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学園編

ちょっとした不治の病で…

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 放課後、生徒会室にいつもはいない人物の姿があった。生徒会のメンバー達は皆緊張した面持ちでその人物を見つめている。

 「それで…考えてくれたかな」

 口火を切ったのはディールだった、
最高学年でないにも関わらず生徒会長を務める彼は部屋の一番奥に位置する1人用ソファに深く腰掛けている。流石は美形というかなんと言うか、座っているだけでも麗しい。

 「はい。わたくしなりに考えさせていただきました」

 ふわふわとした金髪に桃色の瞳の学園のアイドル、アルカティーナは静かに顔を引き締めた。そう、アルカティーナは考えた。
自分なりに、生徒会の誘いを受けるべきか受けないべきか、考えに考えた。

 「で、考えた結果は?」

 「はい。不束ながらそのお話、お受けいたします」

 ややぎこちない笑みを浮かべたアルカティーナに、生徒会員達はどっと沸いた。

 「…!本当か!?」

 「やりましたね殿下」

 「よかったですね」

 「あ、良かったらお茶どうぞ」

 「わ!ありがとうございます」

 差し出されたティーカップをありがたく受け取り、ぺこりと会釈をする。と、頭上からクスリと小さな笑い声がふってきた。

 「そんなに畏まらなくても大丈夫ですよ。お久しぶりですね、アルカティーナ嬢」

 驚いて顔を上げて、あっと声をあげた。

 「ステファラルド様!お久しぶりです」

 王宮で、一度だけ面識のある攻略対象キャラの1人だ。知的で切れ長の赤い瞳には何でも見抜かれそうで少し慄いてしまう。マニュアルには気難しいところがあると書いてあったが、アルカティーナに対しては比較的好印象らしく、優しい。

 「お、何だステファー。面識あったのか」

 「はい。と言っても一度だけですがね」

 「へー…。あ、初めまして。この中では一応俺が一番歳上です」

 「あっはい。ローザス様…ですよね?その節はお世話になりました」

 そう言うと、黒髪を短く切り揃えた青年は驚いたようにアルカティーナを見つめ返してきた。瞬きを繰り返し驚きを隠せない様子のローザスとは正反対に、アルカティーナは当然だとばかりに告げる。

 「あれ…?覚えてらっしゃいませんか?わたくし、二年前の夜会で貴方に助けていただいたアルカティーナと申しまして…えと…」

 「…」

 固まったまま何故か動かない青年に、アルカティーナは思わず息を飲んだ。大慌てで意味もなく手をパタパタと顔の前でふる。

 「あぁっ…!す、すみません覚えてませんよねわたくしのことなんて…!」

 ーーしまった!そうですよね、わたくしが覚えていても相手もわたくしのことを覚えているなんて…そんな都合のいい話がある訳…

 「いえいえいえいえ覚えてます滅茶苦茶覚えてますと言うか俺の方こそ覚えていて下さるとは本当に光栄です」

 ガタッと椅子が倒れるのではないかと思うほど勢いよく立ち上がったローザスに、物凄く嬉しそうな笑顔を向けられてしまった。

 「あ…そ、そうです…か?でも良かったです!覚えてくださっていたのですね!」

 本当にその節はありがとうございました!とローザスの手を取ってブンブンと上下に振るアルカティーナ。されるがまま嬉しそうな笑顔を返すローザス。 彼は、アルカティーナがラグドーナの誘拐事件に巻き込まれた際に助力してくれた騎士だ。

 何だ、この2人も面識ありか。
そんなことを思いつつ2人を黙って見ていたステファラルドだったが、

 「ちょっと待てローザス。お前、治ったのか?」

 というディールの言葉で眉を寄せた。

 「何を仰っているのです殿下。ローザス殿の病はアルカティーナ嬢にのみ無効だということは貴方もご存知でしょう」

 「あ……そう言えばそうだったな。いや、あまりに見慣れない光景だったものですっかり忘れていた」

 気まずげに頭に手をやるディールに、ステファラルドは「まぁお気持ちはわかります」と言いつつため息をつく。だが、ローザスの『病』の正体を知らぬアルカティーナは目を見開いてローザスの手を握る力をぎゅっと強めた。

 「ローザス様…!ご病気なのですか…?」

 顔を真っ青にしてプルプルと震えるアルカティーナの様子を見て、男たちは慌てた。
必死に異を唱えようと首を横に振る。

 「違う、違う。そんな死に至るような病ではなくだな…!」

 「そうですよアルカティーナ嬢。ちょっとした病です」

 それを聞いたアルカティーナは少し安心したようにローザスに再びおずおずと目線を戻す。

 「そう…なのですか?ローザス様」

 「はい、ちょっとした不治の病で…」

 「「ローザスゥーー!!!」」

 「不治の病っ!?!?」と今にも倒れそうなアルカティーナ。ディールとステファラルドはローザスをこれでもかと言うほど睨みつけた。何ということをしてくれたのか、と。
 これに慌てたのはローザスだ。
彼の病は『女性恐怖症』。確かに不治の病ではあるが、今の流れだと誤解を生んでしまったのだろうと弁解を試みた。

 「違うんだアルカティーナ嬢。俺の病はその……死ぬとかそういうものではない」

 「え…?そうなのですか?」

 「あぁ!…じゃなかった、はい!肉体には一切支障のない病です」

 「では、どこに支障をきたすのです?」

 「それはその…」

 『精神だ』と正直に答えようとしていたローザスの元に、鋭い視線がビシビシと突き刺さる。見ると、ディールとステファラルドが人を殺せそうな目つきでローザスを睨んでいた。何事かと思い首を傾げると、ごく自然な動作でステファラルドが近付いてきて耳元に口を寄せた。

 「良いですか。ふわっと比喩的な表現を使って誤魔化しなさい。アルカティーナ嬢に要らぬ心配を負わせては申し訳ありません。ただし、誤解は生まないように!」

 「わ、わかった!」

 ローザスは小さく頷くと、アルカティーナに向き直り、

 「一般的生命体の原理であり根源とされるものに、ですかね」

 良い笑顔でそう告げた。
因みに、これは確かに『精神』の正しい意味といえば正しい意味である。
たしかに『ふわっと』した『比喩的な表現』ではあるが、これでは誤解を生まざるを得ない。案の定、アルカティーナの顔からは血の気が引いていた。

 「そんな…!そんな!ごめんなさい、わたくし無神経にそんなことを聞いてしまって…」

 最早涙目で謝罪を口にしている。

 「違うんだアルカティーナ嬢!俺の病が蝕むのは…」

 「蝕む…!人間の原理かつ根源なるものを蝕む病なのですか…っ!?お医者様、お医者様には行かれたのですか!?」

 ディールとステファラルドは、にっこりと満面の笑みで「ぐわしっ!」と音が聞こえてきそうなほど強く、ローザスの肩を掴み、

 「「ローザス、もう喋るな」」

 と息ぴったりに諌めた。
ローザスは顔を真っ青にさせた。
それは、ディールとステファラルドの黒い笑顔が怖かったというのもある。
しかし、一番の理由は…

 「…ステファーの敬語が崩れた。初めて聞いた。怖い…」

 ステファラルドの口調だったとか何とか。



 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



久しぶりに登場しましたステファラルドとローザスです。覚えてらっしゃいますか?
忘れた!という方。
ご安心を。
作者もスポーーンと忘れてました☆

 と言うことで、生徒会に入ったアルカティーナ。生徒会…廊下を歩くだけで黄色い声の的となるリアじゅ…ゲフンゲフン、人生成功ロードを歩く方々の集団。
うむ、ティーナよ。頑張れ。
 
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