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デビュー編
この子、ちゃんと怒れたのね。
しおりを挟む疲れた疲れた疲れました。
あー、ようやく!
ようやく帰路に着くことができましたよわたくし!
頑張りましたよわたくし!!
珍しく本気にもなった事です。
今日はとても疲れましたよ…ふぅ。
そう言えば、あれから本当にすぐに帰っちゃいましたけどアーリア様大丈夫でしょうか……。
それに今回のことで社交界で浮いてしまうかも…。
はぁ、まあ後悔はしてはいませんが。
だってあれは、放っておけないでしょう?
うん、そうですよ!
後悔先に立たずってね!
それに今日はお友達も出来ましたし…あ。
「も、もしかしてアメルダ嬢に怖いと思われたかも……!ふぁーーーーー!!」
「ティ、ティーナ?どうしたの急に?」
どうしよう!!せっかく仲良くなったのに次会ったら「どちら様ですか」とか言われたら!
はい、わたくしきっと泣きますね。
「おーい、ティーナ?」
…あぁ、何だか破茶滅茶なデビューでしたね。
デビュー直後に他家の令嬢に喧嘩売っちゃいましたしね!
「あ、無視?うん。だよね。」
ふふ……グッドバイ☆わたくしの青春のハッピーライフ ………。
アルカティーナは遠い目をして、力尽きたように笑った。
「ティーナ?ティーナ??本当にどうしたんだい?」
「あら、ぼうっとしてるわ。誰か良い人でもいたのかしらね。」
「え。ウソ。僕認めないよ?」
「きっと初めての夜会で疲れたんですよ。そっとしておいてあげましょう。」
馬車に揺られながら一人物思いにふけるアルカティーナは、そんな家族の会話など耳にも入っていなかった。
アルカティーナは、色々な事をグルグル考えて、考えて考えて……考えすぎて疲れてしまい、その後馬車の中で眠りについてしまった。
◇ ◆ ◇
「あ、ティーナ寝ちゃった。」
マリオスの言葉にマーガレットとルイジェルはスヤスヤと息を立てるアルカティーナを見て微笑んだ。
「ほら、やっぱり疲れてたんですよ。」
「ええ、そうねぇ。」
マーガレットはよしよし、とアルカティーナのふわふわの金髪を撫でた。
するとアルカティーナは無意識なのだろうが、ふわっと僅かに微笑んだ。
「…!リトルマイエンジェル!!」
半ば悲鳴をあげるように叫んだマーガレットに、ルイジェルは呆れたような顔をした。
「母上…その呼び名、まだ続行してたんですか。」
『リトルマイエンジェル』と言うのはアルカティーナがまだまだ幼い頃にマーガレットが密かに付けた呼び名だ。まさか12歳になった今でも言っていたとは。
「当たり前じゃない!可愛いんだもの。」
「僕もそう思うよマーガレット!」
「あ、それには僕だって同意ですね。でも、さすがにもうリトルでは無いですよ。」
マーガレットは僅かに瞠目したのち、「そうね」と幸せそうに呟いた。
「あんなに小さかったのにこんなに成長したのねぇ。」
マーガレットは、未だに娘の髪を撫でたままだ。
そして、ポツリと呟いた。
「この子が本気で怒ってるの、初めて見たわ。」
その声は、僅かに震えている。
泣いているのだろうか。
だがその表情は、俯いているために見えない。
「この子、ちゃんと怒れたのね。」
母親なのに、そんな事も知らなかったわ。
その言葉は、マリオスとルイジェルの心にも突き刺さる。
皆、アルカティーナが本気で怒ったところなど見たことがなかった。
あったとしても、それはちょっとした怒り。
本気で怒っているのかと思いきや、それは自分自身への怒りだったこともある。
アルカティーナは、何もかもを一人で抱え込みすぎだ。
彼らは、デビュタントの場で怒りを露わにするアルカティーナをあえて止めなかった。
わざと、仲裁にも入らなかった。
抱え込みすぎたモノを、少しは吐き出して欲しいと思ったから。
その怒りがたとえ、人のためだったとしても。
「それにしても、ティーナって怒ると怖いですね。」
ルイジェルは思い出したように呟いた。
するとマーガレットは顔を上げてニッコリ笑い、対してマリオスは顔を青くさせた。
「ティーナは…怒らせないようにしよう。うん。そうしよう。」
「流石私の娘だわ!やればできるのよ!」
どうせ、あの令嬢たちはアルカティーナの事を舐めてかかっていたのだろう。
たかが、デビューしたてのヒヨッコだから、と。
雰囲気が柔らかいから、強く出ることのできない令嬢に違いない、と。
馬鹿ね!
クレディリア公爵夫人なる私がそんな柔な育て方をするはずないじゃない!!
「ふふふふ……舐めてかかるから痛い目見るのよ、ヒヨッコが。」
「「……………………。(怖っっ)」」
ふと、マーガレットが首を傾げた。
「?どうしたのです、母上?」
「…いえ、ね?私の娘が大物なのは当然なのだけどね?あの怒った時の怖さというか、威圧感は誰に似たのかしらと思ったのよ。」
「「…………………………………さあ??」」
本気でわからない、とばかりに首を傾げるマーガレットに、二名は「「君だ!!」」と本音を言うことは出来なかった。
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