聖なる歌姫は嘘がつけない。

新しい世界を選ぼう！編

どれかなどれかなぁーーー？？？

 それから天使さんは「らんらんらーん」と鼻歌を歌いながらスクリーンにピコピコとタッチして何やらよく分からない操作をし始めた。
 かと思うと、ピコピコというタッチ音が急に止んだ。
何かあったのかな？
すると天使さんは壊れた人形のようにギギギギ…とこちらを振り向いた。
 「ね、ねぇー。この世界やめといたほうが良いかも知れないよー…。」
 …え？それって一体どういう事？なんで？
 「いやー、あのねー？生きとし生けるものってみーんな、肉体に魂を埋め込んで出来てるんだけどねー？」
 …？それが何か問題が？？
 「うん、でもねー。魂にはそれぞれ形があるんだー。でね、形によっては埋め込める肉体も限られてきちゃうんだけどーー…。君の魂、ちょっと変わった形してるんだよねぇ。」 
 ………ほぅ。なるほど嫌な予感がするよ。
 「ぶっちゃけ言っちゃうとー、君の選んだこの世界、乙女ゲームの世界なんだよねぇ。」
 え！？何だって⁉︎乙女ゲーム！？え？実現したの⁉︎
母親が母親だったので乙女ゲームなんてした事は無いけれど、おおよそどんなものなのかくらいは知っている。確か可愛い女の子がイケメンと出会って、イケメンに壁ドンされてときめくっていうゲームだ。
 「うーん…なんかそれ違う気がするんだけどーー。いやぁ…正直に言っちゃうと、元々はこんな世界存在しなかったんだよー？でも二次元にどハマりした女神様が深夜テンションで作っちゃったんだよねー。」
 ……もしかして、さっき候補に挙がってた世界って全部その深夜テンションの生産物だったりする？
 「ピンポーーン！そうだよ！」
世の中には、知らないほうが良い事だってたくさんある。正に知らぬが仏。ほんと、知りたくなかったよ！
 「な、なんかごめんねぇー？あ、そうそう。でね？さっきの続きなんだけどー…。君の魂の形が変わってるせいでね、転生出来る肉体がこれだけしかないんだけどーーーー…。」
 天使さんがそう言うと同時に、スクリーンの画面がパッと変わった。そこに書かれていたのは……

 ①悪役令嬢
 ②ヒロインの実家の隣の家の犬
 ③絶滅危惧種のハムスター

 スクリーンを見て呆然とする「私」に向かって天使さんは笑顔で言い放つ。

 「さぁ！この三つから選んでー。どれかなどれかなぁーーー？？」

 選べないよ！！！
②と③に至っては人間ですらないよ？
大体、ヒロインの実家の隣の家って何でそんな微妙なの？あと絶滅危惧種！意味がわからない！！
一番マシなのは悪役令嬢。
でもなぁ…悪役かぁー。うーーん。


 ま、いっか。聖霊さんと仲良くなれる可能性は変わらずあるわけだしね。うん。
ノープロブレム。

 「えーー。本当にいいのー？この悪役令嬢、ヒロインの行動によっては処刑されるよー？」
 処刑⁉︎⁉︎なにそれ怖い！
…でも聖霊さん可愛いしなぁ。うーん。
死亡フラグは全力で回避して～、で、今度こそ人生エンジョイしよう。
うん、そうしよう。きっと何とかなるよね。
 「そうー？うん、なら良いよー。この悪役令嬢に転生するよう準備するねー！」
 そう言うと天使さんは再びスクリーンをピコピコし始める。そして暫くすると準備が終わったらしくこちらを振り返った。
 「おっけー！準備出来たよー。後は君の魂を肉体に送り届けるだけー！！」
 ありがとう、何だか色々してもらっちゃって。
じゃあ、早速魂送っちゃって下さい！
待っててね聖霊さん！！
 「どういたしましてーー！えっへへ！じゃあ送るから目を瞑ってね！」
 言われた通りにすると、何だかまた眠気が襲ってきた。ふわふわ、ゆらゆら、微睡む。
「私」は、また生きる。
生きることが出来る。
だったら次は、間違えない。


ーー さようなら、浮島 椿「私」。


 「ばいばーい！また会おうねーー！」
天使さんの声が遠くから聞こえた。