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学園編

因みにそのあだ名って?

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 「スクレリズ先生!ちょっとさっきの授業でわからないところが……」

 「ああ、それか。それはね………」
 
 廊下を歩いていたアルカティーナは、思わず足を止めて振り返った。そして、目に映った光景に思わず息を詰まらせた。

 あれはヒロイン様とスクレリズ公爵!!
たしかスクレリズ公爵はヒロイン様のクラス、Aクラスの担任だったはず。そうなるとヒロイン様とスクレリズ公爵の接点は意図せずとも多くなるでしょう。それに、ヒロイン様が彼のルートを選ぶ可能性も高くなりそうです。むむ………ヒロイン様には申し訳ないですが、これはアメルダのためにもわたくしが目を光らせておかないと!

 質問が終わった頃を見計らい、アルカティーナは気合を入れてスクレリズ公爵へと近づいた。だが、スクレリズ公爵と目があったところでアルカティーナは混乱し始めた。

 どうしましょう。動いたはいいですが、何と言って話しかけたものか…。
『御機嫌よう』は上から目線な気がしますし、『おい、ちょっとツラ貸せや』はもっとダメ。『やっほー☆』は軽すぎますし…もういっそのこと逆転の発想で『ハッピーニューイヤー』とか言っておくべきですかね?

 「おや、クレディリア君じゃないか。学園にはもう慣れたかい?」

 「あ、はい。お陰様で大分慣れてきました」

 よ、よかった……!
話しかけてきてくれましたよ。
あのままだとわたくしの『ハッピーニューイヤー』という意味のわからない第一声から会話が始まるところでしたからね。

 「それはよかった。クレディリア君も私に質問かな?」

 「あ、いえ。そうではないんです。それにしてもわたくしの顔と名前を覚えてくださっていたなんて、びっくりです」

 スクレリズ公爵はSクラスにも『算数』の授業にやってきます。2日に一度くらいしかない授業ですし、まだ数回しか会ったことはないと思うのですが…さすが教師、と言ったところでしょうか。
 でも、スクレリズ公爵がしたのは歯切れの悪い返事でした。

 「いや、私だって全員は覚えていないよ。でもクレディリア君は……まあ無自覚みたいだし、いいか」

 無自覚?
意味がわからなくて首をかしげると、先生は苦笑しました。

 「私を含め、教師陣で君の顔と名前がわからない者は一人もいないと思うよ」

 えっ!?何で!?!?
わたくし何か問題を起こしましたか?
変なことをした覚えはないのですが!?
え?え??にゃんで!?

 「はは。クレディリア君は面白いね。そう言えば私に何か用があったんじゃないのかな?」

 混乱が顔に出ていたのか、またもや先生に笑われてしましましたが、そうです。
わたくしは何故先生に近づいたのか。
それは、アメルダのため!!
今こそ探りを入れる時です!

 「あの、先生は……」

 「あっティーナいた!何してるのよ。もう授業始まっちゃうよ」

 「リサーシャ!すみません…すぐ戻りますね」

 ああ。言いそびれてしまいました。
折角アメルダのことを聞き出そうと思ったのに、リサーシャったらタイミング悪いですよ。全くもってプンスカです。

 「ティーナ、か。クレディリア君は人気がある上に皆んなから好かれているんだね。あだ名というか、呼び名があるというのは素敵なことだと思うよ」

 そう言って、ふんわりと微笑むスクレリズ先生は、本当に『チャラ男』枠なのでしょうか。そうは見えません。『お色気』枠だというのには頷けますが。
いや、本当に笑っているだけなんでしょうけど、それだけで色気が……。凄いです。
 それにしても、あだ名、ですか。
先生は22歳だったはずですし、13歳のわたくし達があだ名で呼び合っていると微笑ましいものがあるのかもしれませんね。
ま、前世を含めればわたくしの方が断然年上ですけどね!ふっふっふ!
………………年増とかじゃ、ないですよ。

 「先生は、あだ名で呼ばれることはあまりないのですか?」

 「ま、教師だしね。それにこの歳になると本当に親しい人以外はなかなか…」

 成る程…そうかもしれませんね。
でも、それって結構寂しいです。
先生はあだ名を良いものだと思ってらっしゃるのに。あ、でも親しい人が呼んでくれるからいいんですかね?

 だが、何となく。
ほんとうに何となく、ルデアか悲しげに眉を下げたような気がして。
アルカティーナは思わず言ってしまった。

 「大丈夫ですよ先生!先生は一部の生徒からあだ名で呼ばれています!だから元気を出してください!」

 その言葉にルデアは目を丸くする。
生徒が自分のことをあだ名で呼んでいたなんて、これっぽっちもしらなかった。

 「そうなのかい?因みにそのあだ名って?」

 アルカティーナは、朗らかな笑みを浮かべ…

 「えーと、『変態ロリコン教師』だった気がしますよ。あっいけない、急がないと授業が始まっちゃいます!すみません先生、失礼しますね」

 笑顔のまま固まったルデアを置いて、アルカティーナは颯爽と教室へと戻っていった。




 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 
 皆様お気付きでしょうか。
ルデア先生は、『お色気』枠かつ『不憫』枠です。良い人なんですけどね。可哀想にww


 いやぁ~天然って、怖いなー。

 
 
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