聖なる歌姫は嘘がつけない。

水瀬 こゆき

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出会い編

また明日!

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 時が経つのは早いもので。
わたくしアルカティーナ・フォン・クレディリアはリリアム学園の入学式を明日に控えています。

 「リサーシャと色々相談したはいいですけど、やっぱり不安ですね……」

 「お嬢でも不安になることってあるんだな」

 「むぅ…失礼ですね」

 口を尖らせてみると、ゼンに頭を軽くポンポンされました。ゼンはよく、わたくしの頭を撫でます。
それに慣れつつある自分は甘えたさんなのでしょうか。

 「ま、お嬢なら大丈夫だろ。俺もついてるし」

 「…ですね」

 アルカティーナの護衛役であるゼンは、本来なら二つ上の学年なのだが、アルカティーナに合わせて学年を落として入学することとなっている。
 学園とは言え、危険はないとは言い切れない。
でもそれでも、ゼンがいるというだけでアルカティーナはかなり安心する。慣れというものだろうかと、アルカティーナは思っている。
 
 「そう言えばゼンは勉強出来るほうですか?って、聞くまでもないですね。すみません」

 完璧主義の彼のことだから、出来るに決まっていると聞いてから思った。
リリアム学園に入学するとは言っても、クラスはまだ決まっていないのだ。
クラスはS、A、B、C、Dの5クラス編成で、学力別に上から振り分けられる。その学力判定のテストが明日、入学式の後に行われるのだ。

 「はは、お嬢こそどうなんだ?まぁ聞くまでもないけどな」

 「ふふふ。わたくしから勉強をとったら何も残りませんよ」

 「いや、色々残るだろ」

 何を当たり前のことを、とばかりに答えたゼンにアルカティーナは瞳を潤ませた。
やっぱりわたくしは幸せ者です。
こんな風に言って貰える日が来るなんて。
きっと、前世でもそう言ってくれる人はいたでしょう。でも、それに『私』は気が付かなかった。
わたくしは違う。
気がつくことが、できる。

 未熟だった。
いいえ。今も未熟だと思います。
けれど、ここまで成長できたのは他でもない、みんなのお陰です。
下ばかり見ていたわたくしを引っ張ってくれたから。

 「ゼン。ありがとう」

 色々な感謝を込めて告げたその一言に、ゼンは瞳を瞬かせた。

 「お嬢が……敬語じゃない」

 「珍しいですか?」

 「そりゃもう」

 「そうでしょうねぇ、ふふ…」

 穏やかに微笑む主人の横顔を、ゼンは嬉しそうに眺める。アルカティーナの笑顔が、ゼンは大好きだった。
太陽に照らされていると心地良いのと同じように。

 「ゼン」

 太陽が、ゼンを射抜く。

 「もし…もしも、わたくしが国家反逆罪に問われたりしたら、貴方はどうしますか?」

 「勿論、お嬢について行くが?」

 さも当然のように即答したゼンに、アルカティーナは瞠目する。

 「死ぬかもしれなくても、ですか?」

 「どんな状況であれ、俺はお嬢の味方だろ?」

 アルカティーナは、顔をくしゃりと歪ませた。
嬉しそうに。
悲しそうに。
辛そうに。
困ったように。

 「…なんで?」

 「なんでって…俺がそうしたいからだけど?」

 アルカティーナは静かに呟く。

 「…変な人」

 「お嬢に変って言われた!この世の終わりだな」

 「えぇ!?」

 思わず顔を上げたアルカティーナの目に飛び込んできたのは、ゼンの笑顔だった。
悪戯に成功した子供みたいな笑顔。

 「一生お守りしますよ、お嬢様?」

 久しぶりに聞いた従者モードの口調。
アルカティーナは困ったように微笑んだ。

 「ありがとうございます」

 でも、とアルカティーナは続ける。

 「わたくしが貴方について来て欲しくないといったら、どうするのです?」

 難しい質問に、ゼンは数秒考えたのち答えを出した。

 「ついて行きますよ。嫌がられても」

 「ストーカーですか?」

 「ついて行くだけだろ」

 「ストーカーですよね?」

 「やかましい」

 顔を見合わせて笑いあっていると、侍女がゼンを呼びに来た。どうやらもう就寝の時間のようだ。

 「じゃあお嬢、また明日」

 「はい。また明日!」

 軽く挨拶した後。
背を向けたゼンに、バレないように。
アルカティーナは深々と頭を下げた。

 
 「………ありがとう」

 
 顔を上げたアルカティーナは、幸せそうな笑みを顔いっぱいに浮かべていた。


  ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 これで出会い編は完結となります。
 長かった!長かった!!
お疲れ私!頑張ったね私!

 ここまでお付き合いくださいました皆様。
本当にありがとうございます。

 次回からはいよいよ!
いよいよ学園編がスタートです!
 
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