『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―

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聖女様と教国

464:事情と目的

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 どうやら俺を『あーちゃん』と呼ぶのは決定らしい。
 そのことにため息を吐いてから、俺は意識を切り替えてミアへと視線を移した。

「協力するのはいいが、具体的には何をすればいいんだ?」
「んーとね。とりあえず船で教国に行ってもらいたいかな」
「船か。まあ俺たちもそのつもりだったから構わないけど」

 そのためにマイアルから船の紹介状ももらっているし、すでに向こうに話は通してあるらしい。
 それがどの程度の船なのかはわからないが、それなりに大きさがあるだろうしもう一人ぐらい増えたところで問題ないはずだ。

「あ、ほんと? ナイスタイミング! いやー、やっぱり私たちは出会うべくして出会ったんだ! 運命って素晴らしいね」

 俺たちの出会いが運命だと言うのは、まあ……理解できなくもない。俺たちは聖女を探していて、成女も俺たちを求めている。そしてその行き先は同じ。運命と言ってもおかしくない状況ではある。
 だが……

「ロクでもなさそうな運命だな」
「いやいや、そんなことないって」

 ミアは俺の言葉など意に介していないようでそう言いながら楽しげに目の前のデザートを食べている。

「ま、詳しい話はここではしない。いくら魔術を使ってるって言っても、無用心だからね。あとは船に乗ってから話すよ」

 それもそうか。聖女の持ち込んだやっかいごとだなんて、流石にこんなところで話す内容じゃないな。

 だが俺たちはミアの言葉に頷いたのだが、肝心のミアは少し浮かない顔をしてカップを傾けている。今の言動はあれだが、さすがは聖女と言うべきか。その姿はかなり様になっていた。

「問題はその船なんだけど、乗るのには結構お金がいるんだよね。でも、ほら。私は襲われて命辛々逃げ出したでしょ? それに元々聖女って給料が出ないし……」
「……金がない?」
「うん。だから悪いんだけど、貸してくれない? 目的を達成したら返すから!」

 目的を達成したら確かに大金を手に入れることもできるだろうな。何せ俺たちが成功すればこいつは教国のトップになれる訳だし。
 まあどのみちこいつは同行させるんだし、金がないからと言っておいていくことはできないな。

「わかった。その時はきっちり返してもらうぞ」
「ありがとう!」

 ミアはそう言って中身を飲み干したカップをテーブルの上に置くと立ち上がった。

「それじゃあそろそろ行こうか……」

 ミアは歩き出し店の外に行こうとしたが、会計がまだ終わっていない。

「待て、会計がまだだ」

 俺はそう言ってミアの腕を掴んで引き止めたのだが、そう引き止めてから俺はふと気づいた。
 こいつ、たくさん注文してたが金がないって言ってたよな? なら、その料金はどうするつもりだったんだ?

「……なあ、お前金がないんだよな? ここの料金は……」
「ごちになります! 久しぶりのまともな料理、美味しかったです!」

 そう言って綺麗に頭を下げるミア。俺はその頭に拳を振り下ろしてから会計を済ませることにした。

 そうして店をでた俺たちは宿を探す前に船の確保をしようと、マイアルから渡された紹介状を持って教えられた港近くの倉庫へと行った。

 最初は作業を邪魔されて煩わしそうにしていたが、俺が紹介状を出すと丁寧に対応してくれて明日にでも船を出せると言われた。

 ミアはそんなに早く行動に移れるとは思っていなかったのか喜んでいたが、俺としては微妙な気分だ。
 せっかくの港町なのだから楽しもうと思ったのに、ろくに見て回ることもできないまま明日には教国に向けて出発だ。
 俺だって急いだほうがいいと言うのはわかっているが、それでもちょっとくらいは観光がしたかった。
 だが、今回はスルーしていくしかないようだ。それでもせめてちょっとでも、と言う事で、ミアに金を渡し宿の確保を任せて、俺はイリンと環と一緒に三人で町の露店が並んでいるところを歩き回ることにした。




そして翌日。
昨日は短いながらも少しは観光をすることができた俺たちは、まだ日が登りきっていない早朝ではあるが、すでに船の上にいた。

「……もうしわけありません……」
「いいさ。こんな時ぐらいしっかりと休め」

……のだが、イリンは与えられた客室のベッドで寝ていた。

 船が港を出てからしばらくは俺たちは船から見える景色を楽しんでいたのだが、どうやらイリンは船が苦手なようで船酔いになっていた。感覚が鋭すぎるから揺れにも敏感になってるとかだからだろうか?

 まあ理由はわからないが、ともかく体調が悪そうなので部屋に運んでベッドに寝かせることにしたのだ。
 俺と環で楽しんでいいと言われたのだが、流石にイリン一人を置いてはしゃぐ気にはなれない。

 それに、ぶっちゃけると飽きた。
 今は船室から見える景色を見ながら進んでいるが、港を出てしまえばあとはいつまで経っても変わらない青一色。馬車の旅よりも代わり映えがない上、見える景色だけでいうなら地球にいた時とそう大して変わりはないのだ。
 だから無理して見る必要もない。

「ヘイヘイ! 私が来たよー! さあて、昨日はできなかった詳しい話をするとしようか!」

 そして俺たちは適当に話したりしていると、ミアが突然俺たちの部屋へとやってきてそう言った。
 そのテンションの高い声にイリンが呻いているので俺はミアへと抗議の視線を向けるが、ミアは部屋の中を見回していて気付いていないようだ。

 その口にはイカの一夜干しが加えられていてきているし、着ているものも相変わらず着崩されていて法衣に見えない。
 まあミアの着ているものが法衣に見えないのは、ただ着崩されているからじゃなくてそれがあまりにもボロいからでもあるだろうが。

 そんなミアは、それでいいのか聖女と言ってしまいたくなる姿だったが、それを言うとまためんどくさく絡んできそうだったから何も言うことはなかった。

 部屋の隅から椅子を持ってきたミアは背もたれを前にして寄りかかるようにして座った。
 その際に俺の視線がある場所に向いてしまったが……こいつ、わざとなのか天然なのかわかりづらいな。

 そうして始まったのはまずは昨日のおさらい。何故ミアが教国ではなくこの国にいるかから始まった。
 昨日は場所が場所だけに詳しい話をせずにおおよその概要だけだったので、事情を何も知らない俺たちとしては助かる。

 話を聞くと、どうやら教国でクーデター的なものが起こり、ミアはその時に排除されかけたらしい。
 聖女を消そうとするなんて誰だと思ったが、ミアはそれを教皇だと断言した。

 教皇は執務的な意味では教会のトップだが、聖女は象徴的な意味で教会のトップだ。
 教会所属の者にトップは誰かと問い掛ければ教皇だと大半のものは答えるだろうが、市民に聞くとその結果は別物になる。
 つまり市民は──国民の大半は聖女であるミアのことを教会のトップだと思っているそうだ。

 そして教会所属の者も、教皇のことをトップだと判断しているが、逆にいえば教会内であっても聖女がトップだと思っている者もいると言うことだ。

 それ故に教会を運営している教皇も、ミアの意見には完全に無視することはできなかった。
 権力を好きに使いたいやつにとっては、ミアは邪魔な存在だろうな。

 そして今回襲われた時も特に証拠があるわけでなかったが、以前から似たような動きはあったらしく、ミアが何かしようとするとことあるごとに邪魔が入ったり襲撃があったりしたそうだ。

 そして教皇は最近では亜人の排斥運動を強めていたそうで、それに反対していたミアを疎ましく思ってもいたそうだ。

 ……ここでも亜人への差別か。

 この間の首都であった事もそうだが、もしかして王国が絡んんでるんじゃないだろうか?

「おお、よくわかったね。うん、そう。あれは王国の所属だったね。しっかりばっちりこの目で見たから間違いないよ。何せ殺されかけた当人だしね!」

 そう思って聞いてみたのだが、ミアからはそんなふうに明るい返事が返ってきて、顔を覆いたくなった。と言うか実際に覆った。

「私が襲われた時、結構な数の王国兵が聖女殺しに参加してたから、王国と教国……と言うよりも教皇が何らかの約束を交わしてるのは確実だよね。王様の方は他国の兵を入れるなんてことするような人じゃないし、そもそもそんなことをするほどの権力を持ってないし」

 まあ、普通はどんな理由があっても他国の兵なんてそう易々と入れない。
 他国からの特使だとか賓客だとかの場合は兵を入れることはあるだろうけど、それでも自由行動なんてさせるはずがない。

 だと言うのにそれをしていると言うことは、どこからか許可が出ているからに他ならない。

 聖女を殺すのに教国所属のものは使いづらいと言うのはわかる。聖女は教会……ひいては教国の象徴だし、いざ殺すとなったところで裏切る奴がいないとも限らない。

 だから他国のものを雇って……というのは理解できる。……できるが、それをよりにもよって王国の軍隊に頼むか?

 百歩譲って王国の者を雇うというのは良いが、だからって軍を引き入れるってのはナシだろ。
 一度教皇の命で行動したという前例があれば、これからはもっと大胆に踏み込んだ行動をしてくるぞ。
 そして最終的には教国は王国に乗っ取られる。それが何年先かまではわからないが、そう遠い未来ではないだろう。

 教皇はそれに気がついているんだよな? それでも良しとして手を組んでるんだよな? ……もし乗っ取られるなんて考えてないで、ただ協力を要請したんだとしたら無能どころの話ではない。

「それで、教国に行ったら私たちは……そしてあなたは何をどうするのですか?」

 俺が教国と王国との関係について考えていると、イリンがミアにそう尋ねた。
 ああそうだった。まだ話の途中だったな。何か考えるなら、全部聞いてからにしないと。

「私の目的は、教皇から実権を奪って教会を支配下に置くこと。そしてあーちゃんたちに頼みたいのは私の護衛。何せ私は神獣の力を受け継いだって言ってもそんなに強くないし、今は頼れる人がいないから」

 ミアはそう簡単そうに言っているが、言っている内容としてはかなり無茶を言ってるよな。

「実権を奪うって、そんなにうまくいくか?」
「まあ、やろうと思えばできないこともないよ。私は聖女だし、元々ある程度は権力もあったからね」

 ああそうか。いくら象徴としてのトップだと入っても、トップであることに変わりはないんだから聖女もそれなりに力を持ってるか。

「死んだはずの私が戻れば向こうは慌てるだろうし、もう一度私を殺しに来るはず。王国の兵が教国内で動いてたってことは、王国は教皇と繋がって教国を支配しようとしたんだろうけど、ならその契約書がどこかにあると思うの。それも、ただの契約書じゃなくて魔術の込められた貴重なものが」

魔術が込められたってのは、俺が以前使われたあれだよな。契約内容を反故できないようになってるやつ。

「そしてそれには、教皇の益にはなっても教国の益にはならない、むしろ害になる事が書かれてるはず。それを見つけ出して聖女である私が市民に明かせば、教皇はやめざるを得ない。そうでなくても傷をつけられれば後は無理やりどうにかできるはず」
「もしその契約書がなかった、もしくは見つけても教国の害になる事が書かれていなかったらどうする?」
「その時は、私が向こうを煽って襲われるよ。みんなの前でね。この方法は不確定要素が多いから、できる事なら証拠が見つかってくれるのが一番いいんだけどね」

 それはちょっと危険すぎじゃないかと思う。いくら俺たちが守るって言っても、こいつ一人をただ全力で殺しにきたら、絶対に守れるとは言い難い。

 だが、ミアの瞳には絶対に譲らないとでもいうかのような覚悟を映しされている。

「……予想ではどのくらいの期間でカタがつくことになりそうなんだ?」

 だから俺はミアの計画に何もいうことなく話を進めることにした。

「んー、その辺ははっきりとはわからないかな。何せ教皇の部屋に忍び込んで重要な書類を手に入れるだなんてやったことないし」

 そうだろうな。むしろ忍び込んだ事があったらその方が驚きだよ。

「まあでも、二ヶ月もあれば終わるでしょ。それ以上だと、教皇が私が生きてる状況に我慢できないだろうから、なりふり構わず殺しに来ると思うの。自分がやったとバレたところで、王国と手を結び逆らうものを黙らせればいい、みたいな感じでね」

 教皇なんて存在がそんなに短絡的というか我慢が効かなくていいのかと思ったが、ミアはふと俺たちから視線を逸らして「あの人も昔はまともな教皇やってたんだけどなぁ……」なんて呟いているので、教皇も教皇になった時はしっかりしていたのだろう。

 おおかた、教皇になって権力を手に入れたら堕落したとかそんな感じだろうな。よくある話だ。

 ……もしくは、魔族か魔王に操られた、とか? どうにも魔王ってのはいろんなところでみたいだし。

 ……いや、流石にないか。洗脳されてるんだったら、この聖女が解除できるだろうし。

 にしても、力で無理やり、なんてことができるんだったら教皇は最初からそれをしておけば……いや、流石にそれは悪手すぎるな。
 力で強引にやればどこかで歪みが出る。だったら出来る限り穏当に、少なくとも表面上は穏やかに進ませたほうが後々問題にならないか。

 ともあれ話を戻そう。

「つまり俺たちがやることは、約二ヶ月間お前を守ること。もしくはその前に教皇と王国の契約書を探し出すこと。の二つか?」
「そ。あえて言うなら二ヶ月って言うのは私の予想だから、もっと伸びる可能性も、逆に縮まる可能性もあるってことかな。あとはできることなら契約書を見つけてくれる方がありがたいね。教皇が襲ってきただけだと王国兵を追い出す事までは難しから。ま、難しいってだけで不可能じゃないから、どれだけ難しくてもやるけどね」

 そんなミアの覚悟の言葉を聞いてから数日の船旅を経て、俺たちは教国へと辿り着いた。
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