聖なる歌姫は嘘がつけない。

水瀬 こゆき

文字の大きさ
84 / 165
出会い編

こちらこそ、ごめんなさいね?

しおりを挟む
 

 「アルカティーナ様。ここから先は何があるかわかりませんので、私たちの後ろを付いてきてください。ゼン、頼んだぞ」

 「はい、わかりました」

 「了解」

 着いてしまいました、敵の本陣に。
よし、此処からは大人しくしておきましょう。
お力になれそうな時は頑張りますが、そうで無い時は邪魔しないように後ろに下がってましょう。
でも、こんな真正面から乗り込んで大丈夫なんですかね…。
わたくしはてっきり建物の裏とかから侵入するんだと思ってましたよ。

 わたくし達が扉を開けようとしたその時。
案の定というか何というか、門番らしき人に止められました。

 「曲者!誰の許可を得てここに立ち入ろうとしているのだ!!」

 ジョソーさんのお仲間さんでしょうか。格好がまるっきり同じで、黒尽くめです。
皆さん忍者を目指したいお年頃なんですか?
ぎっくり腰には気をつけて下さいね。
あと手裏剣は棒手裏剣と車剣のどちらですか?
是非ともわたくしに教えてください。

 呑気にそんなことを考えていると、周囲から次々と剣を抜く音が聞こえてきました。
見ると、門番の男性はジョソーさん同様短剣を構えています。
それに対して騎士様達は剣を。
あらあら物騒ですね。
…何故かゼンだけ抜刀していないのですが何か理由でもあるのでしょうか。

 チラリと周囲を見渡すとキャア!とか細い悲鳴まで聞こえてきました。
こちらは剣を向け合うわたくし達を見た住民の方のものでした。まあ当然ですよね。
日頃平和な街でこんな光景を見てしまったら。

 と、そこでアルカティーナは事態の深刻さに気がつく。
城での騒動ではゼン対ジョソーさんの1対1だから良かったものの、今回は1人対多数(しかも第一騎士団員)。それも街のど真ん中で。
 これでは目撃した住民たちに無駄な混乱を招くだけでなく、ただの暴行になってしまうかもしれません。

 このままではまずい。
なんとか脱却する方法を考えなくては!
考えろ、考えろ。
考えるのですアルカティーナ!

 元々切れる頭をさらにフル回転させたアルカティーナの脳内には一瞬のうちに様々な考えが浮かび上がった。
そしてほんの数秒後にはある方法を導き出していた。
ラグドーナの最大の弱点はアルカティーナ。
だったらそれを使って釣ればいい。

 「曲者とは随分ですね。…ですが、わたくし達からしてみれば貴方の方がよほど曲者ですよ?」

 言いつつ、一歩、また一歩と前へ歩み出る。
まずは相手を油断させるところからスタート。

そしてアルカティーナの思惑通り、門番の男は狼狽していた。
まさか騎士達の後ろから可憐な少女が現れるとは夢にも思わなかったのだ。
そして、男の狼狽の理由はそれだけには止まらなかった。
 
 「なっ……!あ、貴方は…!!」

 世間で「絶世の美少女」と名高いアルカティーナ・フォン・クレディリアーーーもといラグドーナの未来の婚約者(自称)の特徴と、目の前の少女の特徴がピタリと一致していたのだ。

 未来の婚約者となれば傷つける訳にはいかない。
男は大人しく剣を下へと降ろした。
そして、それを見届けてからアルカティーナは男に見事なカーテシーを披露した。


その際、背後にいる従者に意味深に目配せをするのも忘れずに。


 「わたくし、アルカティーナ・フォン・クレディリアと申しますわ。急ぎラグドーナ様にお伝えください。『貴方との縁談を受理致します』と」
 
 男は大きく目を見開くと、慌てて深々と頭を下げた。

 「!!は、はい!わかりました。直ぐに伝えて参ります!大変失礼致しました!!ごめんなさい!」

 そうして彼はアルカティーナ達に背を向けて駆け出す。
アルカティーナの紡いだ、小さな一言にすらも気がつかないまま…。

 「こちらこそ、?」

 そしてアルカティーナは間髪入れずに従者の名を鋭く呼ぶ。

 「ゼン」

 同時に、アルカティーナの横をゼンが走り去る。
去り際に一言「了解」と残して。
 
 それからはあっという間だった。

 「!?…っっ!ぅ、」

すぐさま門番に追いついたゼンが、男を剣でなぎ倒したのだ。
もちろん剣は抜刀していないままだったので致命傷はひとつもないが、頭に強い打撃を受けたために男は意識を失いその場に崩れ落ちた。

 足元の男を上手く避けながらゼンは門の方を振り返る。

 「これで良いのか、お嬢?」

 それに答える少女の笑顔は満足げ。

 「はい勿論!さっすがゼンです!」

 たった一度の目配せで互いの心を読み取ることが出来るほどに、2人の絆は深まっていた。
 数ヶ月間ほぼ四六時中共に時間を過ごしてきた最強コンビのなせる技は常人に見抜けるものではなかったらしい。

 こうして、アルカティーナ一行は母屋へと侵入したのである。



 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 

 またまた次回予告なるものをば……!

次回、アルカティーナちゃんの見せ場再び!
というかしばらくティーナのターンです。多分。

 てか。書いてから思いましたが、これちゃんと見せ場になってます?なってない気が……うん、考えない考えない!はい考えないぃぃ!

 そしてジョソーさん呼びが定着しつつある主人公。
ヤメタゲテ……!

しおりを挟む
感想 124

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆
恋愛
 一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。  信じられなかった。  母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。  そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。  日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

悪役令嬢のビフォーアフター

すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。 腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ! とりあえずダイエットしなきゃ! そんな中、 あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・ そんな私に新たに出会いが!! 婚約者さん何気に嫉妬してない?

処理中です...