそれがいつ見つかるのかわからないのだから手伝わざるを得ないのだ。

「……ところで、イーちゃんというのは……」

 話がまとまったところで、イリンは僅かに眉を寄せてミアに尋ねた。
 そういえば、ミアはさっきイリンのことをそんなふうに呼んでたな。なんか自然に呼んでたから全く違和感なかったけど。

「君のことだよ。イリン・イーヴィンだからイーちゃん。いい呼び方でしょ?」

 それはイリンからとっているのか、それともイーヴィンからとっているのか……どっちだろうな?

「で、そっちの君はたまちゃん!」
「……なんだかアザラシみたいな名前ね」
「いいじゃんいいじゃん。可愛い名前でしょ? それともたまたまの方がいい?」
「ぶふっ!」

 ビシッと無駄にいい姿勢をして環を指さし宣言するミアだが、その言葉に俺は思わず吹き出してしまった。
 『たまたま』と呼ばれた環は盛大に顔をしかめているが、イリンはわけがわからなそうに首を傾げている。

でもそうだよな。日本語がわからないと、何がおかしいのかわからないだろうな。

「……たまちゃんでいいわ」

 環は嫌そうな表情をして絞り出すようにそう言ったが、その原因であるミア本人は楽しげに笑っている。

「俺は?」

 イリン、環と続き、俺はどうなんだと思ってつい聞いてしまった。

「……あーちゃん?」

 だが俺も二人と同じように自分の呼び名に眉を寄せた。
 予想はしていたが、やっぱりそうなるのか。

「『ちゃん』はやめろ。せめて『くん』にしてくれ」
「あーくん? うわ、なんかセンスのない呼び方……。いや、もう。ほんと、なんていうか……センスないなぁ……」

 そう言ってがっかりしたようにため息を吐くミア。そしてやれやれとでも言うかのように肩を竦めた。

 ……お前の名付けと対して変わってないだろうに、このやろ──あ、てめえ今鼻で笑いやがったな。

「ぶん殴っていいか」
「え? いやに決まってるじゃん」

 ケラケラと笑っているが、そんな動きの全てがこちらを小馬鹿にしているようでわりとむかつく。

「これからよろしくね、あーちゃん」

そう言いながらミアは手を差し出してきたが、その手を軽く叩いてやった。
こいつとはあったばかりで失礼な態度ではあるが、なんとなくこんな関係でいいと思う。
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