聖なる歌姫は嘘がつけない。

水瀬 こゆき

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幼少期編

…茨の道だって、歩んでやるんですから。

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 「……ふぅ、」
誰もいない部屋で一人、アルカティーナはソファーに寝転がりながら溜息を吐いた。きっと今の姿をマーガレットお母様にでも見られたらお叱りを受けるだろう。淑女にあるまじき何とやら、と。

 でも、今だけは見逃してくださいお母様!!

 アルカティーナは先程ナビから聞いた話の内容を思い出し、再び溜息を吐いたのだった。

 ◇  ◆  ◇

 ナビの話をまとめると、こういう事だ。

 まず、アルカティーナの設定の「勘違いの激しい性格」とやらについて。
「アルカティーナ」は現在のアルカティーナと同様に幼い頃から家族に溺愛され育ったという。
 父からは「ティーナは可愛いなぁ、僕の世界一のお姫様だよ!」と言われ、兄からは「こんなに可愛いティーナを好きにならない奴がいるだろうか、いや、いない‼︎‼︎」と叫ばれ、ストッパー役の母にまで「あらあら、そんな事ばかり言っていてはダメよ。まあティーナが可愛いのは変わりのない事実だけれど。」と言われ育った、と。
そしてその結果「アルカティーナ」は「自分は可愛い。だから、この世界には自分に興味を惹かれない人はいない!」と言うぶっ飛んだ、ある意味ナルシストな思考の持ち主に成長。
そのナルシスト思考こそが「勘違い」。そして乙女ゲームのメイン舞台である「王立リリアム学園」と言う学校でヒロインとヒーローにであるわけだが…。
「アルカティーナ」は自分に興味を持たずヒロインに惹かれるヒーローに対しても、その「勘違い」を発動するわけである。

 ーーわたくしの方を見向きもしないなんて…あり得ない。きっとヒーロー達彼らヒロインあの子に弱味を握られているんだわ!!わたくしが助けてあげないと!!!

 そうして、それがヒロインとヒーローの恋路を邪魔することに繋がるというわけである。


 この話を聞いた当の本人アルカティーナは当然、驚愕した。自分で言うのもアレだが何てめちゃくちゃキャラクターなんでしょうか。
 そして同時にアルカティーナは絶望する。
だって、アルカティーナがどう足掻こうと、自分が「勘違いの激しい性格」であると言う事実は変えられないし、変わらないのだ。

 「え…?わたくしそんなナルシスト馬鹿に成長するの確定なんですか??い、嫌です!!……でも、この世界のルールですもの。どうしようも、ないのですよね。」

 アルカティーナは自分が本当に悪役なのかと先程まで疑っていたが、もう疑う余地もない。
そもそも、こんなに恵まれた環境で悪役になるような人物が育つはずが無いと思っていたが…。思えば、そう思ってしまうのも無理ないのかもしれない。
 普通の人なら、いくら恵まれた環境で育ったとしても、帰ってそれが原因で曲がった人間に育つ事もあるだろうと考えただろう。しかし、そんな予測をアルカティーナができるはずが無いのだ。

 だって、アルカティーナは「普通」じゃない。

19年間ずっと「恵まれない環境」で育ち、人でなしな両親のせいで幼い頃から、その「恵まれない環境」に抗うことを諦め。自分の本心を心の奥深くに沈めてひた隠しにして、そうして育った。

 そんな「非凡」なアルカティーナに、つい三年前に初めて「家族の温かみ」を知ったアルカティーナに、「普通」の思考回路を求める方が間違っている。

 
 アルカティーナは、また溜息を吐いた。
わたくしは、悪役。
逆らえない。また、「恵まれない環境」に抗えない。

 ーー絶望

 しかし、寸前のところでアルカティーナは踏みとどまった。
だって、この世界が良いと言ったのはわたくし。
悪役でもいいやと言ったのもわたくし。
だったら、無駄になるとしても抗う価値はある。

 「今世こそはって、決めましたからね。」

 悪役令嬢が何だ。世界のルールが何だ。
知ったこっちゃないですよ。
世界が理不尽なものだとか、とっくにわたくしは知っているもの。

「自分で選んだ道です。…茨の道だって、歩んでやるんですから。」

 アルカティーナはソファーに寝そべったまま、そう呟いた。

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