聖なる歌姫は嘘がつけない。

水瀬 こゆき

文字の大きさ
75 / 165
出会い編

さがってろ、お嬢

しおりを挟む
 
 「すみませんお嬢様。何も手出しできなくて」

 「仕方ありませんわよ。それに、悪いのはあちらですわ」

 ラグドーナのことはさておき、アルカティーナたちは人探しを再開させていた。

それにしてもラグドーナ様は本当に嫌な感じの人でした。
それに、ゼンにも変な気を遣わせてしまいましたね。
うぅ、申し訳ないです…。
わたくしがもっと上手くかわせていればよかったんですけど…。
わたくしはやっぱり、まだまだ未熟者ですね。

 落ち込むアルカティーナにゼンは釘をさすように小声で囁いた。

 「ありがとうございます。でも気をつけてくださいよ。ラグドーナ様はきっと諦めていません。それどころか、あの様子だと何か嫌がらせをしてくるに違いありません」

 「…そう、ですわよね」

 それには、わたくしも同意です。

 『後悔させてやりますよ』

ラグドーナ様の去り際の一言。
自分が次期公爵となり今以上に家を栄させ、『あの時お断りしなければよかった!!』と、わたくしを後悔させる……という趣旨ならいいのですが。
まあ確実に違うでしょうね。
彼が言いたかったのは、「痛い目に合わせてやる」という趣旨のことでしょうから。

 あぁ、どうしてわたくしはもっと上手くやれなかったのでしょう!!
こんなことになるなんて思いもしませんでした。
…ラグドーナ様、一体何を企んでいるのでしょう。
凄く悪寒がします。

 「お嬢様。少し休みましょうか?顔色が優れませんよ?」

 「ゼン……ありがとう、ございます…」

 また心配をかけてしまったみたいです。
ダメダメ!しっかりするのですよ、わたくし!!
こんなんじゃダメですよね。
 でも、わたくしは表情には一切出していないはず。
ゼンはとても敏感なのですね。
 とは言え少し疲れました。主にラグドーナ様とかラグドーナ様とかラグドーナ様のせいで!!!!
ここはお言葉に甘えましょう。

 「あ!あちらに人気のない良い感じの場所がありますわよ。ほら、あの大きな紅葉の木のあたりですわ!」

 会場の端に位置するその紅葉の木の辺りには、夜会参加者の姿は見られない。
 休息の場にはピッタリだろう。
ゼンは「そうですね」と賛成すると、アルカティーナをそこまでエスコートした。
…いや、していた。
していたのだが、あと少しで木の根元…というところでピタリと足を止めたのだ。

 「??どうしたんですかゼン」

 人もいないので、すっかりお嬢様口調をやめてしまったアルカティーナは訝しげにゼンを見つめる。

 「そこに落ちてる髪飾…アメルダのものじゃないか?」

 ゼンの指差す方向ーー紅葉の根元のすぐそばーーに眼をやると、確かにキラキラ光る髪飾のようなものが見えます。
 でも光の加減でよく見えません。

 アルカティーナは近くで見ようとして、根元へと駆け寄っていって…すぐに後悔した。

 「……っっ!!」

 「お嬢、危ないっっ!」

 背後から怒号のようなゼンの声がしました。
それもそのはず。
わたくしは、すぐ真上から誰かに強い殺気を向けられたのですから。
それに気が付いたゼンが叫ぶのも仕方のないこと。
 そしてゼン同様、殺気に気が付いていたわたくしは反射的にその場から飛び退きました。
すぐに後ろからゼンが駆け寄ってきて、わたくしを庇うように前に立ちます。
そして、わたくしの真上…つまり、紅葉の木を射殺すように睨むと、低い声で言いました。

 「出てこい。誰だか知らんが、そこにいるのはわかっている」

 それと同時に、ガサリと葉と葉がぶつかり合う音がしたかと思えば1人の男が身軽にも木から飛び降り、わたくし達の目の前に着地しました。
その男は、驚くほどに黒ずくめの衣服を身に纏っておりゼンは思わず眉をしかめた。
 明らかに、夜会の招待客ではない。
その姿はまるで、暗殺者のような……

 「まさかバレちまうたぁなあ。まあいい。コンバンハ、お二人さん。でもって、サヨウナラ」

 男は着地するなり、そう言った。
 彼の口元はやはり黒のストールで覆われており目にすることはできないが、それはひどく冷淡な口調だった。
男は『サヨウナラ』と言ったにもかかわらず、その場を一歩もうごかない。
それどころか懐から短剣をとりだした。
…つまりはなのだろう。
 
 「さがってろ、お嬢」

 ゼンはスラリと腰から剣を抜くとアルカティーナをさらに後ろへと追いやった。

 そしてそれを見た男はバカにするように鼻で笑ってから、剣を構えるゼンに短剣を向け…やはり冷淡な口調で呟いた。

 「大人しく死んでくれねぇか?」

 近くに行ったことで分かりましたが、あのキラキラは間違いなくアメルダのものです。
アメルダのお気に入りのオーダーメイドの品で、世界でたった一つしかない髪飾。
そして、アメルダがいつもつけていた髪飾。


 見つからないアメルダとリサーシャ

 ラグドーナ様の最後の一言

 会場の一番端に落ちているアメルダの髪飾
 
 そして、目の前のこの男


 胸騒ぎが止まりません。


 「やだ…なんですか、これ」

 友達が、ゼンが、短剣を向けられているのが、ひどく恐ろしいです。
 ゼンが負けるなんて、思ってません。
わたくしはゼンの剣の腕は確かだと思っています。
ですが…実際に目にすると、やっぱり怖いです。
 だって、目の前で大切な人が傷つけられ、最悪死んでしまう可能性があるんですから。

 それに、嫌な予感が一層増しました。
アメルダとリサーシャが見つからないというのが一番の気がかりなのです。

 でも今はとにかく、ゼンの健闘を祈ることしかできません。

 お願いです、ゼン。

 お願いです、神様。

 わたくしから大切な人を奪わないで…


 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 なんてシリアス回!自分でもびっくり!

 実は、この夜会で起きる事件についての案は二つありました。

 ひとつはこれ。凄くシリアスなやつ。

 もうひとつは、ネタです。
ネタからまさかの大事件勃発!…っていうのを考えてました。

 ボツにしましたけどね!

 当たり前じゃない!

だって、陛下が自分のペットのケセランパサラン(巨大なモンスター)を招待客に披露して、アルカティーナがビックリ仰天!「な、なんですかこれは!」か~ら~の~大事件勃発!!…的な展開、誰が読みたいんでしょうか。
 考えて即ボツりました。

 すみません、例のごとくドウデモイイ話でした。
お読みいただきありがとうございます!

 そして次回もシリアス展開がつづきます!

 どうぞ宜しくです(^^)
 

しおりを挟む
感想 124

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆
恋愛
 一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。  信じられなかった。  母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。  そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。  日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

悪役令嬢のビフォーアフター

すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。 腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ! とりあえずダイエットしなきゃ! そんな中、 あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・ そんな私に新たに出会いが!! 婚約者さん何気に嫉妬してない?

処理中です...