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学園編
チルりんの事情
しおりを挟むフディロッドシリュ・ルナド・ゲレッストという長ったらしい名前は、僕の兄の名である。一言に兄とは言っても、実の兄ではない。所謂、異母兄弟と言うやつだった。
年の差は大してなく、2歳差で。
それが、良くなかったのだろう。
僕と兄は王位継承においてライバルという関係にならざるを得なかった。まだ、僕が妾の子で、兄が正妃の子であったなら、そんなことにはならなかっただろう。だが、現実はそう上手くはできておらず、皮肉なことに立場はその逆。僕が正妃の子で、兄が妾の子だった。本来なら正妃の息子が王位を継ぐべきなのだが、第ニ皇子であるというだけで、その理論は崩れた。妾の子でもなんでもいいから、第一皇子を国王の座に据えるべきだという意見は少なくなかった。
王宮に訪れた貴族という貴族から、哀れみの視線を浴びて育った。
可哀想に。
本当なら圧倒的に有利なはずなのに。
妾の兄皇子がいるせいで。
そう言われている気がして、ならなかった。
だが、兄を王にと推す声とは裏腹に、弟であるチルキデンを推す声も多かった。矢張り、正統な血筋が継ぐべきであるということだろう。そして何より、兄フディロッドシリュは愚鈍であった。本人にその自覚が一切ないのがまた、タチが悪い。
そもそも。第一皇子派の貴族は、口では『第一皇子』であるという理由を述べているが、その真意はそこにある。彼らは、フディロッドシリュが愚鈍であるということを知ったうえで、彼を利用しようという腹なのだ。馬鹿な王は、傀儡になりやすい。自分で何をしていいかわからない、何をすべきかわからない。だから、その行動はすべてその下の者が決めることになる。野心家の貴族達にとってそれ程好都合な国王は存在しないだろう。
要するに、第一皇子派は利己的な野心家。
第二皇子派は真っ当な貴族、という訳だ。
しかも、母である正妃と兄の母である側妃はたいへん仲が悪かった。顔を合わせればケンカ、ケンカ、ケンカ。その時の母の表情が怒り心頭といった感じではなく、逆に涼しい顔をしているものだから本当に怖い。まぁ、側妃の方ははいつも顔を真っ赤にしているけれど。
だから、母は僕に厳しかった。
自分が正妃であるというプライドもあったのだろう。絶対に第一皇子に王位を譲ってはならないと、英才教育を施された。
それでも僕が母を嫌いにならなかった理由は、彼女が厳しいながらに沢山の優しさと愛を僕にくれたからだった。
それに僕自身、あんな兄に負けてたまるもんかと息巻いていたから尚更だ。厳しい躾から逃げ出したいと思ったことは、殆ど無い。
はっきり言おう。
僕は兄が嫌いだ。それも、大嫌いだ。
皇子を利用しようと企んでいる愚かな第一皇子派も大嫌いだったが、それに『ま、オレは優秀だからな!』とこれまた愚かな勘違いで返す兄は、もっともっと大嫌いだった。
勉強も出来ない。
礼儀もなってない。
性格もできていない。
常識もない。
そんな兄が嫌いすぎた僕は、徹底的に兄とは真逆の方向へと向かうことにした。
勉強が出来ないらしいと聞いて、それまでも励んでいた勉学に一層身を投じた。
礼儀がなっていないときいて、作法の授業を必死になって受けた。
性格がなっていないと聞いて、できた男になって見せようと意気込んだ。
常識がないと聞いて、常識を養うために頻繁に街へ視察に出るようにした。
一歩間違えれば、ある種のブラコンに見えなくもないが…それは全くの間違いだ。感情のベクトルは、ブラコンとは真逆なのだから。
その延長線上で、僕は知った。
どうやら兄が大の女好きであるらしい、と。
夜会でも宮中でも常に女を侍らせていたから、心当たりは大いにあった。
矢張りそうか、と思ったほどだ。
さて。
この情報を得て、お兄ちゃん大嫌いっ子の僕がどうしたか。
結果は単純。女を大嫌いになった。
夜会でもどこででも、女に対しては取りつく島もないような男を演じた。勿論、『できる男』に見えるような範囲内でではあるが。
だが、誤算があった。
チルキデンは、自分で思っている以上に性格が良すぎたのだ。
そのため、女に冷たく接するたびに自分まで辛くなってしまった。罪悪感で押しつぶされそうになっていた。
そんな時、打開策を見つけた。
見つけてしまったのだ。
ーーそうだ!冷たくして辛い思いをするなら、それを掻き消すくらい誰かに優しくすればいいんだ!!
こうしてチルキデンは、男に異常に優しくーーハタから見ればホモーーするようになったのだ。
フディロッドシリュが女を口説けば、その横でチルキデンは男を口説き。
フディロッドシリュが女をデートに誘えば、チルキデンも男をデートに誘い。
フディロッドシリュが女をナンパすれば、チルキデンは男をナンパした。
そのせいで、チルキデンは裏で渾名をつけられた。でも、流石に王位を狙うものとしては『ホモ皇子』などという不穏なワードを聞き流すことはできず。
かと言って女に優しるすることは出来ず。
結果、婚約者をたてればいいのでは?と。
勿論、仮初めの婚約者だ。
皇子に婚約破棄されてもそのなに傷のつかない都合の良い令嬢はいないものかと探しに探したら……クレディリア嬢を見つけたというわけだ。
と、いうわけで。
僕が男に対して異常に優しかったり、軽かったりするのは仕方のないことなのであって。
決して!断じて!
ホモなどではないのだ。
複雑な事情を語り終えたチルキデンを冷静な瞳で見つめつつ、アルカティーナはボソッと呟いた。
「何にせよ行動は完璧ホモじゃないですか」
「聞こえてるからねクレディリア嬢!?」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
喋ることがないので、今回はみんなに喋ってもらいます。
ティーナ「あら大変」
チルりん「どうしたの?」
ティーナ「チルキ殿下ったら、今回も間違えてますよ?」
チルりん「え?どこが?なにが?」
ティーナ「ほらここ……『そもそも。』じゃなくてーーー…」
リサーシャ「ほ、も、ほ、も!でしょ?」
チルりん「あー!君らの相手もう嫌だ!」
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