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1章
種まき
そして初めてスキルを使ってからおよそ二年後。もうすぐで俺が十二歳になると言うその日、変化が来た。
「——おん?」
いつも通りにスキルを使って自分ちの庭を耕しまくっていると、突然頭の中になんかスッキリしたような感覚が巡った。
何だこの感覚は? スッキリっつーか、視界が晴れたような、なんか忘れてたことを思い出したようなそんな不思議な——ああ! そうか、あれだ。レベルアップだ!
随分と久しぶりだが、そういえば最初にスキルを覚えた時もこんな感じだった。あの時はもっと大人しいって言えばいいのか? こんな頭ん中が晴れるような感覚じゃなかったけど、それはスキルを覚えただけでレベル自体が上がったわけではなかったからだろう。
しかしあれだな。ってことはだ、思ってたよりも少し遅かった気がするが、これで新しいスキルを覚えたってことだよな?
「どうした?」
俺が突然変な声をあげてしまったことで今日の護衛役であるジートが不思議そうに俺のことを見て問いかけてきた。
「いや、ちょっと、あれだ。今頭ん中で……」
俺は自分に何があったのか説明しようとして、だがその言葉の途中で止まった。
まだこれが本当にレベルが上がったのかわからないし、新しく覚えたっぽいスキルを使って確認してみてから言った方が良くないか? なんて、そう思ってしまったのだ。
実際のところは多分早く新しいスキルを使ってみたいんだろうな。
説明し、その後に会話が入ればそれだけスキルを使うのが遅くなる。そんなことを無意識のうちに一瞬で判断したんだと思う。
そして多分だがそれは間違いではない。
まだスキルを使っておらず実際に見たわけでもないのに、無性にワクワクしている俺がいるのが自分でもわかる。
『農家』のスキルは不遇職と呼ばれるほど役に立たないなんてことは分かってる。
天地返しの時のようにそのしょぼさにがっかりするだろうって事も理解している。
だがそれでも自分が新しいことを覚えたってんだからそれを実際にやってみて確認したいと思う気持ちは変わらない。
だから、早速新しいスキルを使ってみることにしよう。
……確か自分の中にある神の欠片に集中すればいいんだったよな?
「——<播種(はしゅ)>」
自分の中にある神の欠片に意識を集中させているとスキルの名前が頭の中に響きわたり、俺はその言葉を口にした。
だが——
「…………………………んん?」
ワクワクしていた俺は何となしに手を前に出して新しいスキルを唱えたのだが、何も起こることはなかった。
「何やってんだ?」
「んあー、いや……んー?」
前に手を突き出したまま首を傾げて固まっていた俺をみて、ジートが もう一度声をかけてきた。
しかし、俺はそんな声をかけられても発動しなかったスキルの方に気が行っていて、ろくに返事を返すことはできなかった。
だがそのまま考えていてもどうしようもないだろうと判断し、意見を聞くためにジートに向かって振り返った。
多分だが、この時の俺は不機嫌そうな顔をしていただろうなってのが自分でもわかるが、不機嫌なのは事実なのだから仕方がない。
「あー、レベ——位階が上がったんだが、どうにも新しいスキルが発動しないんだよ」
「は? スキルが発動しないってそんなこと——ちょっと待った」
「? 何だ?」
「いや、何だっつーか……位階が上がったっつったか?」
「ああ。ついさっきな」
「……ヴェスナー。お前、今何歳だっけ?」
「歳? えーっと、十一だな。スキルの使用が認められたてから二年経ってないんだし。ってかそんなのお前もわかってるだろ。俺の歳を勘違いするほどボケてもねえはずじゃねえのか?」
「……勘違いしたってわけじゃねえよ。ただ再確認っつーか、自分の頭を疑っただけだ」
ジートはそう言いながら頭に手を当てて軽く横に振ると、改めて俺に視線を合わせてきた。
「普通は十一歳で第二位階になったりしねえよ」
「知ってる。三年はかかるだろ」
「……わかってねえぞ。普通は五年はかかる。まだガキのうちはスキルの使用に慣れてねえからな。そんな回数も使えねえし、十歳なら一年経つ頃には一日三十回も使えりゃあ上出来ってもんだからな。とてもじゃねえが十万回なんて使えねえ」
「俺、初日から三十回使えたけど?」
「ああ。まずその時点で異常だな。実際お前もぶっ倒れただろうが。普通はあんな無茶する奴なんてそうそういねえよ」
まあ普通はぶっ倒れて限界を越えるのなんて、一度経験したらそうそう経験したいとは思わないだろうからな、倒れないギリギリまで使って少しずつ上限を上げていくんだろう。
そこを俺はぶっ倒れながら続けたことで、他の奴らよりも早く強く成長した。
だからこそ今の時点で五百回もスキルを使うことができるわけだし。
「って言っても、できたもんはできたし、スキルだって覚えた——って言っていいのかわんねえな」
必死こいてスキルの最大回数を増やしてきて、今回はレベルアップしたわけだが、それが本当にそうなのかわからない。なにせレベルの上がった証拠である新しいスキルが発動しないのだから。
「あー、何だっけ。発動しねえんだったか?」
「そうそう。頭の中にはちゃんとスキル名が聞こえてるし、使えるって感覚もある。スキルって位階が上がったら自然と使えるようになるもんなんだろ? でも——」
そう言ってから俺はジートにもわかりやすくするために、いつも第一スキル『天地返し』を使っていた庭に向かって手を向けた。
「——<播種>」
そして新しいスキルの名前を口にしたのだが、なんの効果も現れず、俺自身自分の中にある神の欠片から力が引き出された感覚がない。
「ほらな? 何も起こんねえんだよ」
「ならなんか必要なもんがあんじゃねえのか? 剣士がスキルを使うのには剣が必要だってのと同じようなもんだ」
「あー、確かに剣士は剣がなくちゃ何もできないか」
剣士の第一スキルは『斬撃』だが、これは刃物がないと効果が現れないし、『魔法師』だって杖がないと魔法を使うことができない。
だから『農家』もそれらと同じようになんらかの道具が必要だって可能性はある。今までなんの道具も使わずにスキルを使いまくってたから何か必要だって意識がなかったな。
「でも、道具ねぇ……なにかわかるか?」
とりあえず俺の先輩『農家』でありスキルの指導役であるソフィアに問いかけてみることにした。
ソフィアはこの二年の間に——と言うよりも、以前にどうして俺が頑張るのかと聞いてきてから態度が変わるようになってきた。
はっきりと何がどう変わったってわけではない。それまで通りよそよそしさはあるし、必要以上に関わってはこない。
だが、最初の時のような死んだ目はなりを顰め、見てくれだけなら普通の使用人と変わらなくなった。
そんなソフィアにはスキルのことに関してや貴族の常識や習慣などと言ったことに聞けばすぐに答えが返ってきたのだが、なぜか今回は答えが返ってこない。どころかそもそも反応がない。
「……ソフィア?」
「っ! ……失礼いたしました」
どうしたんだろうかと思いながらもう一度ソフィアに問いかけて見ると、ソフィアはハッと我に返ったように体を揺らし頭を下げた。
ふむ。何か意識を持っていかれるような出来事が……ああ。こいつもジートと同じように俺がレベルが上がったことに驚いたのかもな。
でもそれなら特に気にしなくてもいいだろう。放っておいて話を進めよう。
「いや。で、スキルを使うのになんか必要な道具とかあるか分かるか?」
「はい。第二位階のスキルである『播種』は、実際に自身が触っている種を指定した範囲に蒔くスキルです。ですので、何かしらの種を持っていないとスキルは発動しません」
「あ……」
そう言われりゃあそうだ。種まきのスキルなのに、肝心の種がなくてどうするんだって話だよ。
だが、種か……。今は冬なんだけど、その辺の草花から回収できるか?
……まあ、とりあえず探してみるしかない。なければ厨房に行けば果物の種とか手に入るだろ。最悪の場合は親父に頼めば二日もあれば用意してくれるはずだ。
そう気楽に考えながら俺はジートとソフィアにも手伝ってもらって種を探し始めた。
結論——種は手に入った。
意外と探せばあるもので、冬でも種をつけてる植物ってのはあった。冬だから枯れてるものだと思ったんだが、あってよかったよ。
さて、これで改めて第二スキルの確認ができるな。
確か、自身の触っている種を指定範囲にばら撒くんだよな。
でも、ばら撒くって言っても初めてなわけだし、まずは一粒から始めるか。
「——<播種>」
新しく覚えたスキルを口にした瞬間、前に突き出した手のひらの上に乗っていた種は音もなく動き出し、弾かれたように飛んでいき指定した場所の地面へと突っ込んでいった。……ようだ。
なんで〝ようだ〟なんて言っているのかと言ったら……
「ぜんっぜん見えねえなぁ……」
そう。何が起こったのか俺には全く見えなかったからだ。ただ手のひらの上から種が消えたと言う事実しか認識できなかった。
今は昼間であり空は快晴。何かを見落とす要素なんてかけらもない。
だが、それもみる対象が大きければ、の話だ。
爪の先程の大きさしかない種が高速で移動したところで、『戦士』や『弓兵』のように視力を強化するスキルもない凡人な俺に見えるわけがないのだ。
それはスキルが発動したことがわからないほどに地味なものだった。いや、そもそも地味とすら言えないかもしれない。だってそもそも何が起こったのか見えないし。
スキルを使ったことをどうにかして隠蔽しているわけではない。俺が何もしていなくても、ただただ小さいものが高速で動くからこそ見えないのだ。
苦労して第二スキルを覚えてもこれでは何をやっているのかはためからではわからない。むしろスキルを使った本人でさえ本当に効果通り、狙い通りに種を巻くことができているのかわからない。
これでは不遇と言われても仕方がないだろう。
「……とりあえず確認するか」
そう呟くと、実際に種が埋まっているのかを確認するために指定した場所へと歩き出す。
「だめだ。まったくわけわかんねえなぁ」
まあ当然と言えば当然だろう。あんな楊枝の先程しかない大きさの黒だか茶色だかわからないようなものが土の中に突っ込んでいったとして、それを見つけられるかと言ったら難しい。場所が限られてる分、砂漠で金の砂粒を探すよりは楽だと思うけど、どっこいどっこいだろ。
仕方ないので、今度は自分の足元の地面をスキルの目標に設定し、使う種も先ほどよりも少し大きいものを選んで使うことにしよう。
足元に飛んでいけばどこに飛んでいったのか流石に見えるだろう。
……でも一応しゃがんで使っておこう。これくらいなら見逃すこともないはずだ……多分。
「——<播種>」
しゃがんだ俺の手のひらの上に乗っていた種は先ほどと同じように音もなく放たれたが、今回はそうなると意識していたしごく短い距離であったからその行き先をなんとか認識することができた。
「一応、指定した場所には埋まってるのか」
すぐ目の前の種の飛んでいった場所を実際に掘ってみると、そこには多分これだろうというものが埋まっていた。土の中に紛れてよくわからないけど、多分そうだと思う。
「なら今度は複数の種だな——<播種>」
一つが成功したので今度は複数の種を同時に蒔いてみようと、立ち上がった俺は手のひらの上にいくつもの種を乗せてスキルを唱える。
すると、今度も一粒で試した時と同じように手のひらの上に乗っていた種は音もなく放たれ、俺の指定した場所へと飛んでいった。
「今度はかろうじて見えたな」
いくつもの種がまとめて飛んでいったからだろう。ぼんやりとだが何かが動いたのはわかった。それが個別にどこにいったのかまではさっきと同じでさっぱりだが。
……やっぱり足元に蒔いて確認するしか確かめる方法はないか。
そう判断すると、俺はまたもその場にしゃがんで手のひらの上に種を乗っけてスキルを使った。
でも、この格好ってスキルの動きを見るにはいいんだけど、傍目から見ると蟻の動きを観察している子供みたいに見えるんだよな。その後の地面を掘り返すのも含めて遊んでるようにしか見えない。
だからどうしたって感じなんだが、なんとなく自分のセンス的に気に入らないというのかな……まあこの格好が確かな方法だし、結局はやったんだけど。
「指定範囲に均等に、か」
今回も目の前の指定した範囲内に飛んでいった種たちだが、その行く先は種ごとにバラバラだった。
バラバラと言ってもランダムに蒔かれたわけではなく、指定した範囲内に均等になるように蒔かれたのだ。多分ミリ単位の狂いもなく本当に均等に蒔かれていることだろう。
これは普通に種まきの作業として使う分には使いやすいんじゃないだろうか? そこに行くまでの『天地返し』十万回がきついと思うけど。
「しっかしなー……」
種まきかぁー。これはどうやって使ったもんかな。
……でもまあ、ただ土をひっくり返すだけだと思われてるスキルにも使い方があるんだし、考えてけばなんかあるだろ。
「ん? あれ?」
新しいスキルの今後について考えながらも埋まっていた種の様子を一応全部確認するために地面を調べていたのだが、その中の一箇所でどうにも種が見当たらない。
どうなったんだろう、と思って種が蒔かれたはずの場所をよく調べていると変なものを見つけた。
変なものっていうか、『播種』スキルによって蒔かれたはずの種が木の破片にめり込んでいたのだ。
へー、指定した場所に邪魔なものがあればそれを貫通してめり込むのか。なるほどなー……。
どうやら種まきのスキルは、指定した範囲に『絶対』に蒔かれるようで、そこに邪魔するものがあれば貫通するらしい。
……………………すっごい嫌なこと思いついちゃった。
そして、その木の破片を見てある考えが頭に浮かんだ。
思いついた考えは突拍子もない考えではあるかもしれないが……できるといいな。
そう思いながら笑い、俺は更なるスキルの検証を行なっていくことにした。
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これは仏の道を貫く気高き精神を持った坊主が、魔法とスキルが存在する異世界で仲間たちと一国を相手に革命を起こす物語――。
※この作品は最終話まで書き上げてありますので、絶対にエタりません。