聖なる歌姫は嘘がつけない。

水瀬 こゆき

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出会い編

第一声がもう失礼ですね

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 やってきました夜会当日。
きちゃいましたよ、とうとう。
是非ともお引き取り願いたいですね。
人じゃないので無理な話ですが。

 「さ、アルカティーナお嬢様。お化粧をいたしますのでこちらにお掛けください。髪もセットしましょうね」

 侍女にされるがままのアルカティーナは、鏡台前の椅子に腰かけた。
 もう何でもいいです。
何でもいいから今日は極力目立たず、普通にしていると決めました。

 「どのような髪型にしましょうか」

 「あ、できるだけ目立たない感じで…」

 「畏まりました。では、盛り髪を致しましょう。最近巷では、髪で鳥かごを編んだり、動物の頭部を評判したりする髪型が流行っております。それにしましょうね」 

 「待って。待ってください。やめてやめて!それ目立つやつじゃないですか!わたくしは目立ちたくないのですっ!というか、巷の女性は頭でもおかしいのではないですか!?なぜ髪でそんな物を作るのです!?」

 「目立ちたくない?ご冗談を、お嬢様。お嬢様には目立っていただかなくては困るのです。何しろ今日は陛下主催の紅葉狩夜会!きちんと公爵令嬢らしく着飾っていただかねば!!因みに巷の女性は頭は通常運転です。おかしいのは髪型だけかと」

 「今自分で『おかしい』って言いましたよね!?おかしい髪型はやめてください!普通!普通の髪型で!」

 「では巷で今普通の髪型となりつつある盛り髪を」

 「誰か来てください!この人話が通じません!!」

  「私としてはお嬢様には小鳥が似合うかと。何匹作って欲しいですか?」

 「本当に話が通じない!」

 ひどい目にあいました。
もう喉がカラカラですよ…全く。

 「申し訳ありません調子に乗りました。だって、お嬢様が盛り髪とかなんか面白そうじゃないですか。なので謝りはしますが反省は一切しておりません!!」

 「反省しましょうね」

 彼女は侍女の中でもかなりヘアアレンジやメイクの腕がいいのですが、悪ノリが激しいことでも定評があるのです。
 すっかり忘れていました。はぁ……

 「お嬢様、盛り髪の件は2割冗談ですよ。私はただ、朝から元気のないお嬢様に明るくなって欲しいと思ったため、このような事を申し上げたのです」

 …優しいですね。
クレディリア邸の侍女は、みんな優しすぎます。

 「ありがとうございます。すこし元気が出ましたよ?」

 で す が

 「………8割、本気だったんですね」

 「はい。それはもう!」

 侍女さん。そこはドヤ顔で答える場面ではありませんからね。

 
 結局、わたくしの髪型はサイドに大きめの編み込みを入れたシニヨンに落ち着きました。
 とても可愛い髪型なのですが、いつもはハーフアップなので首元の違和感が半端無いです。
 スースーします。

 でも、ダメダメですね、わたくしったら。
侍女に心配をかけてしまうなんて。
しっかりしないとですね!

 今日の夜会は紅葉狩をメインとした夜会。
流石は乙女ゲームの世界。異世界とはいえ、紅葉が存在するのです。
 そして今回は夜桜ならぬ夜紅葉を楽しもう!という企画。
開催場所は王城のお庭。
紅葉があるお庭…素敵ですね。
 
 「お嬢ー。支度はできたか?」

 「あ、はい。もう入っても大丈夫ですよ」

 ノック音の後、入って来たのはわたくしの護衛のゼンです。
 ゼンは今回の夜会に(強制)参加するので、ちょうど良いとばかりにエスコートをお願いしました。
 お願いした際、何故か渋られたのは不服です。

 そのゼンは入って来るやいなや、わたくしの姿を目に留め…ポカンと惚けた表情になった。
美形って、惚けても様になりますね。羨ましい限りですよ、まったく。

 「お嬢がお嬢様に見える!」

 「第一声がもう失礼ですね」

 朝から碌な従者がいないのは何故ですか?
呪われてるんですかね?
それともゲーム補正ですか?
それは…多分ないですね。
こんなゲーム補正があってたまるか!

 「言われたくないなら日課のドミノ倒し、やめたらどうなんだ?毎日毎日、大量の本を迷路のように並べてドミノにする令嬢なんていないぞ?」

 ゼンったら、何を言っているんでしょう。
「いないぞ?」って…そんなこと言ったって、

 「ここにいますよ?」

 「ここにしかいないんだよ」

 どうしてゼンはわたくしを可哀想な人を見る目で見るのでしょうね。
 ドミノ、楽しいんですよ?ハマったらやめられない!
わたくしのいくつかある趣味の一つです。

 ゼンは呆れ返ったようにひとつ、大きなため息を吐きました。

 「それはともかく…いつも以上に綺麗だな」

 「え?何がですか?」

 「お嬢がですが?」
 
 「眼科に行ってください」

 「お嬢こそ脳外科に行ったほうがいい」

  「………」

  「………」

 暫くの、沈黙。
ああ、ダメですねこれは。
この言い合いはキリがないやつです。

 「あの、ゼン。ごめんなさい、色々変なこと言っちゃって…」
 
 「いつもの事だから気にしてないぞ」

  「失礼ですねぇ…でもさっきの褒め言葉は、お世辞でも嬉しいです。ありがとうございます、ゼン」

 「お世辞じゃないって行っても信じないんだろうな。どういたしまして」

 すこし冗談めかしてそう言ったゼンを改めて見ると、今日はゼンもいつも以上に素敵です。
 いつもは騎士らしく動きやすい格好をしているのですが、今日は紳士らしい正装です。
 ゼンって、黒似合いますね。凄くかっこいいです。

 「そう言うゼンも、凄くカッコいいですよ!」

 「それはどうも」

 それから出発の時間までは、ゼンと団欒をしながら過ごしました。
 とてもとても、穏やかな時間。
ずっとこんな時が続けばいいのに…なんて、
無理な話ですよね。
 
 そしていよいよ、夕方になりました。

 「失礼します。お嬢様、ゼン殿。馬車まで案内いたします」
 
 「はい、わかりました。」

 「ありがとうございます」

 2人で顔を見合わせて頷きます。
今日はゼンと協力して、2人でできるだけ目立たないようにしようということになりました。
 
 よし、気合を入れて目立たないようにしますよ!

 
 

 
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