聖なる歌姫は嘘がつけない。

水瀬 こゆき

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出会い編

え、あの子って確か…

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 デビュタントパーティーも終わり、わたくしの心もようやく平静を取り戻しつつある今日この頃。

 「お嬢宛に手紙だ。」

 わたくし宛に手紙が届きました。

 「アメルダからでしょうか、…あれ?」

手紙といって思い当たるは、アメルダからの手紙。
ですが何やらいつもと封筒の模様が異なります。

 見ると、それは懐かしい方からのお手紙でした。

 ◇ ◆ ◇

 アルカティーナ・フォン・クレディリア様


 桜も徐々に葉桜へと成り替わる今日この頃ですが、いかがお過ごしかしら?
お久しぶりね。
本当はもっと早くに手紙をお届けしたかったのだけれど、なにぶん手紙を書くのが不得手で何度も書き直していたらこうなったのよ。
ごめんなさいね。
それから、ありがとう。
デビュタントパーティーのこと、私は一生忘れないわ。
あんなに心強いと思ったのは初めてよ!
あなたが私のせいで社交界で畏怖の対象になってしまったらどうしようかと思っていたけれど、噂に聞く限りそれも杞憂に終わったみたいで、良かったわ。
 お礼と言っては何だけど、私にして欲しいことがあったら何でも言ってちょうだいね。
 あと、もし良かったらこれからも仲良くしてくださるかしら。
私、あなたみたいに芯の強い方とお近づきになりたいとずっと思っていたの。
良ければ、お返事ちょうだいね。
本当にありがとう。


                                                アーリア・キース

  ◇ ◆ ◇

 アーリア・キース様

 そろそろ初夏の兆しが見え始める頃ですね。
いかがお過ごしですか?
わたくしはとても充実した日々を送っております。
 丁寧なお手紙をわざわざありがとう御座います。
デビュタントパーティーでのことは、どうかお気になさらないでください。
わたくしが、したくてしたことですから。
 そう申し上げておいてなんですが、もし良ければ今度キース伯爵様の領地にある市馬に連れて行ってはいただけませんか?
以前よりとても興味があるのです!
 わたくしの方こそこれからも是非仲良くしていただけたらと思っております。
 お手紙、またお待ちしておりますね。


                 アルカティーナ・フォン・クレディリア

 ◇ ◆ ◇

  「ふう、これでよしっと。」

 アルカティーナはコトリと筆を置いた。
まさかアーリア様からお手紙が来るとは。
 あの騒動の後すぐに逃げるように帰ってしまったので、アーリア様がその後どうなったかは知りません。
 逃げちゃってごめんなさい。
でも、お手紙を見る限りはお変わりないようで、安心しました。
アルカティーナが一息ついていると、ゼンが先ほどとは別の封筒を差し出して来た。

 「お嬢。また手紙だ。」
 
 「え?またですか??」

 その封筒は、またもや見慣れない模様が入っていた。
今度はどちら様かしら?と思ってしまったが、よくよく見るとアメルダからだった。
 慌てて封をきると、ゼンが覗き込んで来ました。

 「えーっと、『お茶会への招待状』…??『き、来て欲しいとか思ってないけどね!………来て欲しいな。』って何だこれ。ツンデレ?」

 手紙を読み上げたゼンに、アルカティーナは嬉しそうに笑った。

 「はい、アメルダはツンデレなのですよ。ゼン、ツンデレ好きですよね?今度紹介しますよ!」

 ゼンは無類の猫好き。
猫といえばツンデレ!
ツンデレと言えばアメルダっ!!

 つまりゼンはアメルダを気にいるに違いないというわけです!

 期待に満ち溢れた瞳でゼンを見たアルカティーナだったが、意外や意外。
ゼンは平然としていた。

 「アメルダじょ……アメルダ様か。まあ、楽しみにしてる。」

 あれっ?もっと食いついて来ると思ったのに。
腑に落ちないなと思っているとゼンに苦笑されました。

 「あのな、俺は別にツンデレなら何でも好きってわけじゃないぞ?猫が好きってだけだからな?」

 「え。そうなんですか?」

 そりゃびっくりです。
ぽかんとしているとゼンが苦笑したまま聞いて来ました。

 「このお茶会、どうするんだ?行くのか?」

 「もちろん!アメルダのお誘いですよ?」

 行かないわけないじゃないですか!!
そうと決まれば早速お返事を書かねば!

 「でもこのお茶会、他にも何人か令嬢が招待されてるって書いてあるぞ?特にこの、リサーシャ・キリリア侯爵令嬢。彼女、変わり者らしいぞ?」

 「へぇ、そうなんですか?…ん?リサーシャ・キリリア??え、あの子って確か…」

 眉をひそめたアルカティーナに、ゼンは訝しげな顔をした。

 「リサーシャ様が、どうかしたのか?」

 「……いえ、リサーシャ様ってわたくしと同い年の方ですよね。変わり者らしいって、どういうことです?」

 デビュタントパーティーが終わったばかりでそんな噂が立つなんて、いったいどんな人なんだろうか。

しかし、ゼンもそう詳しいわけではなかったらしい。
ふるふると首を横に振った。

 「いや、俺も詳しくは知らないんだ。」

何でそんなことを聞くんだ?と聞かれたが、アルカティーナは答えることはしなかった。

 だって、リサーシャ・キリリア侯爵令嬢と言えば確か、悪役仲間じゃないですか!
 そりゃ気にもなりますよね!

 なんて、答えることは出来なかったから。



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