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出会い編
取引を致しませんこと?
しおりを挟む夕方になってようやく、護衛役の方が到着しましたよ!
いざ彼との面会の為にアルカティーナは応接間へと向かうと、手始めに挨拶をしたのだが。
「初めまして。ようこそクレディリア邸へ。わたくし、クレディリア公爵が長女アルカティーナ・フォン・クレディリアと申しますわ。貴方がわたくしを護衛してくださるという方ですわね?これからどうぞよろしくお願いしますわ。」
浮かべているのは愛想のいい笑顔。
一目見ただけなら、たいそう華やかに見えることだろう。
しかし、その心は全く華やかなどではなかった。
アルカティーナは、内心汗水垂らしていたのだ。
まずい!まずいまずいまずいまずいまずーーーーーーーーーーい!!です!!
こんなはずじゃないですよ!
そうですよ。なんでこんな事に!
なぜ!?なぜ護衛役がこんな子供なんですか!?
あ、わたくしも子供なんですけどね!?
念のために言っておくが、アルカティーナの顔は満面の笑みである。仮にも公爵令嬢なのでそこは安心してほしい。
アルカティーナは、どうしてこうなった!と内心頭を抱えていることなどおくびにも出さない。
いや、でも少しくらい言い訳を聞いてくださいな。
そもそも「護衛役」というのは「聖女候補」に一人ずつ付けられる騎士様のことで、普通は「聖女候補」を守るのが仕事の、「聖騎士」と呼ばれる騎士様が任命されるものなのです。
「護衛役」はそれはそれはハードなお仕事で、「聖女候補」の安全が確実なものとなるまで続けなければなりません。
運が悪ければ一生、なんてこともあります。
途中で「護衛役」が亡くなった場合は別の人物を「護衛役」に。
そんな、何ともブラックなお仕事でございます。
……かわいそうです。
そして。
わたくしの「護衛役」なるお方は史上最年少で第一騎士団に入団された凄いお方。
なんて豪華!わーすごいです。(棒)
まあ百歩譲ってそこはOKとしましょう。
で・す・が!
真の問題はここからです。
彼は「聖騎士」ではなく、普通の「騎士」。
本来なら「護衛役」に選ばれるはずのない方。
しかも、王国一の武力を持つ「第一騎士団」の団員さんです。
わー!すごーーい!本当に豪華ですぅー(棒)。
ま、まあそこも五百歩譲って(なんだそれ)OKとしましょう。
だがしかしっっ!!!
こういう「護衛役」って基本ベテランのおじさまが選ばれるはずなのです!だって実力も確かですしね!
だったらなぜ!
なぜ目の前にいる「護衛役」は、おじさまどころか少年なのでしょうか!?
はい、もう一度。
少年です。少年。
さすが騎士様で、線は細めなのですが結構体つきがしっかりしているので具体的に何歳かは分かりませんが、おそらくわたくしより少し年上と言ったところでしょう。
つまりわたくしと歳が近いわけです。
ここで問題になってくるのは、わたくしの私生活。
「護衛役」は護衛対象であるわたくしに基本四六時中ぴったりとまるでストーカー……ゲフンゲフン、まるで不審者のように付きまとうわけです。
と言うことはですよ?
わたくしは彼に四六時中、私生活を覗かれるわけです。プライバシーを返してください。
まだおじさまだったらいけたはずなんです。
なのに歳が近い少年とか、もう無理ですよ。
知ってますかわたくしの私生活。
ひどいんですよ?ええ、それはもう。ゴミのような生活ですよ。
それが歳の近い少年にバレるだと??
ふっ……無茶言うなってやつですよ。
わたくしはこれから彼の前で「貴族」らしく振舞わなくてはならないのでしょうか?
化けの皮をかぶって生きていくのでしょうか?
あーーーー、もう、ダメです。
まるで干物のように乾燥しきった心を叱咤しながらアルカティーナは再び、少年を見つめた。
黒い艶のある綺麗な髪は真っ直ぐと肩下まで伸びており、銀色のシンプルな留め具で一つにむすばれている。
青空を描いたかのような、どこか透明感のある真っ青な瞳は吸い込まれそうなほどに美しい。
目鼻立ちはすっきりしていて、形のいい唇は固く結ばれている。
少年ながらに程よく引き締まった体躯。
そんな彼は、足元に跪いたかと思うと…
「初めましてアルカティーナ様。自分はゼンと申します。誠心誠意をかけ、貴女様をお守りいたします。」
アルカティーナの挨拶にそう返してきた。
いかにも、立派な騎士様。
この方は陛下に命令されてここへ来たはず。
なら信用に値する人物なのでしょう。
ですが、「自分」ですか。そうですか。
かたいですね。
アルカティーナは、彼…ゼンに笑いかけると単刀直入に言ってみた。
化けの皮を剥がしてやりましょう、という一心で。
「ねえ、ゼン様?取引を致しませんこと?」
ゼンは空色をパチクリと瞬かせた。
「取引……と言いますと??」
「貴方、堅っ苦しいんですもの。そんな方がこれから先ずっと側にいると思うと少し頭が痛いわ?で・す・か・ら。わたくし達、お友達になりましょう!」
そう、友達になれば別に「貴族」らしく振舞う必要も無くなるし「忠実な騎士様」らしく振舞わなくてもいい。
年相応の事が心置き無くできるというわけだ。
我ながらナイスアイデアです!
それまでの愛想笑いを一転させ、大輪の花を咲かせたように微笑むアルカティーナに、ゼン少年はポカンとほうけた。
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