聖なる歌姫は嘘がつけない。

水瀬 こゆき

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出会い編

落ち着いて聞いて欲しい

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 「大方、アンタらの予想通りだと思うぜ?そこのアンタにはさっき言いかけたが、オレの雇い主っつぅか、主人は、ラグドーナ様だ。ラグドーナ様に仕える騎士ってわけさ。因みにオレはジェソーってんだ」

  「あぁ、やっぱり騎士か。アサシンみたいな風貌だから違うかと思ってたが、やっぱりな。お前、動き方が根っからの騎士なんだよ。アサシンは敵に殺気を向けたりしないからな」

 ゼンが何やら納得したようにそう言いました。
と言うか、ジェソーさん騎士さまだったのですか。
騎士さまなら騎士さまらしく、正装でいればよかったのに。
まあそれは一先ず置いておきましょう。
先に大事なことを聞いておかないと。

 「ジェソーさん。貴方はラグドーナ様に言われて、わたくし達を襲ったのですか?」

 「あぁその通りだ」

 「そうですか、ではこの髪飾に心当たりは?」

 わたくしは、落ちていた髪飾を拾うとジェソーさんの前に突きつけました。
 ジェソーさんが潜んでいた木のすぐ下に落ちていたものです。ジェソーさんは何か知っているはず。
そう思って聞きましたが…帰ってきた言葉は、予想外のものでした。

 「いや、それがオレにもわかんねぇんだわ。主人が『アルカティーナ嬢を釣るために』とか言ってワザと置いてったもんなんだけどよ」

 アルカティーナとゼンは、一気に表情を険しくさせた。

 「……ラグドーナ様が?嫌な予感がしますね」

 「あぁ…これはマズイな」

 アメルダの髪飾はオーダーメイド品。
レプリカを作ろうと思っても作れるものではないのです。
 つまり、これは恐らく本物。
その本物をラグドーナ様が所持していたとすると……
 ラグドーナ様がアメルダに何らかの危害を与えたのではないかという考えが真っ先に思いつきます。
 その予想が間違っていて欲しいとは思いますが…それが本当なら、皮肉なことにアメルダとリサーシャが会場中を探しても見つからないことの説明がつくのです。

 「……最後の質問です。ジェソーさん、貴方が先程わたくし達を襲うまでの作戦を教えてください。どうやってここに忍び込んだのか。いつからわたくし達を待ち伏せていたのか。教えてください」
 
 ここは王城。
王城で開かれる夜会の警備が、甘いはずがないのです。
それなのに、ジェソーさんはここに黒尽くめの怪しすぎる格好で当然のように居座っていました。
どうしてそんなことが可能だったのか、興味が湧いたわたくしは聞いてみました。
その作戦が、この髪飾に何か関係があるかもしれない…とも思いながら。

 しかし、それまで調子よく話していたジェソーは、この質問に答えることを渋った。

 「作戦を…?そりゃ言っちゃマズイだろ…。あーー…なぁ、嬢ちゃん。もしオレが答えなくないっつったら、どーするよ?」

 するとアルカティーナはにっこりと笑って、

 「答えさせます」

 そう言い切った。
その笑顔と台詞に恐怖を覚えたジェソーは、若干渋りつつも質問に答え始めたのだった。
 
 

 「まずは忍び込んだ方法だったか?そりゃ、アレだよ。変装したんだよ」

 「変装?」

 「そーそー。ラグドーナ様の命令でな?本物の招待客を装って正面から堂々と入場したわけ」 

 「因みに具体的にはどなたのフリをしたんですか?」

 何となく興味本位で尋ねたのですが、ジェソーさんは思いの外顔を大きく引きつらせました。
 
 「……………だよ」

 「え?何ですって?」

 小声すぎて聞こえなかったので聞き返すと物凄く嫌な顔をされました。なんで?

 でも、今度はちゃんと大きな声で答えてくれました。

 「……ライーナ様だよ、ライーナ様っ!!」

 その瞬間、それまで何故ジェソーさんが言いたくなさそうにしていたのかが、分かってしまいました。
 ライーナ様は、ラグドーナ様のなのです。
 もう一度いいます。
お姉様です。お姉様。
ジェソーさんは、ライーナ様…つまりは女性を装って入場した。
つまり、ジェソーさんは女装して王城に上がったと言うことです。
 ジェソーさんは見た感じ、年頃の青年。
まだまだ将来が楽しみな若い男性です。
そんな方が、女装??

 それって…それって……!

 感極まったアルカティーナは思わず口を覆って叫んだ。

 「かわいそう……っ!!」

 「うるせーーーーーー!やめろっ!オレをそんな目で見るなっ!いいか!オレは化粧なんてしてねぇぞ!ドレスだってきてねぇからな!フリフリキラキラふわふわなドレスなんて、着てねぇんだからな!!だから。だからな……」

 「かわいそう……っ!!」

 「だから、その目をやめろぉっ!!」

 だってだって!あんまりじゃないですか!
いい歳して女装なんて!
しかも、あろうことか変装を気付かれないなんて…!
いくら主人の命とは言え可愛そすぎます!

 「ぅっ…す、すみません。続けてください」

 「あ、あぁ…あれ?どこまで話したか忘れちまった」
 
 そんな時だった。
 何だか破茶滅茶な空気となりつつあったその場所に、突然誰かの声が響いた。

 「アルカティーナ嬢!」

その声の主を目に止めたアルカティーナは、カチーーンと固まった。
見事な金髪に、サファイアを思わせるような美しい青の瞳。目を見張るほどの美貌。
この方は……

 「ぇ……ディ、ディール第一王子殿下?」

 「遅くなってすまない。今回の件、全て我々の不注意が招いたことだ。本当に申し訳ない…!元々こちらが無理を言って出席してもらったと言うのに…」

 そう言うと、殿下はガバリと頭を下げ、後ろに控えている騎士様たちも一斉に頭を下げました。

 いやぁぁぁあ!!
関わりたくなかったのに!
関わりたくなかったのにっ!!
これもゲーム補正ですか?
ゲーム補正許さないっ!!
それに殿下に頭を下げさせるなんて、悪女疑惑の発端になりそうっ!!

 「頭をお上げください!そう安安と下げていい頭ではないでしょう!」

 ほとんど悲鳴のような声で必死に訴えると、漸く皆さんは頭を上げてくださいました。
ほっ……

 「アルカティーナ嬢は正論を言うな。私はまだ未熟者ゆえ、気が回らなかった。重ねて申し訳ない」

 「いえ、そんな…」

 「この者が、例の不審者か?」

 そう言いつつ、ディールはジェソーに目を向けた。

 「はい、そうです」

 首肯するアルカティーナを見ると、すぐに騎士たちはジェソーを捕らえた。

 「アルカティーナ嬢」

 青の瞳は目を逸らしたくなるほど真っ直ぐです。
きっと、誠実な人なんでしょうね。
攻略対象と言うだけで苦手意識を持っていましたが、とても良い方のようです。

 内心少し嬉しく思っていたアルカティーナだったが、その心はすぐに暗転することになる。
それは、ディールの放った言葉が引き金となってのことだった。

 「アルカティーナ嬢。落ち着いて聞いて欲しい」

 「え?は、はい」

 ディールの真剣な表情に、アルカティーナは少し動揺しながらも頷いた。
 

 「アメルダ嬢とリサーシャ嬢と思しき人物が何者かに連れ去られるところを目撃した者がいる」

 
 「……ぇ?」

 

 
 
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