127 / 165
学園編
『覚えるべきではない異世界語 〜変態編〜』
しおりを挟む「ねぇ、最近ルデア様が私に『私がロリコンではないと言ったら信じてくれるかい?』って聞いてきたんだけど、二人とも何か言った?別に二人を疑ってるわけじゃないけどねっ」
ガチャッ!
カフェテリアでの優雅なひと時。
コーヒー派か紅茶派かと問われれば断然紅茶派のアルカティーナが選んだのはダージリン。その香り高い紅茶は、口に運ばれることはなく、テーブルクロスに僅かではあるが染みを作った。
「ちょ、ティーナったら大丈夫?」
「どうしたの、ぼーっとして」
慌てて傾いたティーカップを元に戻すと、二人とも心配そうにこちらを見つめてくる。
「すみません、大丈夫です。それよりもそのスクレリズ先生の件、わたくしのせいかもしれません」
それは先日の話。
わたくしは例のあだ名を先生に言ってしまったのです。先生に元気を出してもらいたくて、つい。
「え!?ティーナなの?リサーシャじゃなくて?99.9999%リサーシャだと思ってたわ!あ、別に疑ってた訳じゃないけど!!」
アメルダの言葉にリサーシャはショックを受けたようだ。「私ってそんなにトラブルメーカーポジションなの!?」とアメルダを揺さぶり始めた。
「先日、先生があだ名は良いものだと仰っていたので、先生にもあだ名があるのだということを伝えたくて言ってしまったんです。一部の生徒から『変態ロリコン教師』と呼ばれている、と」
その瞬間、アメルダをガクガク揺さぶっていたリサーシャが物凄い勢いでこちらを振り返った。アメルダの肩を掴んだまま、目を見開いた状態でこちらを見つめてくる。
……凄く怖いのですが、その表情。
「え?マジで?」
「はいマジです」
「本人に『変態ロリコン教師』って言ったの?」
「はい」
「一部の生徒からそう呼ばれてるって?」
「はい」
「それ、一部じゃなくて私だけだけどね」
「まぁ、正確にはそうですね」
リサーシャは項垂れ、「そっかぁ、そうなんだ」とぶつぶつ呟いてから顔を上げた。
その表情は暗いかと思いきや、清々しいほどに明るかった。
「あははははははははははははははは!!!ざまぁ!ざまぁ見ろ!可愛いアメルダを取るから痛い目見るのよバーカ!ふはははは!」
そして遂には高笑いを始めたリサーシャ。
こうして見ると、流石は『悪役令嬢』というか何というか………。
同じ『悪役令嬢』としては少し複雑な気分ですね。
でも、『変態ロリコン教師』と言われたのってそんなに『痛い目』見てますかね?
確かに『変態』は良くないと思いますけど。
まぁリサーシャが嬉しそうなので良しとしましょう。
アルカティーナは気を取り直し、リサーシャに掴まれたままのアメルダに向き合った。
「すみませんアメルダ、わたくしのせいでスクレリズ先生が困っていらしたのでしょう?」
アメルダはぶんぶんと首が千切れんばかりに首を振った。
「違うの!違うのよ!私が言いたかったのはそういうことじゃなくてね?先生、『ロリコン』っていう単語がわからなくてずっと色んな書物を読んで調べていたらしいの。それでね、最近ようやく見つけたんですって」
「見つけたの!?うわぁ、本当にザマァ見ろ!思いきり傷つけばいいわ!」
心底可笑しそうに笑い転げるリサーシャはしかし、ふと思った。
『ロリコン』はこの世界からすると異世界の言葉だ。それが、どうしてこの世界の書物に載っているのか。
嫌な予感がして、リサーシャは同士アルカティーナにヘルプの視線を送ったが、相手はアルカティーナと言う名の天然である。
彼女はリサーシャのヘルプに気がつくことは一切なく、呑気にテーブルクロスの染み抜きをカフェテリアの店長に申し出ていた。
因みにその店長はアルカティーナを見るなり床にひれ伏し、「いえ、そんな雑用を貴方様に押し付けるなど………末代までの恥です!」とアルカティーナの申し出を断っていたが。
「それでね、リサーシャ。私、貴方に聞きたいことがあるんだけど」
言いつつ、リサーシャが取り出したのは一冊の本。その表紙には『覚えるべきではない異世界語 ~変態編~』とあった。
リサーシャは息を飲む。
「中身は見てないけど、ルデア様が言ってたの。『ロリコン』って言う言葉はこの本に載っていたって」
「そう…なんだ。へーぇ…」
声が震えて止まらない。
体が震えて止まらない。
リサーシャはもう一度ヘルプを出したが、アルカティーナは気がつかない。
「ねぇリサーシャ。どうしてリサーシャが、ルデア様でも知らなかったような単語を知ってるの?それも異世界語なんて」
もうダメだ。誤魔化しきれない!
転生者であると言うことは、アメルダには隠し通そうと思っていた。
けれどもう、ダメだ。
覚悟を決めかけたその時。
リサーシャの頭に名案が浮かび上がった。
この場を上手く誤魔化す、名案が。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
次回。
リサーシャ、暴走します。
いつものことだけどね。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない
堀 和三盆
恋愛
一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。
信じられなかった。
母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。
そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。
日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
悪役令嬢のビフォーアフター
すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。
腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ!
とりあえずダイエットしなきゃ!
そんな中、
あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・
そんな私に新たに出会いが!!
婚約者さん何気に嫉妬してない?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる