聖なる歌姫は嘘がつけない。

水瀬 こゆき

文字の大きさ
116 / 165
学園編

ロゼリーナの心境変化

しおりを挟む

 ロゼリーナ・アゼルは驚愕していた。口をポカンと開けたまま、しばらく動くことができなかった。
彼女の視線の先にあるのは掲示板。
クラス分け試験の結果を貼り出した、掲示板である。

 ーーAクラス?この私が、Aクラスですって!?

 
 おかしい。
何かの間違いだと思いたいけれど、結果は結果だ。
でも、わからない。どうしてヒロインたる私がAクラスになっているの?

 ゲームでは、ロゼリーナはSクラスの生徒として入学していたはず。それがどうだろう。
ゲーム補正もかかることなく、ロゼリーナは無様にもAクラスになってしまった。

悔しい。
前世の記憶だってあるし、そうでなくても勉強には自信があったのに…。それなのにAクラスだなんて!

 悔しがっているロゼリーナの耳に、同じく結果を見にやってきた新入生達の会話が飛び込んできた。

 「やっぱり首席はアルカティーナ様かぁ~~」

 「勉強もできるなんて流石だわ!!」

 …アルカティーナ・フォン・クレディリア。
その単語に、ロゼリーナは思わず眉を顰めた。
彼女も多分転生者だろうし、出来ることなら手を組みたい。それに、皆んなからここまで慕われているのだから、まあいい人なんだろう。
でも……やっぱり悔しい。
勉強には自信があったのに。
…というか、Sクラスのレベルが高すぎるのではないかと思えてきた。
私の点数は400点中365点で、9割超えの点数だ。
それでAクラスって、どうよ?
まあ、Aクラスでは私がトップなんだけどね。

 でも、そのすぐ後にロゼリーナはさらに眉を顰めることとなった。
ロゼリーナが、掲示板の一番上…一位のアルカティーナの表示から下へと視線を移していた時のことだ。

 「リサーシャ・キリリア…んーどっかで聞いたことある名前ね。リサーシャ…リサ…リサーシャあ!?」

 危ない危ない、思わず叫んでしまった。
周りから物凄い視線を感じたから、なんとか笑顔で誤魔化しておく。だが、内心ではそれどころではなかった。

 ーーリサーシャ・キリリアが、どうしてSクラスになってるのよ…!?

 リサーシャは、悪役と呼ばれるポジションにいるキャラクターだった。3人いる悪役の中で順位をつけるとしたら、彼女はNo.3ーー1番下だ。
そもそも、彼女は悪役というよりもヒロインの仲間であるという印象の方が強い。
まず、リサーシャというキャラは設定だった。所謂、ホモップルとかカップリングが大好きなキャラである。そんな彼女は、学園の美男子から好意を寄せられるヒロインが許せなかったらしく、嫌がらせ…というよりも邪魔をしてくる。
だが、彼女は物分かりのいい性格で、ヒロインと和解してからは乙女ゲームによく出てくる、サポートキャラというポジションにジョブチェンジする。
だから、悪役というより仲間だと認識されていた。
そもそも、邪魔をしてくる理由が実にしょうもないので、ファンの間では最早『公式も認めるネタキャラ』とまで言われていた。
 初めて敵意を向けられた時の、『私はあなたといちゃつくイケメンを見たいんじゃない!イケメンがイケメンとキャッキャウフフするところを見たいのよっ!』というセリフは今でも忘れられない。

そんなネタキャラが、ゲームではSクラスだったか?
答えは否。
詳しくは覚えていないけれど、少なくともSクラスではなかった。たしかAかBだったはず。
それがどうしてSクラス、しかも5位なんていう上位にいるの??
あ、わかった。彼女もさては転生者ね?
なら話は早い。
相手の方も、自分の立ち位置は分かっているはず。
だったら、ゲーム序盤から早速サポートキャラに転じてもらうことができるかもしれない。
あとはアルカティーナがどうでるかだ。
そして、もう一人の悪役ーーユーリア・ルゼスタ。
彼女もアルカティーナとまではならずとも、結構鬱陶しい悪役だったから、用心しておかないと。


 ◇ ◆ ◇


 一週間後。
私はこの世界の『ゲーム補正』の存在を思い知ることになった。

 「何これ……」

 後ろから聞こえてきた小さな小さな声に、反射的に顔を上げると…。

 「う…わ……」

 風に吹かれながら、ひらひらと舞うピンクの花びら。

ーー綺麗。

 この光景には見覚えがある。
ゲームのオープニングで流れるムービーとそっくりだから、きっとそのシーンだと思う。
こんなところまで再現してくるなんて流石ゲーム。
というか、これは多分ゲーム補正ってやつね。
この花びら、明らかに風で飛んできましたって感じじゃないもの。

ーーそれにしても綺麗だわ。

 ぼんやりしていると、急に視界が真っ黒に染まった。
いや、違う。真っ黒な花びらが、ひらひらと目の前を通り過ぎたのだ。キャラによって、舞う花びらの色が異なっていたから、これは私ではない別のキャラの花びらということになる。
黒は確か…アルカティーナ!!

 バッと後ろを振り返ると、美少女とその後ろに控える美青年が立っていた。
この世界に来て初めて目にしたアルカティーナの姿は、ゲームよりも遥かに可愛かった。
キラキラの陽に照らされて輝く金髪は毛先がクルクルとカールしていて、同色の長い睫毛に縁取られた瞳は桜で染め抜いたみたいな綺麗なピンク。ほっぺたは何もしていなくても桃色に染まっていて、全体的に小柄で可愛らしい美少女だ。

 ーーうわ、生アルカティーナやば…。

 思わずゴクリと喉がなったのは仕方ないと思う。
見ると、周りの人たちも皆んな彼女をチラチラ見てるし、私だけじゃない。皆んなそうなのだ。

 ぼやっとしていると、目の前を金色のふわふわが通り過ぎていった。
靡く髪の毛から物凄くいい香りがした。
何あれ。ちょーかわいい。

 そして、それに続くようにして通り過ぎたのは、アルカティーナとは正反対の色を持つ青年。
艶めく闇色の髪に、海のような穏やかな青の瞳。
細身でありながら洗練された体躯。

 ドクリ、と音がした。

 目の前を通り過ぎてゆく彼から、目が離せない。
通り過ぎた後も、ロゼリーナは暫く立ちすくんでいた。
彼の後ろ姿を、ただただ見つめて。

 心臓が、煩い。
何これ、何これ、何なの…?

 この気持ちは…この、温かい気持ちは…

 一体、何??




 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 ヒロイン様がAクラスになったのは、本来ならBクラスだったはずのリサーシャがSクラスになったからです。こんなところでもリサーシャは邪魔をしてくるんですねぇ。あはは。流石変態(←あまり関係ない)

 さて、皆様お忘れでしょうか。
この小説のジャンルは『恋愛』です。
 『ファンタジー』ではないのです。
信じられない方は見てみてくださいw

 
 
しおりを挟む
感想 124

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆
恋愛
 一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。  信じられなかった。  母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。  そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。  日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

悪役令嬢のビフォーアフター

すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。 腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ! とりあえずダイエットしなきゃ! そんな中、 あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・ そんな私に新たに出会いが!! 婚約者さん何気に嫉妬してない?

処理中です...