聖なる歌姫は嘘がつけない。

水瀬 こゆき

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デビュー編

……嫌な方々。

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 お友達が出来ました!
やったあ!
めでたしめでたし。
…とは、いきませんでした。
新しいお友達のアメルダ嬢としばらくお喋りして、また会おうという約束をして別れた直後のことでした。

 「あらーぁ!貴方、アルカティーナ嬢じゃなーい!さっきの挨拶、見てたわよぉ~?大変だったわねぇ、一人だけ陛下にお声をかけられたんだからぁー!お疲れ様!」

 噂好きな近所のおばさんみたいな口調で話しかけてきたのは、アーリア・キース侯爵夫人。
とても人付き合いのいい女性だとして有名です。
人柄としてはとても人望のある素敵な方です。
ただ、何と言いましょうか。
ドレスが壊滅的に似合ってらっしゃらないのです。
アーリア様は少し膨よかな、感じのいい雰囲気の容貌をしていらっしゃいます。
だから、あまり体のラインがクッキリとは出ない、柔らかで淡い色合いのシンプルなドレスが似合うのだと思いますが、アーリア様の実際の服装は体型ラインがモロに出る、フリルが多めの真紅のドレス。
びっくりするほど似合ってません。

 「ありがとうございます、キース侯爵夫人。初めまして。おっしゃる通りわたくしはアルカティーナ・フォン・クレディリアでございます。挨拶のことですが、ほんとうに驚いてしまいました。焦ってしまいましたわ。」

夫人の服装に顔が引きつりそうになるのを表情筋で何とか堪えます。
ここで顔が引きつるなんて以ての外。淑女の風上にも置けません。
それに何より、労いの言葉をかけてくださったアーリア様に失礼です。
 「あの、キース侯爵夫人。」
 声をかけると、彼女は少し垂れ気味の目を細めて優しい笑みを浮かべました。
 「あら、やだわぁ。キース侯爵夫人なんて呼ばないでちょうだい?アーリアでいいわよーぉ。」
 人のいい笑顔。
アーリア様は、本当に優しいお方なのですね。
初対面のわたくしにこんなによくしてくださる。
 「本当ですか?ありがとうございます。では、アーリア様とお呼びしますわ!」
 「えぇ!そうしてちょうだーい!」
 満足げに頷くアーリア様を見てから、再び口を開きます。
 「ところでアーリア様、そのドレス。素敵な型ですわね!」
 にっこり笑顔でそう告げます。
ちなみにこれは本心ですので、扇は使っていません。
ドレス自体は、本当にセンスが光っております。
ただ、似合っていない。それだけの話です。
 「まあ!わかってくれるのねーえ!そうなのよ!これは巷で今有名なあの…」
 褒められて嬉しかったのか笑顔を一層深くさせ、アーリア様はドレスについて熱弁をふるいはじめました。
うんうん、ドレスが大好きなんですね、きっと。
微笑ましいです!
何故か上から目線になりながらも静かにアーリアの話に耳を傾けていたアルカティーナだったが、急に眉をひそめた。

 「まあ、ご覧になって?あのご夫人。」
 「なぁに?あの格好!笑っちゃうわ。」
 「本当にね。それにほら…あの横にいる方。」
 「あら、噂のアルカティーナ様じゃない。」
 「ご夫人の機嫌を嘘までついてとるなんて、バカみたいですわ。」
 「そうよ、ちょっと話題になってるからって調子に乗りすぎだわ?」
 「くすくす」
 「くすくす」 

 少し離れたところから微かに聞こえてくる、陰口。
それこそがアルカティーナが眉をしかめた理由だった。
 「……嫌な方々。」
思わず呟いてしまいました。
チラリと夫人を見ると何故か驚いたような表情でした。
アーリア様はきっと、あの方々に何も言わないでしょう。
でも、それはダメです。
やられっ放しの人生は。
人の心に影を作る。

 アルカティーナは覚悟を決めると、「嫌な方々」の方へと向かっていった。

 ◇ ◆  ◇

 「……嫌な方々。」

ボソリとそう呟いたアルカティーナに、アーリアは瞠目した。
実のところアーリアは、以前から若い令嬢たちからはああいった陰口をよく言われていた。
だが、ああいう輩は言っても聞かないし暴走するだけなので、ずっと放ってきたのだ。
それに、自分の味方は旦那以外いなかった。
味方でも敵でもない人がほとんどだった。
 それが、どうだろう。
とてもおっとりとした、人当たりの良いアルカティーナが「嫌な方々」と言った。
初対面だから、本性はわからないだろうと思うだろうが、アーリアは人を見る目だけは自信がある。
それに、アルカティーナは自分のドレスを褒めてくれた。

 味方が出来たかもしれないわ。

 それを嬉しく思う反面、アーリアは困惑した。
デビューしたばかりの彼女が自分のせいで社交界で浮いたりしたら、申し訳なさすぎる。

 だから、アーリアは止めようとした。
陰口を言っていた令嬢たちに近づいていくアルカティーナを。
 「アルカティーナ嬢、だめよーぉ。そんなことしたら…」
 アーリアに腕を掴まれ、歩みを止めたアルカティーナは長い金髪を靡かせながら振り返った。
 
 彼女はその可愛らしい容貌からは想像もつかないような、強い意志のこもった瞳をしていた。

 「アーリア様。」

 その口調は先程と変わらず、穏やか。

 「やられっ放しは、ダメですよ?」

 そう言って綺麗に微笑んだアルカティーナに、アーリアは感動した。

 「アーリア様は、ここで待っていてくださいませ。」

 アルカティーナの凛々しい後ろ姿を見ながら、アーリアは確信していた。

 聖女が選ばれるなら、それはきっとあの子だわ。

初対面で何を、と思うかしら?

でも私、人を見る目だけは確かなの。

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