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出会い編
はっきりとお断りさせていただきます
しおりを挟む会場入り口には王宮に仕える侍女や執事がズラリと並んでおり、訪れる参加者たちに一つずつお洒落な細工が施されたランタンを手渡していました。
かく言うわたくしもゼンも一つずつもらいました。
夜特有のボンヤリとした闇色の空に、ランタンの朧げな光はとても幻想的に映えています。
「あら、クレディリア公爵令嬢だわ」
「まあ本当。相変わらずお美しいこと!」
「おい、あの隣にいる方って…」
「どなたかしら」
「まあ、美男美女でお似合いね!…でも、本当にどなたなのかしら」
「どこかで見たことがあるような……」
あーーーー…それにしても視線と噂ばなしが物凄いですね…。
もう帰りたい!今すぐ帰りたい!
あったかハイムがわたくしを待ってますよ!!
…でも、今日はゼンも一緒ですしね。頑張りますか!
くじけませんよぉ~!!…たぶん。
何はともあれわたくし達は今、数多の視線の中をぶらぶらと歩き回っております。
時折声を掛けられるので返事をしつつではありますが、会場中を歩き回っています。
なぜならアメルダとリサーシャを探すため。
流石に一緒に会場入りは難しかったので、中で合流しようと約束していたのです。
でもそれらしき人影は何処にもありません。
おかしいですね。
そうこうしているうちに開会の時間になってしまいました。本当は開会する前に見つけておきたかったのですけど…仕方ありません。
後でまた探すことにしましょう!
何を隠そう今回は友達とひたすらお喋りに徹し、夜会をとにかく目立たず、楽しく過ごそうという計画なのですよ。
友達と喋っているだけなら目立たないはず。…はず!
主催者である陛下と、皇后陛下が簡単な挨拶をなさった後、開会の合図である鐘が鳴り響きました。
そして、分かってはいましたがやはりディール第一王子殿下もその隣にいらっしゃいました。
うん、関わらないようにしましょう。
「お嬢様、そろそろ探しに行きましょう」
「そうですわね。行きましょうか」
今日は人の目があるのでお互いに完璧に社交モード。
お互い気疲れしますね、ゼン。
◇ ◆ ◇
「これはクレディリア嬢!ご機嫌麗しゅう」
「…あら、ラグドーナ様御機嫌よう」
声を掛けてきたのはラグドーナ・テンペス様。
わたくしの一つ年上で、テンペス公爵家の長男です。
流石はゲームの世界、彼はマニュアル本にも載っていないモブキャラですが、かなりのイケメン様です。
ま、ゼンには到底及びませんけどね!
うちのゼンはすごいんですよ~!
「時にクレディリア嬢。風の噂で耳にしたのですが…婚約者がいらっしゃらないとか」
「ええ、その通りですわ」
アルカティーナは首肯してみせた。
わたくしは事実、婚約していません。
デビューは済ませているので婚約は自由にできるのですが…お父様が来る縁談全てを蹴ってしまうのですよ。
曰く、『こんな奴に僕のティーナはやれない!』だそうです。
いや、わたくしだって婚約してみたいですよ?
せっかくの異世界ですからね!
…でもこれが現状です。悲しい!!!
1人悲しみにくれていると目の前の男は胡散臭い笑みを向けてきました。
嫌な笑顔です。
「ならば、私と婚約しませんか?偶然にも私は婚約者がいない身でして」
その言葉に、わたくしの心は乱れました。
えーーーー。
普通、身内以外の男性にエスコートされている女性に婚約申し込みます?
しかもその男性の目の前で!
ちょっと、常識はずれが過ぎませんか?
横を見るとゼンがラグドーナ様に軽蔑の眼差しを向けていました。
それを見て思わず苦笑しそうになったわたくしは、慌てて口元を扇で隠しました。セーフです!
その瞬間、周囲の女性から尊敬の視線を感じたのですが何故でしょうか。
わたくし、何かしましたっけ??
と言うか、見てないで誰か助けてください!
わたくしは気を引き締めると、精一杯申し訳なさそうに見える表情を作りました。
「勿体無いお誘い、ありがとうございます。ですが、お断りしますわ。わたくしに次期公爵夫人は務まりませんもの」
実はこれは本音です。
彼は長男なので、このままいけば次期公爵でしょう。
わたくしがその妻なんて無理ですよ!
重役じゃないですか!
しかし、ラグドーナはひかなかった。
「お戯れを!あなたに務まらずして他の誰に務まると言うのです」
「わたくしよりも優れた女性は山ほどおられます」
「まあそう仰らずに」
…凄くしつこいです!わたくし、こう言うタイプの方、生理的に受け付けないのですが。
「はっきりとお断りさせていただきます」
「いや、しかし…」
いい加減、本当にしつこいですよ??
もういいです。はっきりと言ってやりましょう。
アルカティーナは、大きく息を吸い込んでから目の前の男を睨みつけた。
「第一、わたくしのパートナーを無視して挨拶もなさらない方とは婚約したくありませんわ」
ゼンは、わたくしの従者です。
ですから身分的には下位。
対してラグドーナ様は公爵家の令息。
下位のものから上の者に話しかけるのは、貴族社会ではタブー中のタブーです。
つまり。
ゼンはラグドーナ様に声を掛けられるまで、この場に一切口を挟めないのです。
ラグドーナ様からすれば、目的はわたくしなのですからゼンはただの邪魔者、もしくは敵。
だから彼は、ゼンが動かないのをわかっていて、わざと無視していたのでしょう。
ですが、いくら身分が上だからと言って無視するのは無礼というもの。
そう思って睨みつけたままでいると、彼は急に態度を変えました。
「そうですか、そうですか」
その表情は打って変わって歪んだ皮肉じみた笑顔。
そして彼は、その表情のままにこう言ったのです。
「その言葉…後悔させてやりますよ」
それだけ言うと挨拶もなしに去ってしまいました。
彼の嫌な笑顔が焼き付いて離れません。
嫌な予感がするのは、わたくしだけですか?
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