聖なる歌姫は嘘がつけない。

水瀬 こゆき

文字の大きさ
40 / 165
幼少期編

私を信じて?

しおりを挟む
 それは、遥か昔のお話。
伝説上にも残っていないような、秘密の話。


 「聖女さま」と呼ばれる人がいたそうだ。
彼女は自然のあらゆる力を操り、時に暴れさせ、時におさめることができたと言う。
 人は、その力を「聖なる力」と称した。
「聖女さま」はとても心の美しい、優しい人だった。
人々は皆、「聖女さま」を愛した。
「聖女さま」もまた、人々を愛した。
しかし、とうとう「聖女さま」にも別れの時がやってきた。
彼女は自分の命がもう長くないと悟った時に、ある決断をした。

 「聖なる力」を誰か信頼できる人に託そう。

 しかし、「聖女さま」が愛した人々は、醜い生き物だった。
「聖なる力」を手に入れるために、人々は媚を売った。

 人間に、この力は託せない。

そう確信した「聖女さま」はその力で、新たな存在を創造した。
 それが、「聖霊」。
自分の「聖なる力」を、光・闇・火・水・土・木・風の7つの属性に分割し、各属性につき100の聖霊を創って、個々にその力を平等に分散させて、託した。
 しかし、話はそれでは終わらなかった。
「聖女さま」にはもう一つ、力があった。
それが、月属性の力。
一言に「月」といって仕舞えば、たいした力ではないように聞こえるが、それは大きな間違いだ。
 月属性の「月」は、勿論あの、衛星の月の事指している。
しかし、「月」には別の意味があった。
それは、宇宙。
巡り行く星々全て。

 つまり、月属性の「月」とは、「宇宙」のことを指すのだ。
「宇宙」は広い。
そして月属性の力は、引力・重力・隕石・惑星・衛星・大気まで操ることができる力だった。
 その力は、他のどの属性とも比較できないほどに強大で、圧倒的で、恐ろしい力だった。

 他属性と同じように、100の聖霊を創造し、力を託すという事も考えた。
しかし、それではあまりにも他属性よりも一個体あたりの力が大きくなりすぎる。
では、聖霊の数を増やすか?
そう考えたが…「聖女さま」にはもう、そんな時間は残されていなかった。
もう、いつこの世を去るかわからない。
 そこで、「聖女さま」は妥協することにした。
たくさんの聖霊を創造する時間はない。
でも、たった一人の聖霊を創るのなら、十分間に合う。

 「月属性」の聖霊は、1人だけにしよう。

そうして、「聖女さま」はこの世を去った。
701の、聖霊を残して。

 「月属性」の力は全て、「聖女さま」が最後に創った1人に託された。
よって、その力は強大。
聖霊の小さな体では、その強大な力を蓄えることができなかったために、その1人はサイズが一際大きくなった。
 性格も、他属性よりはしっかりさんに。

 さて、残された701の聖霊たちは当然、「聖女さま」を母親のように思っていた。
だから「聖女さま」がなくなった後も、彼女に対する愛は途切れなかった。
ただ、聖霊は「聖女さま」のことを曖昧にしか覚えていなかった。
姿や声は、思い出せない。
でも、美しかった心。
純粋な心。
優しい心。
 それだけは、覚えていた。

 だから、聖霊は「聖女さま」のように心の美しいを探しては、加護を与えるようになった。
母親に向けたのと同じ愛情を、聖女候補に与えた。
 ただ、聖霊は「聖女候補」の中から「聖女」を選ぶ「選抜」という儀式をあまりしなかった。
なぜなら、「この人なら絶対に安心して『聖なる力』を託せる!」という人がいなかったから。

 だからこそ、「聖女候補」はいても、「聖女」はもう歴代何年もいない。存在しない。

 「聖女さま」のような女性は、もうどこにもいなかった。



 さて。
強大な力を一身に受け持つ月の聖霊は、数多いる聖霊の中でもトップの存在、「えらいひと」になった。
聖霊たちは皆、月の聖霊を敬った。

 「ぎんぱつー!」
 「きれーい。」
 「すごいつよいんでしょー?」
 「かっこいいねー!」

 強いからこそ、月の聖霊は他の属性の聖霊よりも、人見知りに
その力を、利用されてはいけないから。
だから月の聖霊は、誕生したから人間の前に姿を現したことはなかった。

 そうして彼女は、伝説上の聖霊となった。
書物にも一切載ることなく。
誰にも知られることなく。
何十億もの時をすごした。

 何十億もの時をこえ、ようやく見つけた。

 「この子だ!」

 あの子の歌声が聞こえてきた時、そう思った。
だから彼女は、何十億年かぶりに現れた。


 「よろしくね、ティーナ!」


 ◇  ◆  ◇

 「と、言うことなの!わかってくれた?」
にっこり可愛い笑顔で月の聖霊さんが尋ねてきます。
 「はい、大方。でも、わたくしはそんなに綺麗な人間では…。わたくしも、人間です。悪いことくらい考えます。」
 わたくしは、ひどい人間だ。
自分が新たな道を歩むために、前世の思い出を捨てた。
嘘をついたまま死んだ。
裏切ったまま、死んだ。
 「私はね、ティーナならって思ったの!だからね、ティーナも自分を信じてよ。それが無理ならね?私を信じて?ティーナは、綺麗な人間だよ!」
 「……!!」

 自分を信じてよ、無理なら私を信じて?、か。

自分が綺麗な人間だとは、思わない。
でも、本心からそう言ってくれる存在がいるということだけで、アルカティーナは幸せだと。
そう、思えた。

しおりを挟む
感想 124

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆
恋愛
 一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。  信じられなかった。  母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。  そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。  日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

悪役令嬢のビフォーアフター

すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。 腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ! とりあえずダイエットしなきゃ! そんな中、 あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・ そんな私に新たに出会いが!! 婚約者さん何気に嫉妬してない?

処理中です...